2017年6月10日
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共和党はまだトランプを見限ってはいない

ニュース・コメンタリー (2017年6月10日)

 FBIのコミー前長官が6月8日、上院の情報特別委員会の公聴会で、トランプ大統領からロシアゲート疑惑の捜査に手心を加えるよう圧力を受けたと証言したことで、トランプ政権がいよいよ窮地に陥っているとの見方が出てきている。

 公聴会でコミー氏は、トランプ大統領から3度にわたり大統領の側近に対する捜査に手心を加えるよう働きかけを受けたことを明らかにした上で、それを「圧力を受け止めた」と明言した。

 確かにFBI前長官が宣誓下で大統領からの圧力を証言したことは、トランプ政権にとって大きな打撃になることは間違いないだろう。大統領選挙の前にトランプの陣営がロシア政府と共謀して選挙を有利に戦ったとされる「ロシアゲート」については、陣営の幹部がロシア大使らと頻繁に接触したことが明らかになっているが、実際に大統領選挙でトランプ陣営がロシアと共謀していたことを裏付ける証拠は、今のところ何も出てきてない。しかし、大統領が自身の側近の捜査に介入したことが事実だとすれば、それ自体が司法妨害という立派な犯罪を構成することになる。

 1970年代のウォーターゲート事件では、当時のニクソン大統領に対する弾劾の対象となった主な行為は、事件の発端となった民主党全国委員会に対する盗聴ではなく、大統領としてその捜査を妨害した「司法妨害」の罪だった。絶大な権力を持つ大統領の場合、元の事件の如何にかかわらず、捜査を妨害する行為が大きな問題になるのは当然のことだ。

 しかし、トランプ大統領がこの日のコミー証言によって実際に弾劾される可能性が高まったかといえば、まだ時期尚早だろう。なぜならば、上下両院で過半数を握る共和党がトランプ大統領をまだ見限っていないことが、この日の公聴会で明らかになったからだ。

 そもそもこの日の公聴会は、コミー氏がトランプ大統領から圧力を受けたとされるメモを残しており、そのメモの内容がニューヨーク・タイムズによって報じられたことに端を発する。公聴会は実際に大統領からどのような圧力がかかったのかをコミー氏に問うことが第一義的な目的だった。少なくとも、当初はその予定だった。

 しかし、実際に公聴会が始まると共和党の議員たちの多くは、大統領の圧力の有無を追求することよりも、コミー氏が「圧力と感じただけ」ではなかったのかや、「本当に圧力を受けたと感じたのなら、なぜすぐに告発しなかったのか」など、大統領の擁護につながるような質問を連発した。他方、民主党の議員たちは、大統領の圧力の有無を厳しく追及したため、中立性が期待された公聴会は一転、党派制の強い政治イベントのような色彩を浴びてしまった面が少なからずあった。

 共和党にとっては、コミーメモが報道された以上、公聴会にコミー氏を呼んで証言させることは避けられないが、実際の公聴会では大統領の犯罪の有無を明らかにすることよりも、むしろコミー氏側の問題点を指摘することで、政権に対するダメージを和らげようとする姿勢が目立った。

 これだけの疑惑を持たれても、共和党議会はまだトランプ政権を見限っていないのだ。そして、その理由も明らかだ。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストやCNNなどを見ていると、トランプ政権はもはや末期的症状を呈しているかのように見えるが、共和党支持者の間ではトランプ政権の支持率は政権発足以来、一貫して80%を超えている。しかも、ロシアゲートについては、少なくとも現時点ではまだ、トランプ政権とロシアの共謀関係を裏付ける証拠は何もでてきていない。

 共和党の支持者たちがトランプ政権を強く支持する以上、共和党の議員にとってトランプ政権を攻撃することは、あまりにもリスクが大き過ぎるのだ。

 ウォーターゲート事件では、共和党のニクソン政権に対し、上下両院ともに民主党が過半数を握っていた、そのため、弾劾プロセスに入ることが比較的容易だった。ところが、現在は共和党のトランプ政権に対し、上下両院ともに共和党が過半数を握っている。共和党議員の造反がない限り、トランプ大統領の弾劾は無論のこと、議会による本格的な政権の責任追及は期待できない。

 ロシアゲートは現在、特別検察官による独自の捜査が進んでいる。その捜査の結果、トランプ政権とロシアの共謀関係を強く裏付ける証拠が出てこない限り、共和党議会が自党の支持者から手厚い支持を受けるトランプ政権に刃を向けることは考えにくい。

 8日のコミー証言は、これからまだまだ続く長い追求プロセスのほんの入り口に過ぎないと考えるべきだろう。

 強大な権力が集中するアメリカの大統領に犯罪行為の疑いが浮上した時、誰がどのような形で捜査を行うべきなのか、安倍一強と言われる日本の政治との共通点と相違点などを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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