法秩序が崩壊した世界を日本はどう生き抜くか
九州大学名誉教授、放送大学名誉教授
1966年岡山県生まれ。89年筑波大学第一学群人文学類卒業。97年ジョージ・ワシントン大学大学院修士課程修了。99年一橋大学大学院博士課程修了。博士(法学)。専門は国際関係論、安全保障論、アメリカ政治外交。防衛研究所主任研究官などを経て、2006年より拓殖大学海外事情研究所教授。13年より拓殖大学国際学部教授、23年より海外事情研究所所長。LAWSに関する国連専門家会合に日本代表団として参加。共著に『ドローンが変える戦争』、監訳書に『エコノミック・ステイトクラフト』など。
これがAI時代の戦争の新しい形なのか?
アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃は、史上初の本格的なAI戦争として歴史に刻まれることになりそうだ。ロシアによるウクライナ侵攻でもAIは軍事利用されてきたが、その後、ここ数年のAIの目覚ましい進歩を受けて、イラン攻撃では情報分析から標的特定までAIが一体的に活用されたとみられている。そして、その結果として、戦争の形が大きく変わろうとしているというのだ。
AI兵器は、火薬や核兵器に次ぐ「第3の軍事革命」ともいわれるが、その一方で、その非人道性や制御不能リスクはかねてから懸念されてきた。しかし、技術の急速な進歩に法整備が追いついておらず、国際的な規制の枠組みが全くないのが現状だ。
AIの軍事利用に関する国際的な動向に詳しい拓殖大学の佐藤丙午教授は、今回のイラン攻撃では人物の特定や移動経路の予測などにAIが広く使われた可能性が高いと指摘する。実際に複数のイラン政府の幹部、とりわけ革命防衛隊幹部や宗教指導者だけがピンポイントで次々と殺害されたことから、アメリカとイスラエルがイラン内部の情報をかなり緻密に把握した上で攻撃を実行していたとみられている。そして、殺害すべき標的特定の正確性とその所在や行動を詳細に把握するスピードが、これまでのヒューマンインテリジェンスでは到底有り得ないほど迅速だったことから、標的やその所在の特定にAIが使われた可能性が高いと考えられているのだ。
これまで標的を特定したり、その所在を把握したりするためには、地上で活動する情報部員が集めた情報にスパイからもたらされる情報などを加え、更にその上に衛星画像や膨大な量の通信記録や傍受された通信内容などを加えたインテリジェンスを、最後は人間が分析しなければならなかった。しかし、それをAIに行わせれば、人間では何日も、あるいは何カ月もかかる分析が一瞬でできてしまう可能性がある。今回アメリカとイスラエルが開戦直後から宗教指導者と革命防衛隊の幹部だけを根こそぎピンポイントで攻撃し殺害できたのは、このためだと考えられているのだ。
その一方で、AIは人の命を救う側面も持つ。AIを使って標的を特定した上で精密誘導弾などによりピンポイントで標的を攻撃することで、これまでのような無差別な攻撃と比べると、一般市民の犠牲は遥かに小さくて済むのもまた事実だからだ。しかし、そのような形でAIを使った攻撃を認めてしまえば今後、戦争のハードルが下がる懸念もある。これまで、民間人を巻き込み、大勢の兵士が犠牲になるからこそ、戦争は許されないと考えられてきた。しかし、AIによって被害を限定できるのであれば、ある程度戦争は許容されるという話になりかねないからだ。AI兵器は戦争をめぐる倫理の前提そのものを問い直している。
AI兵器をめぐっては、国連で議論が続いている。特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みのもと、LAWS(自律型致死無人兵器システム)の規制について検討が進められているが、明確な国際ルールは確立されていない。そもそもLAWSには決まった定義すらまだないのだが、国際赤十字は「人間の介在なしに、敵を探し、判断して攻撃する兵器システム」としており、こうした理解が主流となっているが、国際的なルールづくりが難航し明確なルールがないまま各国がAI兵器をめぐる競争を進めているのが現状だ。
AI兵器は戦争をどう変えるのか、国際的な規制の議論はどこまで進んでいるのか、日本の役割は何かなどについて、LAWSに関する国連専門家会合にも参加している拓殖大学国際学部教授の佐藤丙午氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。