マル激トーク・オン・ディマンド
世界が嗤う日本のM&A
マル激トーク・オン・ディマンド 第369回(2008年04月26日)
世界が嗤う日本のM&A
ゲスト:牧野洋氏(経済ジャーナリスト)
 日本では企業経営者も株主も、M&Aがお嫌いなようだ。今や上場会社の10%がポイズンビルなど何らかの買収防衛策を導入しているという。また、株主も、企業価値をあげてくれる可能性が高い外資企業やファンドを、「ハゲタカ」呼ばわりして忌避する風潮が根強い。
 企業を安く買いたたき、リストラなど容赦ない経営合理化を要求した上で、高く市場で売り抜けるタイプのM&Aが、日本の伝統的な共同体的企業文化とそりがあわず、忌避されるのは分からなくはない。
 しかし、その一方で、買収によって、これまで日本企業の経営陣がさぼってきた経営努力が、株主圧力という形で進むことには、企業の競争力強化という意味で一定の意義があることも間違いない。また、日本の企業が海外では積極的に企業買収を行っておきながら、国内では買収に対して過度に防衛的となっている実態は、日本の市場の不透明さや不公正さの反映をみられることが避けられない。
 確かに近年、外資系の企業やファンドが日本企業の株式を取得して、経営陣に経営の合理化や役員の交代などの圧力をかけるケースが目立ってきてはいるが、とはいえ日本国内のM&Aは世界の実情とは大きな開きがある。
 2005年の日本の対外直接投資は457億ドルで、蘭、仏、英に次いで世界で第4位を誇っているが、海外からの投資対象としては、日本はわずか27億ドルと世界の50位にとどまっている。また、2007年に実施されたM&Aの金額ベースで見ても、日本は世界の2.8%を占めるに過ぎない。こうしたテータをみても、世界のGDPの8〜9%を占める世界第二位の経済大国としては、世界のM&Aの流れに大きく乗り遅れてることは否定できない。
 対外投資と対内投資に20倍もの格差が生じている原因は、日本の市場や企業にそれだけ魅力が無いからに他ならないが、その背景には企業経営に対する日本の経営者の非常識な感覚が大いに関係していると、世界のM&A事情に詳しい牧野洋氏は指摘する。
 牧野氏は、外資系ファンドの多くは、株主として資本主義社会では当たり前の要求をしているに過ぎず、むしろ、日本が、世界の常識とはまったく違った日本独自のルールで企業の経営が行われており、それを株主も、社会も支持してしまっているのが日本の現状だと言う。
 例えば、日本でM&Aが行われる時は、買収金額や企業価値は二の次で、まず企業名や本社所在地などの面子が問題になるなど、株主の利益は完全に蚊帳の外に置かれている。しかし、それに対して、株主から抗議が起きることは稀で、むしろ、多くの株主が自らの利益を損なうような経営選択を支持するほどだと言う。
 また、日本全体で、「儲けを嫌う」ような価値観が支持される風潮があり、裁判所がスティールパートナーズを「濫用的買収者」と認定し、マスコミが外資系ファンドを「ハゲタカ」と呼ぶようなことが、平然と行われている。
 こんな世界の常識からかけ離れた経営を行い、社会がそれを支持する状態が続くようでは、日本は世界の投資家から見放され、孤立する一方だと、牧野氏は大いに懸念をする。
 また、ここに来てM&Aを巡り別の次元の問題が持ち上がっている。外資が日本空港ビルデングやJパワー(電源開発)の株を大量取得したことが明らかになると、政府が安全保障を理由に外資規制に動くというようなことが相次いで起きている。実際に安全保障上の脅威があるのであれば政府が対応しなければならないことは言うまでもないが、ならばなぜそのような企業を上場させたのか。資金調達など上場の旨味だけは享受しておきながら、安全保障を理由に買収のリスクは負わないというようなことが、国際的に通用するだろうか。件のスティールパートナーズも、ブルドックソースの買収防衛策への異議が裁判所に認められず、TOBを諦めざるを得なかった。こうした事例は単に日本の経営者や株主の行動原理が非常識なわけではなく、日本の政府や法制度までが、国際的に異質なものであると受け取られる可能性が高い。
 しかし、その一方で、アングロサクソン的な原理主義的市場原理や株主至上主義を全面的に受け入れ、遅ればせながら日本もM&Aレースに全面参加することが、果たして日本にとって本当に正しい選択なのかどうかについても、今一度考察してみる必要がありそうだ。
 近著「不思議の国のM&A」の著者と、M&Aを通して見えてくる世界の常識と日本の非常識について、議論した。
牧野 洋まきの よう
(経済ジャーナリスト)
1960年東京都生まれ。83年慶応義塾大学経済学部卒業。同年日本経済新聞社入社。88年コロンビア大学ジャーナリズム大学院修了。証券部、チューリヒ支局長、ニューヨーク編集総局、「日経ビジネス」編集委員などを経て、03年より本紙編集委員。07年退社しフリーに。著書に「不思議の国のM&A」、訳書に「ドラッカー 20世紀を生きて」など。
この記事へのコメント

