NHKに再び何が起きているのか
ジャーナリスト、元NHKチーフ・プロデューサー
完全版視聴期間 |
(期限はありません) |
---|
1962年東京都生まれ。87年東京学芸大学教育学部卒業。同年NHKに入局。ETV2001デスク、番組制作局チーフプロデューサーなどを歴任。2005年、ETV2001「戦争をどう裁くか」の自民党幹部からの圧力による番組改変を内部告発。その後、NHK放送文化研究所主任研究員などを経て09年退職し現職。NHK文書開示等請求訴訟原告団事務局長。
かんぽ生命保険が高齢者を騙すような方法で大規模な不正販売を行っていたことを2018年4月、NHKがクローズアップ現代プラスでスクープした。しかし、この報道に対し、元総務事務次官でかんぽ生命保険の販売元である日本郵政の鈴木康雄副社長(当時)がNHK経営委員会に抗議し、抗議を受けた経営委員会が上田会長に厳重注意を与えるという事件があった。しかし、放送法はNHKの経営委員会が放送内容に介入することを禁じており、放送内容を理由とする「会長厳重注意」は放送法違反となる。
ところがNHKは、本来は公表されているはずの経営委員会の議事録を、その時の会合に限って公開しなかった。そこでNHK元職員や市民ら104人が当時の経営委員会の議事録や録音データの開示などを求めてNHKと森下俊三・NHK経営委委員長を提訴した裁判の判決が2月20日に出され、東京地裁はNHKに録音データの開示を命じるとともに、NHKと森下俊三・NHK経営委委員長に計228万円の賠償を支払うよう命じた。
この裁判ではNHK側が経営委員会が2018年10月に会長を厳重注意したときの正式な議事録が存在しないと主張していたが、判決では正式な議事録は存在しなくとも、当時の録音データが保存されているのは明らかだとして、録音データの開示を命じた。NHKは録音データはすでに削除したとしているが、東京地裁はもしそうであるならば、いつ、誰が、誰の指示で削除されたのかを明らかにする挙証責任がNHK側にあると断じた。放送法41条はNHK経営委員長が経営委員会の議事録を作成し公表することを義務づけている。
原告の一人で元NHKチーフプロデューサーの長井暁氏は、今回の判決を画期的だとしながらも、裁判自体が議事録の開示を求める裁判だったため、森下委員長の放送法違反にまで判決で踏み込めなかったことを残念がる。放送法はその第32条で、NHK経営委員は個別の番組の編集に干渉してはならないことを定めている。森下氏はかんぽ不正をめぐる番組に介入したためこの規定に抵触していると原告らは主張してきたが、今回の判決ではそこまでは認定されなかった。
NHKと森下委員長はいずれも控訴する意向を示している。