新政権誕生を機に韓流とK-POPを超えた新たな日韓関係を考える

一橋大学法学部准教授


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月の5回目の金曜日に特別番組を無料でお送りする5金スペシャル。今回は韓国映画と韓国ドラマを取り上げた。
今回取り上げたのは以下の4作品。いずれも韓国の作品だ。
・『ソウルの春』(キム・ソンス監督)
・『二十五、二十一』(チョン・ジヒョン監督)
・『広場』(チェ・ソンウン監督)
・『悪縁』(イ・イルヒョン監督)
『ソウルの春』は、1979年12月12日に韓国で発生した「粛軍クーデター」を、一部フィクションを交えて描いた2023年の韓国映画。このクーデターは、後に大統領となるチョン・ドゥファン(全斗煥)が中心となり武力で軍の指揮権を掌握したもので、「ソウルの春」と呼ばれた韓国の民主化運動の機運を壊すきっかけとなった。映画では、正義感の強い主人公イ・テシンがクーデターに果敢に立ち向かうが、次第に多勢に無勢となり、追いつめられる様子が描かれている。
『二十五、二十一』は、1997年のIMF危機に翻弄される韓国の若者たちの人生を描いたネットフリックスのドラマシリーズ。粛軍クーデター、光州事件と挫折を繰り返しながらようやく民主化を果たしながら、アジア通貨危機に端を発する経済危機に陥り、IMFからの緊急援助に頼らざるを得ない状況に追い込まれた韓国では、IMF主導の構造調整プログラムに基づく緊縮財政が進められ、多くの家庭が貧困に陥ったまま借金を抱えて一家離散の憂き目に遭うこととなった。
『二十五、二十一』には、その中で夢を追い続ける若者たちの姿が描かれている。突然これまでの生活が一変するような激動の時代だからこそ、相手が没落すれば切り捨てるうわべだけの愛は偽物だと見抜かれ、逆に本物の愛が輝く。マッチングアプリなど「効率的」な恋愛の形が世界的に広がる中で、このドラマは社会から本物の愛が失われたことを批評的に描いている。
『広場』は、ウェブ漫画を原作とするネットフリックスのドラマシリーズで、ソウルを仕切る2つのヤクザグループの抗争を描いたもの。「ジュウン組」と「ボンサン組」はかつて同じ組織に属していたが分裂した。その時に主人公ナム・ギジュンは、自らがヤクザの世界を去ることと引き換えに、ジュウン組とボンサン組は互いに裏切らないという掟を作った。しかし、その掟は若い世代のヤクザたちによって破られることになる。作品には法も掟も存在せず、他者を顧みることなくそれぞれが自分自身の利益のためだけに行動する荒廃した世界が描かれている。
『悪縁』も同じくウェブ漫画を原作とするネットフリックスのドラマシリーズだ。次々と明らかになる過去の因縁に翻弄される登場人物たちが、悪事に悪事を重ねていく姿が描かれている。極悪人が出てきたと思えばさらにそれを超える極悪人が現れるという、法も掟もない究極まで荒れた社会を描いた、これまでにない作品だ。
1997年の韓国を描いた『二十五、二十一』には、かつて存在した、少しずつ心が通い合うような恋愛の姿が描かれており、それが今は失われたことを批判している。また、IMF支援の下で経済成長は果たしたが、格差は広がり社会はよくならなかった現代韓国を舞台にした『広場』と『悪縁』は、愛も法も掟もない今の韓国社会を批判的に描いている。今回取り上げたネットフリックス3作品は、社会の劣化というモチーフを明確に批評的に提示している。このように、その時代が直面する問題を鋭くえぐるような作品は、日本ではなかなか見られない。
なぜ社会を痛烈に批評する作品が韓国では生まれるのか。4つの映像作品を題材にジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
また、映画特集の冒頭では、8月12日に発生から40年を迎えた日航ジャンボ機墜落事故について、当時事故直後から墜落現場に入った神保哲生の取材を通じて、40年経った今も未解決のままの課題が多く残されていることなどを取り上げた。