2014年9月27日
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首長個人が賠償責任を負う基準とは
上原元国立市長に対する請求を却下

ニュース・コメンタリー

 上原公子元国立市長が市長在任中に行った行為に対して、国立市が損害賠償を請求している裁判で、東京地裁は9月25日、請求を棄却する判決を言い渡した。
 この裁判は上原氏が市長だった1999年、不動産デベロッパーの明和地所が国立市の大学通り沿いに地上18階建てのマンションの建設を計画したことに対し、上原市長が景観保持を理由に建設を妨害した結果、マンションが売れ残るなどの損害を受けたことに端を発する。明和地所が国立市に対して行った損害賠償請求が認められ、国立市は2008年に3000万円あまりの賠償金を支払っていた。
 しかし、2009年、国立市在住の市民4人が明和地所に支払った損害賠償金と同額を、国立市が上原市個人に対して請求するよう提訴し、2010年、東京地裁でそれが認められた。
 今回の裁判では、その決定を受けて、国立市が上原氏個人に3000万円あまりを請求していた。
 市長在任中の行政行為に対して、市長個人が市から損害賠償を請求された事例として、全国的に注目されていた。
 国家賠償法は第一条で、公務員が過失によって損害をもたらした場合、国もしくは地方公共団体が賠償責任を負うことが定められている。しかし、その第二項で、公務員自身に故意や重過失が認められる場合、国や公共団体はその公務員に対して損害賠償を請求することができるとしている。
 この件では明和地所に対する国立市の過失は既に確定していたが、高層マンションの建設を阻止するために上原市長が行った行為が、個人に対する請求に値する「故意」や「重過失」に当たるかどうかが争われた。
 しかし、東京地裁の増田稔裁判長は本来の争点とは異なる別の理由で、市の訴えを棄却する判断を下していた。その理由とは、国立市議会が元市長に対する賠償請求権の放棄を議決しているにもかかわらず、現市長がそれに異議を申し立てることもせず、そのまま請求を続けたことが「信義則に反する」という理由だった。
 国立市は2013年、市から上原氏に対する賠償金の請求を放棄する決議を採択していた。
 また、増田裁判長は、判決の直接の理由ではないものの、元市長の行為については、景観保持という政治理念に基づくもので、私的利益も得ていない点を評価した上で、違法性は低いと判断した。
 この判決を受けて国立市は、判決内容を精査した上で、弁護士と相談の上、今後の対応を検討するとしている。
 この裁判は、公務員、とりわけ首長など選挙で選ばれた公務員が、公務の一環として行った行為に対して、個人がどこまで賠償責任を問われるかを争うものとなった。仮に上原氏が敗訴した場合、首長は行政行為を執行する際に、個人としての訴訟リスクまで念頭に置かなければならなくなり、その波及効果や萎縮効果が懸念されていた。
 この日の判決は表面的には上原氏の全面勝訴となったが、本来の争点とは別の理由で市の請求権を否定していることから、高層マンション建設を阻止するために上原氏が行った一連の行為が、国家賠償法が定めるところの「故意」や「重過失」に該当するかどうかについては、明確な判断が下されていないとも読める、やや玉虫色な内容となっている。
 なぜ裁判所は重要な争点の判断を避けたのか。この判決は判例としてどの程度の意味を持つのか。ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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