2013年8月10日
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ワシントン・ポスト買収に見る
新聞生き残りへの期待と不安

ニュース・コメンタリ―

 ウォーターゲート事件で有名なアメリカの有力紙ワシントン・ポストが、アマゾンの創業者に売却されたニュースは、ネット時代を迎え苦境に喘ぐ新聞の生き残り策として、期待と懸念が相半ばするものとなった。
 ワシントン・ポスト社は5日、アマゾン創業者で最高経営責任者のジェフ・ベゾス氏に新聞部門を2億5000万ドルで売却すると発表した。
 ワシントン・ポストはアメリカの首都ワシントンのローカル紙で、発行部数も47万部と全米7番目の規模だが、70年代にニクソン大統領を辞任に追い込んだウォータゲート事件をスクープするなど、アメリカで最も権威のある新聞社の一つに数えられる。
 ベゾス氏は個人資産約250億ドルの資産家として知られており、今回ワシントンポストの買収に費やした資金は個人資産の1%にも満たない。
 アメリカでは2000年代以降、新聞社の倒産や廃刊、売却が相次ぎ、シカゴトリビューン、ロサンゼルスタイムズ、ウォールストリート・ジャーナルなどの一流紙が、次々と売りに出されてきた。先週8月3日には、ニューヨーク・タイムズ社が傘下の名門紙ボストン・グローブを7000万ドルでメジャーリーグ球団ボストン・レッドソックスのオーナーでもあるジョン・ヘンリー氏に売却したばかりだった。
 これまでアメリカの地方紙の多くは、実業で財を成した一族が地域への公共的な活動の一環として所有する時代が長く続いてきた。しかしインターネットの台頭で新聞経営が苦境に陥る中、多くの地方紙が廃刊に追い込まれている。
 ブランド価値のある著名な新聞は、ウォールストリートジャーナルがルパート・マードック氏率いるニューズ・コーポレーションのようなメディア企業に買収されたり、今回のワシントン・ポストやボストン・グローブのように個人資産家が買い取るケースが増えている。多くの新聞が廃刊に追い込まれる中で、ワシントンポストが新聞として存続できること自体は幸いと言えるだろう。
 しかし、これまで地域の名士一族の下で公共的な役割を果たすことを使命としてきた新聞が、ニューズ・コーポレーションのような大資本の傘下に入ったり、ベゾス氏のような個人投資家に所有された場合、新聞の編集方針にどのような影響を受けるかは依然として未知数だ。
 イギリスでは、ニューズ・コーポレーション傘下の新聞社「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」で、発行部数を伸ばすためにスキャンダル報道などに力を入れた結果、電話の盗聴などの違法行為が行われていたことが発覚し、大スキャンダルになっている。
 今のところベゾス氏はワシントンポストの従来の編集体制を堅持すると語っているし、今回の買収はあくまでベゾス氏個人によりもので、アマゾン社は直接は関係していない。しかし、氏が現在もアマゾンの創業者兼大株主であり最高経営責任者であることに変わりはない。しかもアマゾンは最近CIAとの6億ドルに及ぶデータのクラウド化プロジェクトを受注している。ぞれ以前にも、政府からの要請を受けてウィキリークスのホスティングを中止するなど、従来のジャーナリズムの基準では政府との距離が近すぎるとの懸念があることは否定できない。

 また、現時点ではアマゾン自体の名前は浮上していないが、グーグル、ヤフーなどのネットサービス企業が、アメリカ政府の諜報活動に協力していたことも、内部告発によって明らかになっている。ワシントン・ポストが再びウォータゲートクラスの情報を嗅ぎ付けた時、当時のベン・ブラッドレー編集長のように「We stand by our reporters(われわれは記者を支える)」ことができるのかが問われる。
 従来のジャーナリズムはネット時代の中で生き残っていくことができるのか。またジャーナリズムが生き残れなかった場合、社会にはどのような影響が出るのか。ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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