角川裁判が問う「人質司法」の罪とそのやめ方
KADOKAWA元会長
1971年群馬県生まれ。95年早稲田大学理工学部卒業。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年 第一生命保険入社。2016年より現職。25年11月より経済財政諮問会議民間議員。著書に『お金と経済』、『新型インフレ』など。
高市首相は1月23日、衆議院を解散し、1月27日公示・2月8日投開票の日程での総選挙に踏み切った。通常国会の冒頭での解散は60年ぶり、解散から投開票までわずか16日間という戦後最短の選挙期間となる。
この選挙の最大の争点は、高市政権の看板政策である「責任ある積極財政」の是非だ。選挙戦を前に、野党各党が大幅な消費減税を主張していることに加え、1月19日の記者会見で高市首相までが食品の消費税減税を打ち出したため、債券市場では財政悪化への懸念から日本国債が売られ、長期金利が上昇するなど、市場は早くも敏感な反応を示している。
財政をめぐる議論はこれまで、「緊縮財政」か「拡張財政」の二項対立で語られてきた。将来世代にツケを回さないためには財政規律を重視し支出を抑えるべきだとする立場と、景気刺激のためには積極的な財政出動が必要だとする立場の2つだ。実際に日本の政府債務残高の対GDP比が世界の中で群を抜いて高くなっているのも事実だ。
しかし永濱氏は、この二分法自体が実態を捉えていないと指摘し、本来あるべき選択肢はその中間に位置する「積極財政」だと説く。積極財政とは無制限に財政を拡張する「拡張財政」とは一線を画するもので、将来の経済成長につながる分野を慎重に選んだ上でそこに戦略的に投資し、国が方向性を示しながら民間投資を誘導していく考え方だと永濱氏は語る。
ところで高市首相が繰り返し強調する「責任ある積極財政」の「責任」とは何を指すのか。責任ある積極財政は政府の借金の絶対額を意識するのではなく、債務残高の対GDP比を安定的に引き下げられる範囲で積極的に財政を投入することを意味していると永濱氏は説明する。
そこで鍵となるのが、経済成長率が国債の利子率を上回るかどうかだ。経済学ではこれを「ドーマー条件」と呼び、これが満たされていれば、名目上の借金が増えても財政の持続性は損なわれにくいとされている。永濱氏は、今後の財政運営において、この条件を冷静に見極める必要があると強調する。
これまでの日本は長期のデフレに苦しんできた。そのため、財政出動を行えば即座に財政が悪化するという制約意識が強く、政策の選択肢は厳しく制限されてきた。しかし、コロナ禍やウクライナ戦争をきっかけに、現在の日本はインフレ局面に入っている。永濱氏によれば、インフレ下では名目GDPが拡大し、税収も増えやすい。その結果、債務残高を一定程度増やしながらでも、成長投資を行う余地が生まれるという。しかし、この「時間の窓」は未来永劫続くとは限らない。現実には今後およそ5年程度だと永濱氏は見ている。その間に成長分野への投資を積極的に進め、日本経済の体質を変えられるかどうかが勝負になる。
政府は投資対象となる成長分野を17挙げ、そこに積極的に投資を行うとしている。しかし、それで日本が再び成長できるのかという疑問は残る。過去30年、日本は数々の政策を打ち出してきたが、結果として成長率を押し上げることはできなかった。
それでも永濱氏が今回に限って楽観的な理由は、経済環境が明確に変わっているからだ。長いデフレ期を通じて国民の間には「財政出動=財政悪化」という感覚が根付いてしまったが、インフレ下では税収増というメカニズムが働くため、債務残高を一定程度増やしながらでも成長投資を行う余地が生まれる。
高市首相が掲げる「責任ある積極財政」とは何か。失われた30年を引きずる日本は、本当に成長できるのか。そしてこれ以上の財政出動を行って財政は本当に持つのか。
マル激トーク・オン・ディマンド第1294回では、「積極財政解散」で私たちが本当に理解しておくべきポイントについて、第一生命経済研究所首席エコノミストで高市政権の経済財政諮問会議の民間議員も務める永濱利廣氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
なお番組の冒頭では、東京五輪汚職事件で1月22日、KADOKAWAの角川歴彦元会長が東京地裁から受けた有罪判決への疑問点についても議論した。