結局、日本企業はM&Aして美味しい所取りをされて、捨てられるのが怖いのだと思う。だから、防衛するのは当たり前だと思う。例えば、アメリカのM&Aの歴史を見ると、インチキ臭いのばっかりだからね。アメリカの資本家達をなかなか信用できないんだよな・・・

無記名 | 2008年05月06日 04:11

町田さんの独自の取材経験に基づいた話などもあり、牧野さんも滑らかな語り口で、ポイントをついた話をしておられたので、聞きやすく、経済番組としては面白かった。
ただ、やはり丸激とは違う番組に感じられてしまう。
どうも議論がややミクロな視点になりがちで、社会全体の方向性の中に個々の問題を位置づけながら、
その文脈でどう解釈していくかという姿勢が希薄になっている。
米国でも、中国や中東からの買収に抵抗していることは周知のことである。
この流れは、世界的に起こっている。
単に日本が閉鎖的でけしからんというだけでなくて、もう少し高い視点から、議論されれば良かったのにと思う。
やはり、番組の方向性や問題意識を形作るのは司会者であるだけに、神保さんに頑張って欲しいと思う次第である。

一言 | 2008年05月04日 14:50

個々の企業風土での問題があるのは良くわかりましたが、日本全体で海外からの投資が流出を下回っている説明としては誤っています。基本的に経常収支と資本収支は足して零になる関係なので(準備高の増減を除いて)、日本みたいに経常収支で黒字の国は資本収支は必ず赤字なのです。だから日本から海外への投資のほうが海外から日本への投資を必ず上回るわけです。これは日本の企業風土とはまったく関係ありません。基本的なマクロ経済を学んでいない人が勝手なことを言っているように見えてしまいます。また個々の企業の問題をまるで日本全体の問題かのように転化してしまうのはまさに合成の誤謬を招く行為ではないでしょうか。

賈雨村 | 2008年05月04日 01:11

日本的買収の問題をなんだか今あるような話をしている牧野とかいうおっさんは痛いですね。ていうか金融屋みたいに論理すり替えをしたがりますね。
株主に責任を持つならなんで介護保険で営利企業が入っているんですか?
公的保険に営利企業が入るなら運営している企業は誰に責任持つわけ?
会社は誰のものか、という議論は世界中でされてるよ。大昔から。日本的な
議論じゃねえよ。
適当な議論するんじゃねえ

無記名 | 2008年05月02日 15:28

町田さんも牧野さんも宮台先生も
本質論がわからないのに表面上のM&Aの議論をひけらかして悦に入っているだけじゃないの。
中国みたって外資受け入れて自国の国民が幸せになってないじゃない。
アンチグローバリズムが主流じゃないからグローバリズムを利用するって…。適当なこと言うなよ。お前ら全員アルバイトで働いてろ

