マル激トーク・オン・ディマンド 第466回(2010年03月20日)
なぜわれわれは社会の敵を求めるのか
ゲスト:弘中惇一郎氏(弁護士)
ロス疑惑の三浦和義、薬害エイズの安部英、鈴木宗男から加藤紘一、村上正邦、そして武富士の武井保雄から中森明菜、野村沙知代、叶姉妹、堀江貴文、そして今注目を集めている厚生省の村木厚子元局長。いずれも世間を賑わした著名な事件の主人公ばかりだが、この錚々たるメンバーの代理人を務める一人の弁護士がいる。カミソリ弘中との異名をとる弘中惇一郎氏だ。しかも弘中氏は、あたかも検察とメディアがタッグを組み、社会全体からのバッシングに晒された、いわば「社会の敵(パブリック・エネミー)」のような存在となった彼らに、多くの無罪判決や勝訴をもたらしているのだ。
現在、弘中氏が弁護人を務める人物の一人が、厚労省が絡む郵便制度悪用事件で逮捕・起訴された村木厚子元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長である。人望もあり、事務次官候補の呼び声が高かった村木氏は、健康保険福祉部の企画課長だった2004年、実態のない障害者団体に対して郵便割引制度の適用団体と認める偽の証明書を部下に命じてつくらせたとして、虚偽有印公文書作成・同行使の罪に問われている。
しかし、この公判では、村木氏から指示を受けたとされる部下をはじめ、出廷した証人が次々と捜査段階の供述を覆し、村木氏の事件との関わりを否定するという異例の展開となっている。弘中氏は、村木氏にはそのような不正を働く動機がなく、まことしやかに報じられた政治家からの働きかけも公判で否定されていることを指摘した上で、この事件はそもそも検察が描いた構図に最初から無理があると言い切る。
そもそも今回の事件は、障害者郵便割引制度を悪用し大量のダイレクトメールを発送して不正な利益を得た企業や団体関係者が逮捕・起訴された郵便法違反事件に端を発する。しかし、郵便法違反ではたかだか罰金刑で終わることを面白くないと見た大阪地検特捜部が、政治家と官僚トップを巻き込み、最初からシナリオありきでつくられた事件ではないかと弘中氏は見る。その背景には東京地検特捜部に対するライバル意識、特捜という看板を掲げるが故に、常に特別な事件をあげなければならないという気負いがあるとも指摘する。
しかし、「事件をつくる」のは何も検察に限ったことではない。ロス銃撃事件も薬害エイズ事件もメディア報道が先行し、世論が感情的に吹き上がり、それらに後押しされた捜査当局が追随した事件だった。海外を自由に往来し、ブランド品に高級外車などバブルを先取ったような派手な生活を送る三浦氏、血友病の権威であり、特異な話しぶりや振るまいが高圧的に映る安部氏、聖域とされたマスメディア企業の買収に手を染め、社会規範に対する挑発的な言動がエスタブリッシュメントの反感を買った堀江氏。彼らはいずれも、マスコミや世間から容赦のないバッシングを受けつづけた挙げ句に、刑事訴追まで受けるという経過を辿っている。
特に薬害エイズ事件に関しては、エイズという得体の知れない怖い病気で実際に多くの被害者が出ているという時期に、社会の不安を拭い去るためには、誰かを悪者にして、そこに原因を帰属させることで安心感を得たいという空気が社会全体を覆っていたと弘中氏は言う。
しかし、現実には血液製剤による薬害エイズ問題は世界各国で起きており、海外では誰一人として臨床医の刑事責任など問われていないと弘中氏は言う。日本で安部氏がマスコミ報道や世間から叩かれて起訴されたのは、まさに人々の不安を静めるためのスケープゴートにされたに過ぎないと弘中氏は主張するのだ。
しかし、それにしても最近の日本は、社会の共通の敵を見つけることに甚だ熱心のように見える。まずマスメディアがその先導役を務め、どこからか感情のフックを備えたネタを見つけてくる。そして、さんざん祭を盛り上げた上で、最後は真打ち登場とばかりに検察が現れ、悪者を退治して社会正義を貫徹する。それによって社会は溜飲を下げると同時に安堵感を得る。自由人権協会の代表幹事も務めた弘中氏の戦歴は、単に著名な刑事被告人を弁護してきたというだけでなく、著名人でありなおかつ目立つ存在であるが故に、社会が安心を得るための道具に使われた個人の人権を守ってきた歴史でもある。
その弘中氏は、そうした正義の貫徹にやたらと検察や司直が入ってくる原因として、立法府や政治の機能不全を挙げる。社会の変化に立法システムが対応できず、人々の不全感や不安感が高まる中で、司法が本来の領域を超えて、それを手当する役割まで担うようになっている、あるいはそれを担わざるを得なくなっているというのだ。しかし、本来は立法が果たすべき機能を、逮捕権や公訴権を持った検察や警察が担うようになれば、無理な刑事捜査や人権侵害のリスクを招くことが避けられない。昨今の検察批判は同時に、政治の機能不全にも向けられなければならないということになる。
「社会の敵」を弁護し、有罪率99.9%といわれる日本の刑事裁判において無罪を勝ち取ることで、検察の行き過ぎをチェックしてきた辣腕弁護士の弘中氏と、検察、司法、メディア、そしてそれらを取り巻く社会状況について議論した。
