2012年9月1日
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5金スペシャル
本当の世界を描くために映画を創る

園子温氏(映画監督)、寺脇研氏(映画評論家)
マル激トーク・オン・ディマンド 第594回

 5週目の金曜日に特別企画を無料放送でお届けする恒例の5金スペシャル。今回は映画監督の園子温監督と映画評論家の寺脇研氏をゲストに迎え、ドキュメンタリーではなく、創作だからこそ真実を描くことのできる劇映画の可能性に着目した映画特集をお送りする。
 まず取り上げたのは園子温監督の最新作『希望の国』。社会学者の宮台真司が番組中に園監督の作品について、「フィクションではあるが、ものすごい取材をベースに作られている」と表現するように、大震災をきっかけとした原子力発電所の事故によって、避難を余儀なくされた被災地の人々の姿を描いたこの作品は、園監督の現地での入念な取材に基づいて作られたものだった。例えば、予告編で描かれている原発から半径20キロ圏内と設定された境界線によって、庭が分断されてしまったというのも、実際の事例だという。「人の声を取材して、そのまま取り入れることにした」と園監督は話す。
 次に取り上げた『戦争と一人の女』(井上淳一監督)は、寺脇氏が初めてプロデュースを手掛けた作品。ちょうどこの日の対談の直前に、クランクアップしたばかりだったという。同作品では、中国から復員した一人の兵士が、戦争中に自ら行った略奪や強姦のトラウマから逃れられず、帰国してからも強姦の罪を繰り返す姿から、単純に善良ではありきれない人間の性を描く。この作品について、「何十年もかけて勉強したすべてをそこにぶちまけてやっている」と寺脇氏は話す。

 二つの作品に共通するのは、災害や戦争など大きく社会を揺るがす事象が発生したときに、報道やドキュメンタリー作品が描ききれない「下部構造」が、劇映画ならではの手法で表現されていることだ。下部構造を描くということは、例えば、原発の是非を問うという上部構造に対し、その被害を受けた人々が、実際にどのように感じていたかということを示すことだと園氏は言う。「希望の国」では、記憶力の問題を抱えながら、「帰りたい」と繰り返し願う女性が登場する。報道を通して映し出される被災地は、原発に反対する人々を中心に描かれ、他方の立場が描かれない傾向があるが、彼女のようにどちらの主張にも属さず、「まぜっかえす」存在が、単純化しきれない現実の状況をより正確に伝える。劇映画ならではの描写である。 同様に、「戦争と一人の女」も、第二次世界大戦を語る局面で避けられがちな、下部構造である「性」について、臆することなく描くことに挑戦している。
 報道やドキュメンタリーだけでは知ることのできない、本当の世界を見せてくれる2本の劇映画の魅力について、社会学者の宮台真司が園氏、寺脇氏と語り合った。

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    解説:渡辺満久氏(東洋大学社会学部教授)
 
園子温その しおん
(映画監督)
1961年愛知県生まれ。法政大学文学部中退。78年、17歳で詩人デビュー。84年『ラブソング』で映画監督デビュー。85年『俺は園子温だ!』がぴあフィルムフェスティバル入選。主な映画作品に『部屋』、『奇妙なサーカス』、『紀子の食卓』、『愛のむきだし』、『ヒミズ』など。

 

 
寺脇研てらわき けん
(映画評論家)
1952年福岡県生まれ。75年東京大学法学部卒業。同年文部省(現文部科学省)入省。広島県教育委員会教育長、大臣官房審議官、文化庁文化部長などを経て2006年退官。07年より現職。著書に『韓国映画ベスト100 「JSA」から「グエムル」まで』、『ロマンポルノの時代』など。 594_terawaki
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