2023年07月08日公開

米大学入試のアファーマティブ・アクション違憲判決が意味するもの

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概要

 公民権法が施行された1960年代以降、アメリカの多くの大学では入試において人種を考慮に入れた選抜が行われてきた。これはアファーマティブ・アクション(積極的是正措置)と呼ばれるもので、学業の成績とは別に、主にアフリカ系アメリカ人のような過去に社会的に不利な扱いを受けてきたグループを優先的に合格させることにより、歴史の積み重ねの中で形成されてしまった格差を人為的に是正することを目的としている。

 しかし、6月29日、アメリカ最高裁はハーバード大学とノースカロライナ大学の入学試験で採用されている人種を理由とするアファーマティブ・アクションは法の下の平等を定めた憲法修正第14条に反するとして、違憲判決を下した。

 判決は共和党政権によって指名された多数を占める保守派の判事が、民主党政権が指名したリベラル派判事の反対を押さえて多数決で決したもので、党派性やイデオロギー色が色濃く反映されたものとなった。しかし、この判決によって、過去半世紀にわたり実施されてきた、大学入試において特定の人種グループを優遇することは今後禁止されることになった。

 大学入試におけるアファーマティブ・アクションは、奴隷制やその後の人種隔離政策などによって社会的に不利な立場に追いやられてきた多くのアフリカ系アメリカ人に優先的に高等教育を受ける機会を与える効果を持つ一方で、合格したアフリカ系アメリカ人の受験生より成績が優秀な白人やアジア系のアメリカ人が入試で落とされるという、いわゆる逆差別を生んでいるとの批判に長らく晒されてきた。

 今回、最高裁に持ち込まれた裁判では、原告となった学生団体SFFA(公正な入試を求める学生たち)が主にアジア系アメリカ人を主体とする組織だったため、大学側も奴隷制などの歴史的な経緯を主張せず、人種的多様性が学生にとって利益をもたらすことを主張することで、アファーマティブ・アクションの正当化を主張していた。

 この主張に対し最高裁のロバーツ長官は多数意見の中で、入試における人種項目が憲法修正第14条の平等原則の例外として認められるためには、人種的多様性が学生にもたらす利益が計測可能なものでなければならず、またその制度の目的が達成されたと言えるためにはどの程度の多様性を実現すればいいのかなどの客観的な尺度が必要となると語り、一般論としての多様性のメリットを主張するだけでは法の下の平等原則から逸脱は許されないとした。

 そもそもこの裁判は、白人の特権を守りたいという保守派の思いが反映された高度に政治的、イデオロギー的なものだったことは間違いない。しかし、その一方で、単に複数の人種を大学に入れることで人種的多様化を図れば、他人種に対する理解が進んだり、アメリカが人種の混ざり合う真のメルティング・ポット(人種の坩堝)になれるわけではない。ポットの中でそれぞれの人種が人種ごとに固まるサラダボウルのままでは、アファーマティブ・アクションがいずれは白人からの反発に抗えなくなることは当初からわかっていたことだった。

 しかしその一方で、今後アメリカにおいて白人が少数派になった時、白人がアファーマティブ・アクションによって救われる事例が出てくる可能性も考えると、白人の保守派はアファーマティブ・アクションを否定することで、結果的に未来の自分たちの首を絞めたことになる可能性もある。

 アメリカ社会における分断の深まりと人種問題の複雑さを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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