- 東京都青少年健全育成条例が継続審議に
なぜ「非実在青少年」の規制が無理筋なのか
- 保坂展人氏の八ッ場ダム取材報告
隠されたヒ素汚染と公共事業中止の対価
マル激トーク・オン・ディマンド 第458回(2010年01月23日)
検察の捜査について、これだけは言っておきたい
ゲスト:堀江貴文氏(株式会社ライブドア元代表取締役CEO)
マル激トーク・オン・ディマンド 第269回(2006年05月24日)
私が重大犯罪の被告を弁護しなければならない理由
ゲスト:安田好弘氏(弁護士)
マル激トーク・オン・ディマンド 第242回(2005年11月09日)
鈴木宗男は何と戦っているのか
ゲスト:鈴木宗男氏(衆議院議員)
マル激トーク・オン・ディマンド 第16回(2001年06月22日)
報道被害を生むものとは何か
ゲスト:三浦和義氏
弘中 惇一郎ひろなか じゅんいちろう
(弁護士)
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1945年山口県生まれ。68年東京大学法学部卒業。70年弁護士登録。ロス疑惑事件の三浦和義氏、薬害エイズの安部英氏の主任弁護人を務める。現在、2009年7月、虚偽有印公文書作成容疑で逮捕・起訴された村木厚子元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長の主任弁護人に就任。自由人権協会元代表理事。共著に『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』、『刑事裁判と知る権利』など。 |
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この記事へのコメント
無罪判決が、少数の弁護士に一回有るか無いかの状態よりも、一人の弁護士に無罪判決を集中させた方が、「千人の罪人を放免するとも一人の無辜を刑することなかれ」の概念が拡散しないだろうと、検察側が考慮していると思うのは、僕の悪い憶測でしょうか?
パペ |
2010年04月05日 07:18
Nコメについて。
宮台氏の主張に概ね同意なのだが、個人的にはけしからん罪で表現の自由を制限するのは筋が悪いと思う。個人的な考えだが言論表現の自由は、民主主義の多数決主義のもつ欠点に対する言い訳であり、それを"多数"の意志で制限することに疑問を感じるからだ。もしそのような制限がどうしても必要なら、そのような表現を必要とする人々を社会から"排除"する覚悟と責任を以て行うべきだと思う。
匿名 |
2010年04月03日 03:13
2010年3月24日17時20分 asashi.com(朝日新聞)より
「2010年度予算が、24日の参院本会議で民主、社民、国民新の与党3党などの賛成多数で可決、成立した。
一般会計総額は92兆2992億円と過去最大。参院事務局によると、現憲法下で5番目に早い成立だという。
政権の「コンクリートから人へ」の方針に基づき、公共事業費を09年度当初比18.3%減の5兆7731
億円に抑制したのに対し、社会保障費を同9.8%増の27兆2686億円に増やした。
歳入は税収が37兆3960億円と18.9%の大幅減になる一方、新規国債の発行額は44兆3030億円
と過去最大になり、当初予算段階で戦後初めて借金が税収を上回った。 」
→
http://www.youtube.com/watch?v=8K2fpSFL8wM
ふ〜ん
[2010年度予算、成立] |
2010年03月25日 22:10
村木課長(当時)に指示したとされる塩田部長(当時)は、民主党の石井一議員からの口利きを否定している。
ここで驚くべきことに、公判において塩田部長に自民党国会議員(当時)から金を受け取っていた事実が明らかになっている。その議員は先の衆院選で落選している。
さらに面白いことに、公判においては小泉元首相の秘書官、飯島氏の名前も検事から飛び出している。
元々この事件は「石井議員の口利き」が絡んでいるとされ、民主党関連の事件とされてきたが、実態として非常に怪しい。
検察のでっち上げの疑いが濃厚だが、それ以上の闇があると私は思っている。
sekio55 |
2010年03月24日 20:46
古き良き日本を語って今を批判するのは私は大嫌いです。今の人の生活を未来の人が見て「昔は良かったな」なんて思うことだってあるのかも知れませんよ。
当事者である今を生きる青少年とそれを見守る大人が、決断すれば良いだけのことです。宮台さんの「科学的根拠がないこと」「パラメータ次第」というハナシは目から鱗でした。ただし私個人としては、コンビニに置かれたアダルト雑誌には違和感を感じていますし、可愛らしいキャラのアニメには全く興味がありません。そんな需要がどこにあるのか理解できません(笑)
恥ずかしながら、本編を見て初めて弘中氏の存在を知りました。とても参考になりました。
Yoshi Kato |
2010年03月23日 06:45
shnさんのおっしゃる通りだと思います。