無記名 | 2008年05月02日 15:20

今回に限らずひとつお願いがあります。
よくフリップボードでデータやチャートが示されますが、出所やサンプル数を明示していただけるとより明確性が増すと思います。

ご配慮いただけると幸いです。

k | 2008年05月01日 02:40

大手メディアニュースでは、おきまりのように最後は

「なんとかしてもらいたいモノです」

と深刻な顔で終わりますが、あの台詞こそビデオニュースで度々語られる
「お上におまかせ」
な意識の表れな気がします。

このような市民性の未成熟、といったものが経済問題にもあるというのが興味深かったです。

町田さんの司会も、心地よいテンポで楽しめました。

geko太郎 | 2008年04月29日 08:38

買収しようとしている奴が気に食わない奴だから、金銭的利益はさておき経営から排除するという選択を株主がする事は全くおかしくない。
何が利益かは株主が判断することであって、FTやらWSJは勿論、日経やら裁判所やら霞ヶ関やらの外野がゴチャゴチャ言うことではない。外野には外野の論理が、内野には内野の論理があるはずだし、それぞれの守備範囲でプレーすればいいだけの話だ。
そして、日本人が日本企業に投資せず、日本企業が日本に投資しないのが、運用益を求める資本の論理なのだとすれば、そもそも日本人が日本という国の投資環境(世界からの眼)の事まで気にして投資行動を決めるべきだ等という主張は筋違いであって、国内海外問わず、あらゆる投資案件を選別する眼を日本人ないしは日本(企業)が養った方が、日本の利益になりそうであると言う事が言えるだけだ。
そしてその養われた(或いは今回のゲストが言うところの「未熟な」)選別基準が「グローバルな」基準に一致しているかどうかは結果論に過ぎないし、種々の政治的なプロセスを経て行われる国内の法的規制についても同じ事だ。

共産趣味 | 2008年04月28日 02:48

ceoの報酬さん。

まったく同感です。

ベアアンドスターンズが事実上破綻し、ゴールドマンが買いとった件など、事実上の救済なのに、ジャペインなどと他人を叩いている場合かよ。

日本の既得権益層もしょうもないけど、=グローバル市場の論理が正しいとも限らない。

単純な派閥主義(どっちにつくか?)よりも現実主義で問題を理解しいかないと、ただの不毛な焼け野原。


! | 2008年04月28日 00:58

この手の議論を聞くたびに、「グローバル化に乗り遅れているぞ}とアメリカンスクールの卒業生に、また叱られている印象を受けます。

日本の官僚主導の自己保身的なやり方には、確かに問題がありますが、欧米型の競争原理社会が本当にこの国に馴染むのかを、もう少し考えるべきだと思います。

競争によってのみ研ぎ澄まされていく社会構成は、競争したくない者とっては、とても住みにくい社会であることも忘れてはいけないのではないでしょうか。

Ashro | 2008年04月27日 19:03

今回は町田さんの専門家としての実力、取材の結果が存分に出ていた。

私個人として言わせてもらえば、一般に流れる情報程度しか得られないと感情的反応しかしようがないというのが正直な所だったが、Jパワーにしろ空港にしろ問題点と判断基準が明確にわかった。

地域・血族・終身雇用の企業といった身近な共同体が急速に崩壊していく中で、合理性があるのか無いのかもよくわからないまま「共同体らしきもの」の保全に向かってしまうのは本能的なもので仕方ないことだろう。今回の番組のような合理的でわかり易い「よき説明」が社会に普及しない限り解決に向かわないと思った。

羽間 | 2008年04月27日 04:50

日本のM&Aも変だけど、それ以上に変なのが米国のCEOの報酬だな。業績悪化にもかかわらず、下手な経営手腕にもかかわらず、物凄い報酬を得てるのは何なのだろう?あれ不思議だなー。あんなに報酬をもらってるけど、会社が傾かないのも不思議だなー。

CEOの報酬 | 2008年04月27日 04:14
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