2022年09月23日公開

結局国葬の何が問題なのか

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ゲスト

1980年神奈川県生まれ。2003年東京大学法学部卒。東京大学大学院法学政治学研究科助手、首都大学東京(現東京都立大学)准教授などを経て、16年首都大学東京教授。著書に『憲法の急所 権利論を組み立てる』、『テレビが伝えない憲法の話』、『憲法学者の思考法』、共著に『むずかしい天皇制』など。

著書

概要

 暗殺された安倍晋三元首相の国葬が来週に迫る中、国内では国葬反対の声が日に日に大きくなっている。各紙の世論調査でも、当初主要メディアの中で唯一賛成が反対を上回っていた読売新聞でさえ、国葬を評価しないとする人が評価する人を大きく上回るようになり、もはや世論の過半が歓迎しない中で元首相の国葬が執り行われることが避けられない異常な事態を迎えている。

 それもこれも事件直後の岸田文雄首相の拙速な決定の根拠を、その後きちんと説明できないところに原因があるが、それもそのはずだ。そもそも今回のような形で決定された「国葬」を法的に正当化することは最初から不可能なのだ。

 岸田首相は安倍首相が暗殺された6日後の7月14日に国葬を実施することを表明し、22日にはそれを閣議決定しているが、なぜ国葬なのかについて首相自身が明確に説明したのは8月10日の記者会見が最初だった。首相はその会見で、自らが決断した国葬について「故人に対する敬意と弔意を国全体として表す行為」と説明していた。

 憲法学者の木村草太東京都立大学教授は、この瞬間に首相がど壺にはまることが決定的になったと解説する。

 ここで首相が使った「国全体」が何を意味するかについて木村氏は、①国民全体、②安倍氏に敬意、弔意を持つ一部の国民、③内閣のメンバー、の3通りの可能性があるが、①であれば思想、良心の自由を定めた憲法19条と、表現の自由を保障する憲法21条に違反することになるのであり得ない。②であれば私的行事に内閣の権限で公金を支出することになり、これもあり得ない。さらに、③だとすれが閣議決定だけで葬儀の実施は可能だが、それはあくまで内閣葬でなければならず、これをもって国葬を名乗ることは許されない、ということになる。

 岸田政権は内閣府設置法の4条3項33号に「国の儀式の事務」との文言があることを根拠に、かなり強引な法解釈で閣議決定のみによる国葬の実施は可能だと強弁しているが、実際はそれ以前に憲法上の問題を避けて通れないと木村氏は語る。

 政府はその後、国葬の位置づけを「故人に対する敬意と弔意をあらわす行為」(9月14日の立憲民主党に対する回答)と変更し、8月10日の首相会見における説明から「国全体として」の文言を削除した上で、安倍元首相の首相としての実績を根拠とする説明を始めたが、これもまた無理筋だと木村氏は言う。他にもノーベル賞受賞者など、生前の功績が大きかった民間人はいくらでもいる。なぜ安倍元首相だけが国葬になるのかを、憲法第14条の平等原則と整合する形で正当化しなければならなくなるからだ。

 国葬への反対論が日に日に強まっていった背景には、岸田首相の説明が曖昧であることに加え、相次いで自民党と旧統一教会との極めて近い関係が明らかになっていったこともあるだろう。しかし、仮にそのような問題が無かったとしても、今回の国葬決定はそもそも法的に無理筋だった。そのため岸田首相は誰もが納得できる説明をできないでいる中で、旧統一教会問題で自民党は曖昧な対応をとり続けた結果が、現在のような国葬への反対が過半を超える事態を生んでいるのだ。

 憲法学者の木村氏に国葬の法的問題を聞いた上で、そのような中での国葬が強行されることが、法治国家としての日本の今後にどのような禍根を残すかなどについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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