それでも、社会が「18歳未満に手を出すのはナシにしよう」って選択をするのなら、せめてズリネタは確保したいもんです。非実在青少年なら、ズリネタにふさわしいと思うんですが。
モグリの自営業 |
2010年03月22日 23:07
今週もよい勉強をさせていただきました。ありがとうございました。
でも、Nコメでの宮台さんのtwitterまんせーな発言はいただけないですね。
確かに「ブログ」同様に面白いシステムであり、一世を風靡しそうな勢いですが、「最先端」とは違うでしょう。
数年くらいのスパンで見ればtwitterはインターネットの代表的なツールの1つに落ち着いていく可能性は高いでしょう。でも、セキュリティやスケーラビリティやビジネスモデルの問題を抱えているので、何度かの変容が必要で、それを乗り越えてユーザーを引っ張り続けられるかがポイントとなると考えます。
なおとけ |
2010年03月22日 22:57
匿名 |
2010年03月22日 13:42
青少年健全育成条例について
祖父が危篤で一族が本家に集まったとき、おんなたちが嫁入り話をしていて、
「東んちのばあちゃんは十六でお嫁に来たんだよ」
「○○んちのばあちゃんは十五だがね」
と話しているのを聴いた記憶があります。昔の人は数え年だから今の十四、十三ですね。
光源氏が紫の上を見初めたのは彼女が八歳のときで、第一婦人としてむかえたのは十二歳のときだと年譜にのっていました。江戸時代なら十二で嫁入はあたりまえだったというし、赤とんぼの歌の三番は十五でねえやは嫁に行きと歌っていますが、これも数え年だから今の十三歳に当たります。初潮と精通を迎えた男女が「自己の性的好奇心を満たす目的で」性生活を始めるのは本来人類の当たり前のすがたのはずだったのでしょう。日本でそれが崩れたのは西欧化が強制されたごく最近のことで、日本人のDNAが変わったわけではありません。潜在的か顕在しているかの差はあれど、ほとんどすべての男性(女性)は十二歳の女性(男性)に欲情することができる遺伝子を持っているはずだし、十二歳の女性(男性)のポルノ写真に性的好奇心を刺激されることがありうるでしょう。西欧化された世界はキリスト教の性抑圧によって健全な性意識を失ってしまいました。彼らは今それに苦しんでいる。光がロリコンならロリコンのほうが当たり前の性意識だったのだと思われます。現今の児童ポルノ禁止法に危惧を感じるのはそのごく普通のDNAを持つ健全な男女が犯罪者もしくは犯罪者予備軍にされてしまうということです。場合によってはほとんどすべての男女が警察の恣意によって取調べを受けることになりかねません。ことは「小児性愛者」だけの問題ではありません。源氏物語絵巻に出てくる女官たちはみんな少女の顔をしています。そのうち源氏物語も禁止されるのでしょうか。誰かが日本を壊そうとしているように思われます。
shn |
2010年03月22日 10:10
私は『ハレンチ学園』の絵柄をプリントしたハンカチを持っていて、生まれて初めてイジメに遭いました<宮台先生。
さて、ご多忙の弘中先生のご登場、スタッフの皆様の労を多としたいと思いました。アポ取り、大変だったでしょう? お疲れさまでした。
パブリック・エネミーたる視点からの番組構成は秀逸だと思われます。すばらしい。
弘中先生は、控訴審から弁護されるケースが多いのではないでしょうか? 番組で列挙されていた刑事事犯においても。
こと、一審の弁護人が情けない。特に国選。目に余りますが如何。弘中先生にお尋ねいたしたく存じました。
またのご登場、期待させ頂きます。
うり |
2010年03月22日 05:35
既存のレールの上を速く走ることのみに価値を見出す社会である限り、検察や河川局などいろいろな問題は起こり続けるだろうなと思いました。「レールを作る人」や「レールを点検する人」を「レールの上を走る人」の上位に置くのが先進国だとすると、日本はまだ途上国なのかもしれません。具体的には取締役とか国会議員とか裁判官のポジションが単なるライン職になっていて異常です。
toyokawa |
2010年03月21日 21:33
米国でさえ大分前から行われているので、コンクリートを剥がす技術が海外に売れるかどうかは、個々の内容によるとは思いますが、例えば、観光地で足を滑らせて年に何人も死傷者が出ても、それは自己責任で、それでも自然のままの方がいいという覚悟があるのか、コンクリートなどで固めて安全な観光地であるべきだと考えるか、皆さんどう考えるのかお聞きしたい。
tip |
2010年03月21日 17:27
シュウ |
2010年03月21日 11:17
インフラをメンテナンスする形の公共事業であれば、自民党の支持団体も取り込めるでしょうね。
将来的にはそのノウハウを海外に売れる可能性も出てくるでしょうし。
保坂さんもなかなか上手いことを考えるなw
ishiatama |
2010年03月21日 11:07
神保・ゆで・太郎 |
2010年03月20日 23:53
無記名 |
2010年03月20日 22:27
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