2015年11月21日
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テロに衝撃を受けた時に考えておきたいこと

ニュース・コメンタリー (2015年11月21日)

 約130人の死者を出したパリの同時多発テロから一週間が過ぎた。今回はレストランやコンサート会場での銃乱射やサッカー・スタジアムでの爆発など、その無差別性に衝撃を受けた人も多かったはずだ。

 ネット上ではフェイスブックのアイコンにトリコロールを彩るなど、フランスとの連帯を表明する人が多く見られた一方で、先進国側がこれまでにはるかに多くのイスラム教徒を殺害してきた歴史を指摘し、フランス側の犠牲を過大に取り上げることへの反発を表明する人も見られた。

 パリのテロ事件に対する反応は様々だが、二つだけはっきりしていることがある。それは、まず一つ目が、テロに対する先進国側の反応はほぼ例外なく、テロの首謀者側が期待したものとなること。そして二つ目が、それが十分にわかっていても、先進国側は報復や過剰反応を避けることができない宿命にあるということだ。

 今回のテロに衝撃を受けたフランスを含む先進国側が、テロ対策を理由に人々の国境間の移動に制約を設けることも、国内のイスラム系住民への取り締まりを強化することも、さらにはISILに対する空爆を拡大することも、まさに今回のテロの首謀者たちが期待していた反応だった。特にイスラム国は、アメリカをはじめとする先進国を戦争に引き込むために、あえて人質の斬首処刑シーンをネット上に公開して見せるなど、常に緊張のエスカレーションを狙った行動をとってきた。大国との緊張のエスカレーションによって、自分たちの存在に対する認知度が上がることを期待しての行動だと考えられている。

 そして、それが痛いほどわかっていても、先進国の政府はこれだけの犠牲を出し、恐怖が蔓延する事態を招いたテロの首謀者たちに対し、国民の応報感情に応えるために何らかの報復をしなければならない立場に置かれている。

 早い話が、これは最初からテロリスト側に圧倒的に有利な戦いなのだ。

 しかし、空爆の強化やテロリストの取り締まりの強化をいくら行っても、問題の本質的な解決にならないことは明らかだ。なぜならば、テロの根幹にはそれを生み出す土壌があり、その土壌を手当てしなければ、仮に激しい空爆によってISILを殲滅することができたとしても、どの土壌から次のテロリストが生まれてくることは必至だし、次に出てくるテロリストはより暴力性や残忍性を増したものになる可能性が高い。

 ある病気に罹った時、とりあえず痛みがある時は西洋医学に基づく痛み止めなどを処方する対処療法はやむを得ないとしても、病気を根治させるためには、長期的に病気の原因に働きかける東洋医学的なアプローチが不可欠になる。

 特にイスラム国の場合、従来のイスラム系テロリストの特徴だったキリスト教国に対する宗教的なルサンチマン(怨念)や貧困に起因した過激思想というよりも、豊かなな先進国で満たされない思いを抱えていた若者たちが大挙してその旗の下に馳せ参じているという特殊性がある。その多くは、少なくとも当初段階ではイスラム教徒でさえない場合が多いといわれる。大国から報復を受けたり大国の政策に影響を与えることでイスラム国の存在感が大きくなればなるほど、不満を抱える若者たちをリクルートしやすくなるという、絶望的なジレンマがある。

 しかも、そうでなくとも先進国には戦争をしたくてしょうがない人たちが、たくさんいる。彼らにとってはテロがもたらす不安ほど、おいしい材料はない。

 これだけ大きなテロが起きてしまった以上、直後の報復や脊髄反射的な反応はある程度まではやむを得ないとしても、できる限り早く平静さを取り戻した上で、根本的な原因への手当てを始める必要がある。

 その際に、われわれが一つ覚えておかなければならないことは、イスラム国が最も忌み嫌い恐れるものが、先進国の豊かで文化的な生活であり、イスラム教徒を含む移民を受け入れる寛容さであり、包摂の精神だということだ。海外の主要メディアには、今回のパリのテロをそうした価値を体現してきた西洋文明への挑戦として受け止め、その挑戦を受けて立つべきであるとする論説が多く見られる。それはヨーロッパが持つ包摂や寛容性を捨て去ることは、ヨーロッパが長い年月をかけて築いてきたイスラム国やテロリストに対する優位性を捨てることになると指摘している。

 21世紀がテロの世紀となることはもはや避けられそうにない。しかし、そのテロにわれわれがどう対応するかによって、この世紀が単なるテロの世紀となるか、テロの挑戦を受けた文明がテロを打ち負かした世紀となるかが変わってくる。

 衝撃的なテロ事件を受けて、今、われわれが考えておかなければならないことは何かを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。 

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