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2025年06月21日公開

備蓄米が安く放出されても「コメ問題」が解決したわけではない

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1263回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2025年09月21日23時59分
(あと90日18時間58分)

ゲスト

東京大学大学院農学生命科学研究科教授
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1966年神奈川県生まれ。89年東京大学農学部卒業。94年同大学大学院農学系研究科博士課程修了。農学博士。茨城大学農学部助教授、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授などを経て2015年より現職。著書に『北関東農業の構造』、編著に『縮小再編過程の日本農業』など。

著書

概要

 小泉進次郎農相が随意契約による安価な備蓄米の放出を一気に進めたことで、「令和のコメ騒動」とまでいわれた一連のコメ問題は、とりあえず一息つける状態になったかに見える。

 「令和のコメ騒動」では、コメの値段が1年前の倍以上の金額に高騰し、一部の地域ではコメが手に入りにくくなるなどの問題が起きた。これはコメの需給バランスが崩れたことから起きた問題だった。コメの需要に対して供給が不足したのでおのずと値段が上がり、「騒動」にまで発展したのだった。

 しかし、問題はなぜコメ不足が起きたのかということだ。単に冷害台風などで取れ高が減ったのであれば、一時的に備蓄米を放出して供給を増やせば問題は解決する。とはいえ、そもそもコメの生産が需要を下回った最大の原因が、政府による生産調整、つまり減反にあったとすれば、一連のコメ不足が実は人災だったということになる。今回コメ不足が起きた背景には、日本のコメ政策、ひいては日本の農業政策の根本的な失敗があった。今回のコメ騒動を奇貨として、日本の農政の失敗を検証し、問題点を改めなければ、ちょっとした気象条件国際環境の変化によって、再びコメ不足に陥る可能性は十分にある。

 日本のコメをめぐる問題は大きく2つある。1つは実質的にコメの生産調整が今も続いていること。減反である。そして、もう1つは小規模な兼業農家が数の上では圧倒的多数を占める、非効率的な農業構造が温存されていることだ。これらが日本の農業の競争力を奪い、結果的に食料安全保障を脆弱なものにしている。その、いわば本質的な問題が、コメ不足という現象によって明らかになった。

 安倍政権下の2013年、政府は5年後の「減反廃止」を宣言したが、それは名ばかりのもので、2018年以降も実質的な減反は続いてきた。人為的に生産を抑えることで、コメの価格を維持することが、減反の第一義的な目的だった。もともと減反によって生産が抑えられているところに、猛暑による2023年産米の品質の低下やコロナ後のインバウンド需要の回復など複数の要因が重なった上に、南海トラフ地震への注意を呼びかける臨時情報によって一部の消費者がコメの買いだめに走ったために、コメの需給バランスが大きく崩れた。しかし、そもそもコメの値段が下がらないようにするために、コメが不足もしないし過剰にもならないギリギリの状態を維持しようとすれば、わずかな外的要因の変化によってたちまちコメの供給不足が起きることは避けられない。減反を続けている限り、いつまた価格高騰やコメ不足が起きてもおかしくないのが日本の農業の実情なのだ。

 さらに、日本のコメ農業は収益性の低い小規模な農家が圧倒的に多い。小さな田んぼが散らばっていれば大型機械の導入などが難しく、効率が悪くなる。そのため減反によって価格維持を図っていても、赤字経営に陥っている小規模農家は多い。

 隣接する田んぼを集約し大規模化を進めれば生産コストを下げることができる。農水省も食料安全保障の観点から農業の大規模化を進めているが、実際にそれを実現するためには構成員の多くを小規模農家が占める農協JA)や自民党の票田など、いわゆるコメ利権に切り込むことになるため、少なくとも従来の自民党政権ではこれを変えることは難しかった。

 しかし、そもそも日本の農業が置かれている状況は、そんなことを言っていられるほど安泰ではない。日本の食料自給率はカロリーベースで38%と、先進国としては最低水準にある。コメ離れなどと言われて久しいが、その一方で、需要が増え続けている小麦の自給率は15%にとどまる。世界の穀倉地帯と呼ばれるウクライナで戦争が起きた途端に、日本中でパンやパスタが一斉に値上げされたことは記憶に新しいはずだ。その上、コメの自給までが困難になれば、日本の食料安全保障は決定的に脆弱なものとなる。

 減反をやめればコメの値段が下がり、少なくとも一時的にはコメ余りが起きるかもしれない。そうなると輸出に活路を見出すしかない。政府は今年4月、コメの輸出量を2030年までに約8倍に拡大する目標を打ち出しているが、効率の悪い小規模農家が多く残る現在の日本のコメの生産コストは、アメリカや中国、タイなどの他のコメ生産国と比べてもかなり高く、アメリカの4倍以上だ。日本は輸入米に1キロあたり341円の関税をかけているが、関税分を上乗せしてもアメリカ産のコメの方が安い値段で消費者に届く。農業政策が専門の安藤光義・東京大学大学院農学生命科学研究科教授は、現在の価格競争力ではコメの輸出は難しいだろうと語る。

 今後、高齢の小規模農家の離農はますます進むと見られる。その結果、長期的には国内でコメの需要を賄えなくなる恐れもある。コメの自給を維持するためには、特に小規模なコメ農家が多い東北地方で小規模農家が離農した後の田んぼを大規模農家に集約できるかどうかがカギになると、安藤氏は語る。

 コメ価格の高騰はなぜ起きたのか。コメ騒動の背景にある日本の農業の構造問題とは何か。コメ騒動を奇貨としてその構造問題に切り込めなければ、日本の食料安全保障が危ういのはなぜか、などについて、東京大学大学院農学生命科学研究科教授の安藤光義氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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