見逃されてきた「新しいリベラル」の受け皿になるのはどの政党か
北海道大学大学院経済学研究科教授
1978年兵庫県生まれ。2002年東京大学経済学部卒業。09年同大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は日本政治、政界再編。東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、北海学園大学法学部講師、同准教授、教授などを経て25年より現職。著書に『政界再編』、『政党間移動と政党システム』など。
衆議院総選挙の投開票を翌日に控えた日本政治は、大きな転換点を迎える、はずだった。
ところが、各党や主要メディアの情勢調査によれば、与党・自民党が単独過半数を視野に入れる圧勝の勢いだという。その一方で、立憲民主党と公明党が合併して誕生した「中道改革連合」は議席を半減させる見通しだとされる。
中道勢力の結集によって政界再編の狼煙が上がるのではないかという期待は、選挙戦が進むにつれて急速に萎んでいった。結果次第では、過去2回の国政選挙で見られた「自民党の過半数割れ」という流れを受けて、野党再編が一気に進む可能性もあったが、現状はむしろ「自民党一強」時代への回帰が始まっているように見える。
しかし、現在の政党配置は理念や政策ごとにきれいに整理されたものとは言いがたい。自民党の内部には、安倍晋三元首相や高市早苗首相に象徴される保守色の強い潮流と、石破茂元首相や岸田文雄元首相に代表される比較的リベラルな潮流が同居しており、歴史的に見れば別々の政党になっていても不思議ではない構成だ。一方で、野党側も一枚岩ではない。立憲民主党は今回、公明党との合併にあたり、安全保障政策で従来の左派色を抑えた路線を打ち出したが、党内には拙速な路線変更に対する不満が根強く残っているとされる。
理念や政策が整理されないまま政党が編成されていることが、有権者にとって「選びにくい政治」を生んでいるという構造的問題が横たわっている。
政界再編が求められる背景には、現在の政党分布が有権者の政治意識と十分に対応していない可能性がある。昨年のマル激で北海道大学の橋本努教授は、従来の護憲左派とは異なる、穏健で現実志向の「新しいリベラル層」という一大勢力が生まれているが、その受け皿となる政党が存在しない問題を指摘していた。にもかかわらず、日本の政党システムは長年にわたって自民党を中心とした構造から大きく動いていない。
小規模政党の誕生と消滅は繰り返されてきたものの、結果として政権交代に結びつくほどの大きな再編には至らなかった理由について、政界再編を専門とする山本健太郎・國學院大學教授は「政党の内部統合の文化」の差を指摘する。自民党では、意見の違いがあっても最終的な意思決定には従うという慣行が長年かけて形成されてきた。一方、野党側では意思決定プロセスが安定せず、対立が生じるたびに分裂と再編を繰り返してきた。党内に路線対立を抱えていても、重要な局面で一枚岩になれる自民党と、新進党や民主党との大きな違いがそこにあると山本氏は言う。
また、中道改革連合が伸び悩んでいる理由について、山本氏は、立憲民主党が長年背負ってきた「政権担当能力がない」というイメージの影響を挙げる。与党経験の長い公明党と合併することで政権担当能力を示す狙いもあったが、有権者の受け止めは必ずしもその狙い通りにはならなかった可能性が大きい。
そもそも「政権担当能力」という言葉自体、明確な定義を持たない曖昧な概念であり、有権者の印象に大きく左右される。政治的な実績や政策の具体性よりも、「与党らしく見えるかどうか」というイメージが選挙結果を左右している側面も否定できない。
政界再編が進まない背景には、選挙制度の問題も大きく関わっている。1994年の選挙制度改革により導入された小選挙区比例代表並立制は、「大きな政党でなければ小選挙区では勝てない」という圧力を生み出した。その結果、1994年末には新進党という大規模野党が誕生したが、短期間で崩壊。その後の民主党政権も3年余りで終焉を迎えた。
現在、小選挙区制の下では、与党と野党第一党が連立を組むような大胆な再編は現実的ではない。実際、自民党と日本維新の会の連立合意文書には「中選挙区制の導入を含めた検討」が明記されており、国会の選挙制度協議会でも制度改革が議論されている。とりわけ現在超党派で議論されている「中選挙区連記制」は、1選挙区から複数人を選出し、有権者が複数候補に投票できる制度として注目を集めている。しかし、山本氏は、選挙制度改革には本来、明確な政治哲学が必要であるにもかかわらず、現状では各党が「自党に有利な制度」を求めているように見える点を問題視する。また、中選挙区連記制は、異なる政党の候補に投票する有権者が増えることで、政治の「個人化」を強め、かえって政党政治を弱体化させる可能性もあると指摘する。
衆院選の結果次第では、日本政治は再び「自民党一強体制」に回帰し、政界再編の機運は大きく後退する可能性が高い。しかし、政党の内実と有権者の政治意識のズレ、野党の統合力の弱さ、そして選挙制度という構造的制約が解消されない限り、「政権交代が起こらない日本政治」は固定化していくことが避けられないだろう。
政権交代が起きない日本の政治の構造的な問題と政界再々編の可能性などについて、山本氏、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。また、番組終盤では、衆院選と同時に行われる最高裁判事の国民審査の争点と問題点にも触れた。