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2025年06月14日公開

SNS選挙に踊らされないために

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1262回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2025年09月14日23時59分
(あと92日1時間5分)

ゲスト

1957年山口県生まれ。81年東京大学教養学部卒業。88年東京大学大学院経済学研究科単位取得退学。専門は計量経済学。国際大学GLOCOM助手、コロンビア大学客員研究員、慶應義塾大学経済学部教授などを経て2023年より現職。10年より国際大学GLOCOM主任研究員を兼務。著書に『ネット分断への処方箋』、共著に『ネットは社会を分断しない』など。

著書

概要

 国会は6月22日の会期末を控え、各党とも閉会後に待ち受ける選挙シーズンに向けた臨戦体制に入っている。6月22日に東京都議会議員選挙、7月20日には参議院議員選挙という2つの重要な選挙が予定されているからだ。

 ところで、選挙に関しては近年一つ気になる現象が起きている。SNSを巧みに活用した勢力が、軒並み党勢を拡大しているのだ。アメリカでも2016年の大統領選挙ではFacebook上でケンブリッジ・アナリティカなどが暗躍し選挙結果に影響を及ぼしたことが問題視されたことがあったが、いよいよ日本も本格的なSNS選挙の時代に突入したようにも見える。

 特に2024年はSNS選挙の年だった。7月の東京都知事選で元安芸高田市長の石丸伸二氏が、現職の小池百合子知事には及ばなかったものの、全国的に知名度の高かった蓮舫氏を抑えて堂々2位に入る大健闘をしたのに続き、10月の衆院選では「手取りを増やす」をスローガンに積極的なSNS選挙を展開した国民民主党が、議席を4倍に増やす大躍進を遂げた。そして11月の兵庫県知事選では、パワハラ疑惑で議会から不信任され失職に追い込まれた上に、既存のメディア上では徹底的に叩かれながらSNS選挙に活路を見出した斎藤元彦知事が予想外の再選を果たすなど、SNSが実際の投票行動に大きな影響を与える選挙が相次いだ。

 石丸氏のケースも国民民主党や兵庫県知事選のケースも、投票行動に影響を及ぼしたのはYouTubeで拡散された動画だった。特に、候補者自身や政党が投稿した公式の動画よりも、ネット上に流通する無数の動画の中から第三者がもっともインパクトがありそうな「肝」の部分だけを短く抜き出した、いわゆる「切り抜き動画」が次々と投稿・拡散され、それが有権者の投票行動を大きく左右していたことが後の調査などでわかっている。

 切り抜き動画を作成して投稿する第三者の中には、元々その政治家や政党を支持しているわけではなく、単にアクセスを稼いで収益を得る目的の人も多く含まれていた。彼らは政治に限らず、どんな映像をどのように加工して投稿すればアクセスを稼げるかを熟知していた。また、SNSで拡散された情報は、元々マスメディアに懐疑的で、主たる情報源をネットに求めている若い世代の票の掘り起こしに特に有効だった。

 SNSによって、とりわけ若い世代にとって政治がより身近なものになること自体は良いことかもしれない。しかし、SNSが選挙結果を大きく左右するようになることには大きな問題もある。SNS上では誰でも等しく発言が認められるため、真面目な意見が過激で極端な意見に圧倒され隅に追いやられてしまう傾向が目立つ。また事実関係が怪しい情報も多く流布している。特に選挙については、いざ選挙期間に入ると、公職選挙法によってテレビ新聞といった既存のメディアの選挙報道が厳しく制限されているのに対し、ネットにはほぼ何の規制もないため、投票日直前の選挙情報はほぼネットの独壇場となる。

 また、いわゆる「ネット世論」が実際にはほんの一握りのヘビーユーザーが発火点となって広がっていることも問題だ。計量経済学が専門でネット選挙の現状に詳しい田中辰雄・横浜商科大学商学部教授が2016年に行った調査によると、ネット上のいわゆる「炎上」に参加した人は全インターネットユーザーの0.7%に過ぎなかった。しかし、この0.7%があえて炎上を意図したような過激な投稿を繰り返し、それが拡散されることによってネット世論が作られていく傾向があるという。

 過去1年に11件以上のネット炎上に参加し、51回以上の書き込みをしたことがあるヘビーユーザーを、田中氏は「スーパーセブン」と名付けているが、現状ではネット上で一般ユーザーがスーパーセブンなどの過激な発言を目にしないでも済む仕組みが整備されていない。そのため中庸な意見の持ち主や真面目な議論を期待する人々はネットから退場してしまう傾向がある一方で、特にネットを使い慣れていない人やネット上の極論やネット特有の「煽り」や「釣り」に対して十分な免疫が形成されていない人は、そうした過激な、そして必ずしも正確ではない言説を鵜呑みにして、踊らされやすい傾向にある。選挙においてはそれが民意を歪めてしまうことにもなりかねない。

 ただし、民主主義言論の自由が保障されていることで初めて成り立つものであり、いたずらに言論を規制すべきではないことは言うまでもない。事業者に偽情報の削除を義務付ける法律などが整備されつつあるが、特に政治的な意見などはそもそもそれが偽情報かどうかの判断が難しい場合も多い。

 言論の自由を保障しつつ、ネットによる少数のユーザーの意図的な「炎上商法」に振り回されないために、われわれは何ができるのか。田中氏は、ネット上にメンバーシップ制コミュニティを作ることがネット上の議論の極端化に対する処方箋の1つになると説く。コミュニティではメンバーしか投稿はできないが、誰でも閲覧は可能にすることができる。実際に投稿している人はごくごく少数なのだから、これでほとんどのユーザーのニーズは満たされるはずだ。誰がコミュニティのメンバーになれるかは、それぞれのコミュニティ管理者に権限を委ねる。

 あるコミュニティのメンバーになれなくても、その人は自分で独自のコミュニティを主催することもできるし、コミュニティ外では自由に発言できるので、個人の自由な言論を制約することにはつながらない。ごくごく少数のユーザーの過激な投稿がネット世論を席巻しているところに問題があるので、そうしたスーパーセブン的なユーザーの言説を見ずに、ネット上から有益な情報を入手したり関心のあるテーマの議論に触れたりすることを可能にするような枠組みを作ることは十分に可能なはずだと田中氏は言う。

 SNSは選挙にどのような影響を与えているのか。ネット上の極端な意見に簡単に踊らされないために何が必要なのかなどについて、横浜商科大学商学部教授の田中辰雄氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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