2014年8月9日
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もはやネット社会にプライバシーは存在しないのか

ニュース・コメンタリ―

 検索サイトで自分の名前を検索すると、既に自分では忘れていた過去のブログの記事や自分に関する新聞記事のリンクなどが続々と表示される。かと思えば、自分の名前を検索エンジンに入力しようとすると、サジェスト機能で自分の名前の後に自動的に「変態」だの「整形」だのといった全く身に覚えがない単語が表示されたりする。こんな経験のある人は多いのではないか。自分に関する情報が自分の意思に反して流通する状況は何とかならないものかと思われる方もいるだろうが、どうやら今のところそれはどうすることもできないようだ。
 京都に住むある男性が、「ヤフー」で自分の名前を検索すると、自身が過去に有罪判決を受けた犯罪に関する記事を掲載したサイトが検索結果に表示されることは名誉毀損にあたるとして、ヤフーに対して表示の中止と慰謝料の支払いを求めていた裁判で、京都地裁は7日、男性の請求を棄却した。
 判決では検索結果でヤフーは男性の名前が載っているサイトの存在や所在、記載内容の一部を自動的に示しているだけであり、ヤフーが自ら逮捕事実を示しているわけではないと指摘、男性が有罪判決を受けた盗撮事件は「逮捕から一年半程度しか経過しておらず、公共の利害に関する事実」と結論づけた。
 記事へのリンクが表示されることで男性が受ける不利益と、それが削除されることで検索サイトのユーザーが受ける不利益を比較衡量した結果、男性の不利益が明らかに上回るとは言えないという判断だ。
 今年の1月には、やはり検索サイト「グーグル」のサジェスト機能によって、自分の名前を入力した際に犯罪に関連した単語が表示されることを不服として、グーグルに対してサジェスト機能の中の特定の用語の削除を求めていた裁判の控訴審で東京高裁は、男性の訴えを棄却する判決を下している。
 この件は最高裁に上告中なので最終判断は下っていないが、裁判所は同じく男性が数年前から犯罪行為に関与したとする中傷記事の掲載や、サジェスト機能に犯行を連想させる単語が表示されることで男性が受ける不利益が、それを削除することでグーグルや検索サービス利用者が受ける不利益を上回るとはいえないとの判断を下している。
 国内ではこうした判決が相次ぐ一方で、EUではやや方向性が違う判断も下されているようだ。今年5月、スペイン人男性がグーグルに対し、自分の名前を検索すると10年前に自身が関与した不動産競売に関する新聞記事のリンクが掲載されるとして、リンクの削除などを求めていた裁判で、EUの司法裁判所は男性の「忘れられる権利」を認め、男性の訴えを認める判決を下している。
 これまで、過去の犯罪に関する記事は新聞の縮刷版などを遡れば個人名を特定することは可能だったが、それ以外の方法では容易に過去の記事や発言を見つけ出すことはできなかった。しかし、インターネットの普及で、一度ネット上に公開された記事や情報は何年も残り続け、それを見つけ出すことも容易になってしまった。例えば、有罪判決を受けた人がその刑期を終えても、過去の犯罪歴が容易に見つけられるため、再就職などが難しいというような事態が起きているという。
 実際に今回ヤフーの検索結果の削除を求めていた京都の男性も、犯罪に関する記事によって逮捕歴が知られることで再就職に支障が出ると主張していた。
 しかし、インターネット上に蓄積される情報は犯罪歴だけではなく、何年も前にソーシャルサイトに書き込んだ内容や発言といったものまで、事実上永久に残り、自分自身の情報をコントロールすることが難しい状況になっている。
 一方で、7月30日には、アメリカのヒューストンで、グーグルのGmailに児童ポルノの写真を添付してメールを送信した男性が、グーグルからの当局への通報によって逮捕されたことが報じられている。犯罪者が捕まったこと自体は結構なことだが、警察は令状がなければメールの中身を見ることができないのに、グーグルはユーザーとの間で結んだプライバシーポリシーによって、自由にメールの中身を見る権限を持っているという。警察にも委ねられていないプライバシーを侵害する権限をグーグルという私企業がユーザーのメールの中身を監視し、何か問題があれば警察に通報して犯人が逮捕されるというのが、ネット時代のプライバシーの現実なのだ。
 しかし、たとえネット上とは言え、プライバシーの侵害にもやや行きすぎた例が出てきているという。孫が庭のプールで遊ぶ写真をパソコンに保存していた男性が児童ポルノ法違反の疑いで起訴されてしまったり、自宅のwifiを使わせた知り合いのパソコンに児童ポルノ写真が保存されていたために、wifiの持ち主の自宅が家宅捜査を受けるような事例まで起きているというのだ。
 われわれの先人たちが長い年月をかけて築き、また重んじてきた「プライバーシー」や「通信の秘密」といった市民的な価値が、インターネットの登場と、その中で支配的な地位を得た一握りの私企業によって根底から変えられようとしている事態をわれわれはどう受け止めるべきか。
 ネット時代のプライバシーのあり方や忘れられる権利について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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