自民党総裁選 候補者討論会

1979年東京都生まれ。2003年東京大学法学部卒業。08年同大学大学院法学政治学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。専門は日本政治思想史。首都大学東京法学系准教授、東京都立大学法学部教授などを経て21年より現職。著書に『偽史の政治学 新日本政治思想史』、『田口卯吉の夢』など。
石破首相の退陣表明を受けた自民党総裁選の投開票が10月4日に行われ、決選投票で高市早苗氏が小泉進次郎氏を抑えて第29代自民党総裁に選ばれた。現時点では高市氏が内閣総理大臣に選ばれる可能性が最も高い。
選挙戦では日本記者クラブでの討論会や党本部での共同記者会見などが行われ、それなりにメディアは取り上げたものの、その中身はいたって空疎なものだった。2024年10月の衆院選、2025年7月の参院選で両院とも自公で過半数割れの少数与党に転落した自民党は、あえて党員投票を含む「フルスペック」の総裁選を仕掛けて注目を集めようとしたが、肝心の中身がほとんどなかった。
特に自民党が石破政権の下での2度の国政選挙に大敗し、衆参ともに過半数割れとなった直接の原因ともいうべき裏金問題や統一教会との癒着問題、そして自民党政権の下で続いてきた失われた30年からどう抜け出すのか、そしてトランプ政権の下で明らかに変容しているアメリカとの関係をどうするのかといった、日本にとって根本的な問題に対しては、5人のどの候補からも踏み込んだ発言はなかった。
自民党は統治能力を失ってしまったのか。
日本政治思想史が専門の河野有理・法政大学法学部教授は、今回の総裁選で論点に迫力が出ないのは、1年前に比べて自民党の地位が劇的に低下したからだという。2025年7月の参院選で自公が非改選を含めて過半数を失ったことで、今後20~30年、日本の政党政治はもう安倍政権のような一党多弱の時代には戻らないということがはっきりした。どこかの野党に支持してもらわないと自民党総裁は日本の首相にもなれず、政策も実現できない。一政党の内輪の選挙という感じが強く出てしまったと河野氏は語る。
自民党は少数与党だが、とはいえ野党の足並みが揃わない中、自民党の高市新総裁が次の首相に選ばれる公算は大きい。今回も自民党総裁選が実質的に日本の総理大臣を選ぶ選挙だったことに変わりはないのだが、選挙戦での議論はあまりにもスカスカだった。
河野氏は、かつて55年体制下には今よりむしろ色々な中間団体がいて、癒着といえば癒着なのかもしれないが、利権をめぐる癒着競争があったと指摘する。その活力が失われ、イデオロギー的な動機を持つ宗教団体などが悪目立ちしているというのが自民党の衰退の1つの原因だと言う。
一方、河野氏は、このような基本的な問いに自民党が答えられなくなっている中、代わりとなる競争的なリーダーが現れるというのが本来の民主主義の姿のはずだと語る。そして河野氏は、そうしたリーダーが出てこない原因は、30年前の政治改革の失敗にあると見る。政権交代可能な2大政党制を目指した政治改革はうまくいかず、多党制になり、自民党のオルタナティブを生み出すという構想は崩れてしまった。
自民党政治とは何だったのか、なぜそれが終わりを迎えているのか、日本の政治はどこに向かうのかなどについて、法政大学法学部教授の河野有理氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。