2020年08月01日公開

5金映画スペシャル+α

「法外の正義」どころか日本はまず「正義のイロハ」からやり直せ

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1008回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(期限はありません)

ゲスト

1955年島根県生まれ。77年東京大学理学部卒。三井鉱山勤務を経て80年司法試験合格。83年検事任官。東京地検検事、広島地検特別刑事部長、長崎地検次席検事、東京高検検事などを経て、2006年退官。08年郷原総合法律事務所(現郷原総合コンプライアンス法律事務所)を設立。10年法務省「検察の在り方検討会議」委員。著書に『「深層」カルロス・ゴーンとの対話:起訴されれば99%超が有罪となる国で』、『検察崩壊 失われた正義』など。

著書

概要

 5回目の金曜日に普段とはちょっと違う特別企画をお送りする「5金スペシャル」。今回は5金ではお馴染みとなった映画特集にプラスαとして映画のテーマに関連した日本のニュースを一つ取り上げる。

 まず、日本のニュースとしては郷原信郎弁護士をゲストに、菅原一秀前経産相の起訴猶予事件のその後の新たな展開を取り上げた。菅原経産相(当時)が自身の選挙区の有権者に3年間で300万円にのぼる香典などを送っていたことが公選法違反にあたるとして昨年10月に刑事告発されていた事件は6月25日、菅原氏が大臣を辞任するなどして反省しているなどを理由に東京地検特捜部は異例の起訴猶予処分として幕引きを図った。

 犯罪事実を認めながら立件しない大甘の措置自体が、何らかの政治取引の臭いがプンプンするもので大いに物議を醸したが、東京地検はその裏でもっとひどいことをしていた。実は東京地検は菅原氏を告発した一般市民に対して6月15日に告発状に不備があったとの理由で告発状を返戻(へんれい)、つまり差し戻していたのだ。そしてその10日後に起訴猶予処分を決めた。

 何のために東京地検はこんなことをしたのか。それは告発者が起訴猶予処分を不服として検察審査会に申し立てができないようにするためだった。検察審査会法2条2項には、検察審査会への申し立ては告発者しかできないと書かれている。6月15日に告発者の下に告発状が返戻されているため、6月25日に起訴猶予が決まった時点でその市民は告発者ではなかったとことになり、検察審査会に申し立てをする資格を有さないと解することが可能になるからだ。

 それにしても10月に告発状を受け取っておきながら、これまでそれを「受理」とせずに「あずかり」状態にしておいて、処分を決める直前に「返戻」して起訴猶予処分として、検審への申し立ての道を塞いでおくというのは、何と姑息なやり方だろうか。10月に告発を受けてから東京地検特捜部はこの事件を捜査しているが、その捜査は告発に基づくものではなく、あくまで独自捜査だったということになる。何せ、告発状は受理されていなかったのだから。

 しかし、その検察審査会法の一方的な解釈は覆せると考えた郷原弁護士がその告発者と連絡をとり、このたびその代理人として検察審査会への申し立てを行ったところ、無事に受理されたという。

 「検察はいつも自分の都合のいいように法を解釈し、自分たちの解釈こそが正しいという主張がまかり通ることに慣れているため、今回もその通りになると思い込んでいたようだが、そうはいかない」と郷原氏は語る。

 実際、郷原氏が事前に検察審査会事務局に問い合わせたところ、今回のように告発状が返戻された場合でも、告発者の告発に十分な妥当性があれば告発者として認定されるので、検察審査会へ不服申し立てをする資格は認められるとの回答を得たという。

 これで一旦は幕引きが決まったかに見えた菅原氏の事件が、まずは検察審査会の審査を受けることになる。

 それにしても東京地検特捜部はなぜそうまでして、菅原氏を不起訴にしなければならなかったのだろうか。検察審査会に諮られることがそこまでいやだということは、起訴されるべき事件であることを検察が一番わかっていたのではないか。黒川氏の退任と稲田検事総長の勇退、そして林真琴検事総長の就任をめぐる駆け引きのさなかで、検察と官邸の間に一体どのような取引が行われたのか、真相はまだ何も明らかになっていない。

 郷原氏と日本の検察に正義はあるのかを問うた上で、今回の5金映画スペシャルでは真の正義とは何かを問う2本のドイツ映画マルコ・クロイツパイントナー監督による作品『コリーニ事件』(2019年)とファティ・アキン監督による『女は二度決断する』(2017年)に描かれた、法外の正義とは何かを議論した。

 また、三宅唱監督による『呪怨:呪いの家』(2020年)、黒沢清監督による『クリーピー 偽りの隣人』(2016年)、『CURE』(1997年)、原田真人監督による『狗神』をとりあげた。

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