2007年5月11日
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まやかしの社保庁改革を斬る

岩瀬達哉氏(ジャーナリスト)
マル激トーク・オン・ディマンド 第319回

 天下り禁止法案の今国会見送りが決まった今、安倍政権は何としてでも社会保険庁改革法案だけはこの国会会期中に通したいようだ。元々のもくろみでは、安倍政権は「天下りを禁止し社保庁を解体した政権」としての実績を引っさげて7月の参議院選挙を戦う予定だった。しかし、やはり天下り禁止法案の方は官僚の猛烈な巻き返しにあい、断念せざるを得なくなった。そこで、「社保庁の解体的出直し」はぜひとも必要となった。これで有権者の関心が最も高い「年金問題」に一定の解決をみたかのようなPRが可能になるからだ。
 そこで、不祥事を繰り返す社会保険庁が年金問題の本質であるかのような喧伝を行い、その社保庁を解体し、社保庁職員から公務員の身分を奪うことで、年金問題の本質に切り込んだ内閣としてのイメージを確立しようということのようだ。
 しかし、年金問題を長年取材してきたジャーナリストの岩瀬達哉氏は、今国会に出ている社保庁改革は完全なまやかしであると一刀両断に斬り捨てる。なぜならば、現在日本の年金制度が崩壊の危機にある真の原因は、有権者の年金制度そのものに対する根強い不信感からくる国民年金の4割の未払い問題であり、それは社保庁などというトカゲの尻尾きりでは到底解決することができないものだからだ。
 目下国会で審議中の社保庁改革法案の中で岩瀬氏が最も問題視する点は、仮にこの法案で社保庁が「解体」されたとしても、毎年2000億円近い年金資金の流用は止まらないどころか、むしろこの法案ではそれがよりやりやすくなる可能性のある条項まで潜り込ませていることだ。社保庁は年金の窓口業務を扱っているに過ぎず、そこをいくらいじっても、その大元にある厚労省の年金利権に手を付けない限り、年金の危機的状況は変わらないし、国民の信頼も回復されないと、岩瀬氏は言うのだ。
 しかもこの法案では、民間への業務委託が高らかに謳われている。一見いいことのように聞こえるが、これにより、サービスの低下、社保庁OBの天下り先の増加、個人情報流失のリスク増大などが予想される。この法案は一体何の誰のための改革なのかが実のところ全くわからないような内容になっていると、岩瀬氏は語る。
 更に今回の法改正では、国民年金を支払わない人には国民健康保険証を交付しないことも謳われている。実際は実態の無い形ばかりの信頼回復措置を取り繕う一方で、より強権的な年金の徴収システムを導入しようというのが、この法案の実態だと岩瀬氏は言い切る。
 しかし、こうした強硬策をもってしても、年金の納付率はそう簡単にはあがらない可能性が高い。それは、年金に対する不信感がそれだけ根深いのと同時に、そもそも年金を払えない非正規雇用の労働者や失業者、フリーターなどが急増しているからだ。もともと年金を払うだけの経済力が無い彼らから保険証を奪っても、単に彼らの多くが医者に行けなくなるだけで、年金の納付率は上がらない可能性が高い。
 元々少子高齢化によって年金は厳しい局面にある。しかし、それだけなら、給付と負担のバランスを調整することで、年金制度は維持できるはずだ。ところが日本の場合は、年金に対する不信感があまりにも強いため、とてもではないが、現状のままでの負担増に国民は納得しない。しかも、その不信感の根底にある利権官僚たちによるズブズブの年金流用と数十兆円単位の財投の焦げ付きは今も続いている。どうやら年金問題は、日本問題の全ての要素を包含していると言えそうだ。
 国会で社保庁改革法案審議が淡々と進む中、岩瀬氏とともに、年金問題の現状をあらためて考えた。

岩瀬 達哉いわせ たつや
(ジャーナリスト)
1955年和歌山県生まれ。79年東洋大学文学部卒業後、編集プロダクションを経て、83年からフリーに。04年、『年金大崩壊』、『年金の悲劇 老後の安心はなぜ消えたか』で第26回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に『われ万死に値す―ドキュメント竹下登』、『新聞が面白くない理由』など。 319_iwase
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