2023年06月24日公開

旧優生保護法下で強制不妊手術を受けた被害者と争う政府の不見識を問う

これほどの不正義を政府は放置し続けるつもりなのか

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概要

 ジャーナリストの神保哲生と迫田朋子がお送りする今回のNコメは、旧優生保護法下で強制的に不妊手術を受けさせられた被害者たちが、冷酷で頑なな政府と司法の壁に阻まれて、しかるべき補償を受けられないでいる問題を取り上げた。

 日本では障がいを持つ人の遺伝子は根を絶つべきであるという、いわゆる「優生思想」に基づく優生保護法なる法律が1948年から96年まで約半世紀の間施行され、その下で約2万5,000人に不妊手術や中絶手術が行われた。そのうち、3分の2にあたる約1万6,000人は本人の同意のないまま手術を受けていた。ちなみに優生保護法から優生条項が削除され母体保護法に改定されたのは1996年の村山政権下でのことだ。

 96年に同法の優生条項が削除されたことを受けて、現在、旧優生保護法下で不妊手術を強いられた被害者38人が、全国12ヵ所の裁判所で国家賠償を求めて争っている。政府は優生政策の過ちは認めており、裁判所も同法の下での不妊手術が基本的人権の侵害にあたり違憲であることを認めている。にもかかわらず、裁判で政府は20年の除斥期間(時効)が過ぎていることを理由に、原告と争っているのだ。また、裁判所の中には6月1日の仙台高裁のように、政府側の主張を認め、原告の訴えそのものを却下するところも多い。また、一審、二審で原告が勝訴したケースでも、政府は控訴、上告を繰り返し、最後まで徹底的に争う姿勢を崩していない。

 しかし、20年の除斥期間を理由に原告と争う政府の姿勢も、それを認めて原告の訴えを却下する裁判所の判断も、あまりにも不正義ではないか。例えば、仙台訴訟の原告で現在77歳の飯塚淳子さん(仮名)は16歳のときに何の説明もないまま診療所に連れていかれ不妊手術を受けた。その後、両親の会話から自分が「妊娠しなくなる手術」を受けたことは耳にしていたことを理由に、仙台高裁の判決は手術から20年で除斥期間が経過しており、飯塚さんは訴える権利を失っているとして、訴えを棄却している。

 しかし、16歳で内容も知らされないまま不妊手術を受けさせられ、その後、どこかの段階で何らかの形で手術のことを知らされていたというだけの理由で、手術後20年が経過した段階で訴えを起こす権利が消滅しているという裁判所の判断は余りに乱暴であり、現実離れしていないか。飯塚さんが国家賠償を求める裁判を提起するためには、少なくとも飯塚さんが受けた手術が、本人の同意なく不妊手術を行うことを認めた優生保護法という国策に基づいて行われたものであり、またその優生保護法という法律が憲法にも違反する不当なものだったことを理解している必要がある。仮に裁判に打って出るとすれば、争う相手が国になるという認識を持てたのは、1996年に優生保護法が改正され、その過ちが公然のものとなって以降のことだ。飯塚さんは1960年代初頭に不妊手術を受けており、裁判所の解釈通りだと1980年代初頭までに飯塚さんが国賠訴訟を提起しなければ、訴えが認められる20年の除斥期間は終了してしまうことになる。

 飯塚さんは今週、日本外国特派員協会で行われた記者会見で、「優生手術は私から幸せな結婚や子どもというささやかな夢をすべて奪いました」「優生手術によって私の人生は狂わされてしまったのです」と、手術が自らの人生に与えた影響の大きさを涙ながらに訴えている。実際、飯塚さんはその後結婚したものの、優生保護法に基づく不妊手術を受けていた事実を夫に明かしたところ、夫には逃げられた上に、様々な健康被害にも悩まされている。まさに、国策によって人生を狂わされたと言えるのではないか。

 裁判所が除斥期間を理由に訴えを棄却したり、またかろうじて下級審で勝利しても国が控訴、上告を繰り返し最高裁まで争う姿勢を崩さないことで、不必要に時間ばかりが経過してしまっている。被害者の多くは高齢で、実際38人の原告のうち、裁判が始まってから既に5人が最終的な裁判の結果を見ることなく他界している。この裁判は時間との競争でもあるのだ。

 飯塚さんが求めている賠償額は3,300万円に過ぎない。人生を狂わされたことの対価としては決して高い金額ではない。しかし、飯塚さんが真に求めているものはおカネではなく、国が過ちを認めて謝罪することだ。明らかな過ちを犯していながらそれを認め謝罪することができなければ、きっとまた同じような過ちを犯すことになる。この問題は、裁判所が血の通わない冷たく杓子定規な判決を繰り返すのがやむを得ないのであれば、政府、つまり岸田政権が政治決断を下せば、一発で解決する。今こそ政府は過去の過ちを認め、しかるべき賠償金を支払うことで、将来同じような過ちを犯すことのない国作りの布石を打つべきだ。一人でも多くの被害者が健在なうちに。

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