2023年08月12日公開

土葬を求めるムスリムと地域住民はなぜ対立しているのか

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ゲスト

1981年東京都生まれ。2008年米・ウィテンバーグ大学卒業。11年早稲田大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。東京電力、米ニューヨーク・タイムズ東京支局、日刊まにら新聞などを経て17年より現職。著書に『ルポ 日本の土葬』。

著書

司会

概要

 土葬墓地の建設を求めるムスリムイスラム教徒)の人々とそれに反対する地域住民との対立が、大分県日出町(ひじまち)で起きている。現在も土葬墓地建設の計画は止まったままだ。この問題を取材し、『ルポ 日本の土葬』を書いたジャーナリストの鈴木貫太郎氏に、日出町で今何が起きているのか、また鈴木氏が、日出町で起きていることは日本社会全体で議論すべき問題だと考える理由などを聞いた。

 日本では自治体の許可を得れば、土葬墓地を建設して土葬することができる。大分県別府市に隣接する日出町ではムスリムの団体が土地を確保していた。しかし、実際に墓地を建設するためには条例に基づき住民説明会を開く必要があったところ、説明会を重ねるうちに住民から反対の声が上がり始めた。反対の声は次第に大きくなり、2020年8月には町議会に反対陳情が提出され、議会がこれを採択するに至った。

 鈴木氏は、日出町の事例は多様性の象徴である在日ムスリムとそれに反対する保守的な地元住民という単純な構図だけで見ると、事態を見誤るのではないかと語る。元々墓地建設というのは地域住民から嫌がられる対象だ。しかも、ここで建設しようとしている墓地では、土葬という現在の日本ではほとんどなじみのない埋葬方法が行われる。知らないものに対しては当然抵抗もある。加えて、日出町は「蛇口を捻るとミネラルウォーターが出てくる」と言われるほど水自慢の地域だった。ムスリムの土葬墓地が建設されることによって水質や農作物に影響は出ないのか、また実際に影響は出なくても、風評被害は起きないのかなども、地域住民の懸念材料になっていると鈴木氏は言う。

 ユダヤ教キリスト教イスラム教には、神の力による死後の復活を信じる教義があり、肉体が焼かれてしまうと復活できないと考えられている。とはいえ、日本には日本のやり方があるのだから、日本に住む以上、日本のやり方に従うべきと思いたくなるのはわからなくはないが、火葬が日本の伝統的な文化かというと、必ずしもそうではない。かつては日本にも土葬が広く普及していた。日本全国で火葬が一般的になったのは1970年代以降だ。

 コレラが世界的に流行していた1897年、当時の明治政府は伝染病予防法の中で、伝染病の感染者が亡くなった場合は火葬にしなければならないことを定めた。今日も感染症法には同様の条文がある。そのような経緯から土葬は衛生的に問題があるというイメージが広まり、日本では火葬が一気に広まった。しかし、世界の先進国の多くはキリスト教国ということもあり、今も土葬が主流の国が多い。

 鈴木氏はこの問題の取材を続ける中で、取材のテーマが「どのように死ぬか」から「どのように生きるか」に移っていったという。現世の後に人生があると強く信じているムスリムは、だから今の人生の間にできるだけ聖典の教えに沿って、善いことをして生きたいという思いが強くある。土葬にこだわるのもその延長だ。

 一方、日本の弔いは先祖や土地につながっているという思いが前提にあり、それが土葬の文化を支えていたが、都市部を中心にそうした感覚が希薄化してしまった。鈴木氏はこの問題を通じて、移民政策や多様性の問題にとどまらず、われわれ日本人がどのような社会を作っていきたいのかを考えるきっかけになってほしいと語る。

 『ルポ 日本の土葬』の著者でジャーナリストの鈴木貫太郎氏に神保哲生が聞いた。

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