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2021年06月12日公開

NHKに再び何が起きているのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1053回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2021年09月12日23時59分
(終了しました)

ゲスト

ジャーナリスト、元NHKチーフ・プロデューサー
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1962年東京都生まれ。87年東京学芸大学教育学部卒業。同年NHKに入局。ETV2001デスク、番組制作局チーフ・プロデューサーなどを歴任。2005年、ETV特集「戦争をどう裁くか」(2001年放送)の自民党幹部からの圧力による番組改変を内部告発。その後、NHK放送文化研究所主任研究員などを経て2009年退職。以後、東京大学非常勤講師などを歴任し現在に至る。

概要

 あれから20年の月日が流れた。いわゆるNHK番組改変問題だ。

 これは2001年にNHKが教育テレビ(現Eテレ)で放送を予定していたETV特集「戦争をどう裁くか」の放送内容を事前に知った自民党の安倍晋三中川昭一両議員がNHKの幹部に対して番組の内容に注文を付け、放送直前になってNHKの幹部が現場に番組内容の改変を命じたために現場は大混乱。番組を企画しNHKから制作を受注していた制作会社は、当初の企画意図とまったく異なる番組になってしまうとして改変を拒否し、NHKの現場デスクらも当初、改変に抵抗したために、放送当日になってもまだ番組の編集作業が終わらない異常事態に陥ってしまった。そして、結果的に幹部自らが編集を指揮するという異常な体制の下で番組が番組枠よりも4分も短い、事実上の「放送事故」状態のまま番組は放送されるという前代未聞のできごととなった。

 しかも、その後、企画の対象となった「女性国際戦犯法廷」の主催者が、当初NHKサイドから受けていた説明とまったく異なる番組になったことに対し損害賠償を求めてNHKを提訴するという事態にまで発展し、2008年に最高裁で判決が下るまでこの問題は尾を引くこととなった。裁判自体は最高裁が、放送内容についてはNHK側に決定権があることを認める、NHK勝訴の形で決着している。

 ただし、一連の騒動で露わになったのは、公共放送と銘打ってはいるものの、実際には予算と人事で国会の承認を必要としているため、いざ政権与党の中に放送内容に介入することも辞さない政治家が現れた時、その圧力に対してはあまりにも脆弱なNHKの実態だった。

 言うまでも無いが、政治家が放送の内容に直接介入することは放送法にも、また憲法にも違反する行為だ。しかし、番組改変問題では、安倍、中川両議員の介入が明白であり、両議員もその事実を認めていたにもかかわらず、NHKでは幹部が介入の事実を否定し両議員を護る行動に出たため、主要メディアで両議員の言論への介入の事実を明確に批判したのは朝日新聞のみだった。結果的にそれは「NHK対朝日新聞」という矮小化された構図に落とし込まれてしまった。

 そして今、そのNHKで、番組内容への権力の介入が再び常態化しているという。番組改変問題の際にNHK側の番組デスクとして改変に抵抗し、自民党議員からの圧力を受けたNHK幹部が番組内容を強制的に改変させた事実を内部告発したジャーナリストの長井暁氏は、特にオリンピックに関連してNHKが放送内容を「改変」したり、世論調査の質問内容まで政府に不都合な結果が出ないような内容に変更している事実を指摘した上で、古巣のNHKで20年前の教訓が活かされてないことを非常に残念がる。

 長井氏はNHKは今年1月24日に放送を予定していた「令和未来会議 どうする?何のため?今こそ問う 東京オリンピック・パラリンピック」の収録が、「世論の不安が高まっているこのタイミングがよくない」、「多くの国民が開催への疑念を抱く中、何を伝えても勘ぐられる」などを理由に突然キャンセルになった背景に、その直前にNHKが行ったオリンピックに関する世論調査の結果と、その報じ方に対して、東京五輪大会組織委員会の森喜朗会長(当時)が激怒したという事実があったと語る。

 これは1月13日にNHKが五輪を開催すべきかどうかを問う世論調査の結果を報じる際、38%が中止すべき、39%が延期すべきと回答し、「合わせると77%になった」と報じたことに対し、森会長が「なぜ延期と中止を一緒にして報じるのか」と怒った、という情報が人を介してNHK側に伝えられたというもの。これを受けてNHKは、17日に予定していた「令和未来会議 どうする?何のため?今こそ問う 東京オリンピック・パラリンピック」の収録を急遽中止にしたというのだ。収録を中止するにあたりNHKの経営側が現場に提示した説明が、上記の「世論の不安が・・・・」と「多くの国民が・・・・」の2つだった。

 しかもNHKはその後、森会長の怒りを鎮めるために、こともあろうに継続的に行ってきた世論調査の質問内容まで「改変」していた。1月の調査で「五輪を開催すべきかどうか」を問うていたのに対し、2月の同じ調査では五輪の開催を前提とした上で、「どのような形で開催すべきだと思いますか?」という問いに質問内容を変更し、選択肢から「更に延期すべき」を削除していたのだ。その結果、依然として38%は中止すべきと答えたが、「延期」の選択肢がなかったことから、「過半数は開催に前向き」と言えるような結果を導き出すことに成功している。一体、これのどこが世論調査なのだろうか。

 他にも、菅首相がニュースウオッチ9に生出演した際に、有馬嘉男キャスターから学術会議問題を突っ込まれると、翌日に官邸の幹部からNHKに苦情の連絡が入り、ほどなく有馬氏がキャスターを降板させられたり(NHKは通常の人事異動と説明しているようだが、安倍政権時には似たような状況で国谷裕子氏もクロ現のキャスターを降板させられている)、かんぽ生命保険の不正をスクープしたことに対し元総務事務次官だった日本郵政の鈴木康雄副社長から抗議を受けると、よりによって本来はNHK側に立って外部からの圧力を跳返す防波堤にならなければならないはずのNHKの経営委員長が、NHKの会長に対して厳重注意の処分を科し、この問題をスクープしたNHKが続報の報道を断念せざるを得ない状況に追い込まれるなど、到底常識では考えられないようなことが最近のNHKでは頻発していると長井氏は言う。このような公共性の欠片も感じられない組織のために、われわれは毎月約1300円もの受信料(衛星放送は約2200円)を強制的に負担させられるのだ。

 20年前の番組改変問題の教訓はNHKが真に公益性の高い公共放送としての役割を果たすためには、経営委員の任命制度をより透明性のあるものに改革するなど、党派制を排除する仕組みを導入することが不可欠であるということだったはずだ。しかし、それがうやむやになったまま20年が無駄に過ぎた結果が、昨今のNHKのオリンピック報道であり、かんぽ生命保険不正報道であり、御用世論調査なのだ。今こそ受信料に見合った公共のあり方とそれを支える制度を再確認しない限り、公共放送としてのNHKに未来はない。

 NHKを愛し、公共放送が重要だと考えるが故に16年前、現場から外されることを覚悟の上で身を挺して内部告発を行った長井氏と、今NHKに何が起きているのか、なぜ20年前から状況が変わらないのか、何を変えなければならないのかなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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