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2020年10月3日
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何でもアリの米大統領選のよりディープな楽しみ方

ニュース・コメンタリー (2020年10月3日)

 アメリカ大統領選挙では「オクトーバー・サプライズ」という言葉がある。11月の選挙の直前の10月に選挙結果を左右するような大きなハプニングが必ずといっていいほど起きるからだ。4年前の選挙では当初優勢とみられていたヒラリー・クリントン候補に対し、投票日の11日前の10月28日に、突如としてFBIが私用サーバー問題で捜査に着手と発表し、クリントン陣営に大打撃を与えたと見られている。それが最終的にクリントンの敗北にどの程度寄与したかは知る術もないが、少なくともプラスにはならなかったことだけはまちがいない。

 今回の大統領選挙では9月下旬まで既に死者が20万人を超えても依然として一向に収束しない新型コロナウイルス感染症の蔓延と、経済の不調が選挙の最大の争点となり支持率でバイデン候補の後塵を拝してきたトランプだったが、9月18日にRBGの頭文字で全米に親しまれてきたリベラル派のシンボル的存在だったルース・ギンズバーグ最高裁判事が死去し、トランプ大統領が早くも26日にはその後任にコテコテの保守派のエイミー・バレット第七巡回区控訴裁判所判事を指名したことで、最高裁における「保守 vs リベラル」論争が再び大統領選挙の争点として前面に押し出されてきた。これは有権者の関心をコロナと経済という現職大統領にとっては不利なテーマから、より保守派の支持を得やすい「人工妊娠中絶」や「銃規制」、「オバマケア(国民皆保険法)廃止」などに向けることに寄与すると見られ、トランプ陣営にとっては有利な材料になると受け止められた。多くの人がこれを、少し早いオクトーバーサプライズと受け止めたわけだ。

 ところが何が起きても不思議ではないのがトランプ時代の特徴だ。バレット氏が指名された翌日の9月27日、ニューヨークタイムズがトランプ大統領が頑なに提出を拒否してきた過去20年に及ぶトランプ大統領個人と関連企業の納税記録を独自に入手したとして、大富豪として知られるトランプ氏が過去10年間、ほとんどまったく連邦所得税を納めていなかったと報じたのだ。

 そこまでで終わっていれば、2020年の大統領選挙はオクトーバーサプライズの代わりに2つのセプテンバーサプライズがあったね、という話で落ち着いていたのかもしれないが、トランプ時代はそう簡単にはいかない。案の定、大変なオクトーバーサプライズが待っていた。10月1日、ホワイトハウスが2日間隠していた大統領の側近中の側近のホープ・ヒックス氏のコロナ感染をブルームバーグニュースがスクープし、大統領も検査を受けたところ陽性が判明。74歳にして身長・体重のデータ上は肥満の部類に入るトランプ氏は、コロナに対しては最大のリスクグループに入る。しかも、トランプ氏がマスクの利用を否定したいたこともあり、トランプ選対の本部長以下、ホワイトハウスのウエストウイング(執務室棟)や選対関係者が軒並み陽性反応を示すという異常事態に陥っている。

 9月25日にバレット氏の最高裁判事指名を発表する記者会見に参列していた、バレット氏の母校のノートルダム大学の学長以下、関係者も軒並み感染しているため、実際の感染は9月25日のあの会見とその前後の会合だった可能性が疑われている。ちなみに判事に指名を受けたバレット氏は既にコロナの感染歴があり、恐らく免疫があるとみられるため、今回も陰性だったが、彼女を承認する上院の司法委員会のメンバーも多数その場に居合わせており、その中にも感染者が多く出る可能性が懸念されている。目下、その多くが検査を受けて、結果待ち状態だというが、大統領選の投票日前に最高裁判事に就任させるために再来週にも予定されている承認のための公聴会が予定通り開けるかどうかも不透明になってしまった。大統領選挙が郵便投票の評価などで揉めた場合、その判断が最高裁に持ち込まれる可能性があり、最高裁の判事の構成は非常に大きな意味を持つ。

 大統領のコロナ感染で当面他のニュースは全て吹き飛んでしまった状態だが、トランプ氏が無事回復してきた場合、ニューヨーク・タイムズの大スクープは大きな意味を持つ可能性がある。なぜならば、それは単にトランプ氏がほとんど税金を納めていなかったことを示しているばかりか、実はなぜ政治とまったく無縁だった大統領が2016年、突如として大統領選挙に出馬したのかを推察する上で重要なヒントを見て取ることができるからだ。トランプ氏は1980年代に父親から相続した数百億もの資産をホテルやカジノなど派手な不動産開発事業に投資したものの、赤字に次ぐ赤字によって約20年でそのすべてを食い潰し2000年頃にはほぼ破産寸前に追い込まれていた。そうした中で起死回生の奇策として打って出たテレビのリアリティショーがばかうけした結果、ロイヤリティなどで再び数百億の資産を手にした様子が、彼の納税記録から見てとることができる。しかもトランプ氏は、2004年から07年までの間、リアリティショー「アプレンティス」のヒットで得た数百億単位の富を、再びゴルフ場やホテル事業などに注ぎ込んだ結果、またその全てを赤字に次ぐ赤字で失い、2016年に大統領選挙に出馬した段階では、ほぼ破産に近い状態にあった。事業が慢性的な赤字だった彼がほとんど税金を納めていないのは、ある意味で当然のことだったのだ。

 今回明らかになったのは、大富豪トランプ氏の税金逃れや脱税の実態などではなく、相続とテレビ番組の大ヒットという、人生において二度、大きなボーナスを得たトランプ氏が、ほぼそれを自身の事業によって食い潰してきた、典型的な穀潰し実業家の失敗の歴史と見ることができる。

 トランプ氏が大統領選挙に勝った時、メラニア夫人は「話が違う」と言って泣いたという話が、暴露本で紹介されていた。トランプ氏が本当は大統領になどなるつもりはなかったという根拠として、これはアメリカではかなり有名な話だが、今回の彼の経済状況と付き合わせてみると、2016年に破産に近い状態にあったトランプ氏にとって大統領選挙出馬というのが、人生3度目のドジョウを狙った行為だった可能性があると見ることができて興味深い。

 大統領の給料は日本円で5000万円にも満たない。ニューヨークタイムズによると、納税記録を見る限りトランプ氏には現在事業で400億円近い債務があり、そのうちの300億円程度はトランプ氏個人保証が入った債務で、しかもその返済期限が2023年~24年に来るという。また最大の債権者はドイツ銀行だそうだ。2023~24年と言えば、もし再選されればまだ大統領の任期中ということになる。

 今回のコロナ感染が選挙にどのように影響するのか。そもそも高齢のトランプ氏は大丈夫なのか。まだ予断は許さないが、何が起きてもおかしくないトランプ時代の大統領選挙。まだまだ新たなオクトーバーサプライズが待っていても、誰も驚かないだろう。

 波瀾万丈の大統領選挙の最新状況を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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