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2025年07月19日公開

税から考える参院選の争点と日本の国の形

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1267回)

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完全版視聴期間 2025年10月19日23時59分
(あと91日22時間27分)

ゲスト

1950年東京都生まれ。73年中央大学法学部卒業。75年一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。博士(法学)。静岡大学人文学部教授、立命館大学法学部教授、ドイツ・ミュンスター財政裁判所客員裁判官、青山学院大学学長などを経て2019年より現職。09年、政府税制調査会専門委員。著書に『まさかの税金』、『税のタブー』など。

著書

概要

 投開票が明日に迫った参議院議員選挙では、消費税のあり方が大きな争点になっている。野党の大半が消費減税を主張する中、自民公明の与党は消費減税は行わず、物価高には給付金で対応すべきとしているが、今のところ与党への支持は広がっていないようだ。

 衆院に続いて参院でも与党が過半数割れに追い込まれれば、野党の発言権がより強まることは必至だ。選挙結果次第では、連立政権政権交代もあり得る状況になってきている。今回はの専門家で、政府税調の委員も務めた三木義一氏と、消費税のあるべき姿について考えてみた。

 1989年に消費税が導入されて以来、税収に占める法人税の割合は下がり続け、それに呼応する形で消費税が占める割合は上がってきた。企業の負担を軽くするのと引き換えに個人への負担を増やしてきたのが、過去40年ほどの日本の税制のあり方だった。しかし、現在の日本では企業業績は決して悪くない。また大企業の多くが莫大な内部留保を積み上げる一方で、労働者の賃金はなかなか上がってこなかった。そうした中で、物価高に見舞われた市民生活は日に日に苦しくなっている。物価高対策として多くの野党が消費減税を訴える背景には、自民党が市民生活よりも伝統的に企業、とりわけ大企業を優遇する政策を続けてきたという批判がある。

 その一方で、与党が不人気になることを覚悟の上で消費減税にはあくまで抵抗し続ける最大の理由は、日本では消費税を上げることに莫大な政治キャピタルを要することが過去の経験からわかっているからだ。過去には、1989年に初めて消費税を導入した竹下政権を皮切りに、消費税率を3%から5%に上げた橋本政権、5%から8%への引き上げを決定した民主党の野田政権が、いずれも直後の選挙で大敗を喫し首相退任に追い込まれている。

 消費税の問題はいわゆる「逆進性」が強いことだ。所得の多寡にかかわらず、人間が生きていく上で最低限必要なものは誰もが購入しなければならない。そのため生活必需品を含むすべての商品に一律に税が課される消費税は、低所得者ほど自身の所得に対する税負担の割合が大きくなる傾向がある。それが逆進性だ。

 青山学院大学名誉教授の三木義一氏は、例えば立憲民主党などが主張している食料品の消費税率の引き下げが行われれば、それだけで消費税の逆進性が完全に解消されるわけではないが、多少は緩和する効果はあると指摘する。実際、通常の消費税(多くの国では付加価値税と呼ばれる)が20%前後のフランスやドイツ、イギリスなどと比べると、日本の消費税率10%は相対的に低いが、こと食品に関してはフランスが5.5%、ドイツが7%、イギリスにいたっては0%となっている。しかし、日本は通常の税率10%に対して食品(外食や酒類を除く)も8%と、軽減幅が極めて小さい。三木氏によると、欧米諸国では消費税の標準税率を上げる際に食料品の税率を下げることで国民の怒りを宥めるという側面もあったと指摘するが、その意味では、食料品の税率引き下げは、実は消費税を維持したい、あるいは本音では通常の税率を上げたい自民党財務省にとっても有効な選択肢だったのではないかと三木氏は言う。

 しかし、消費税の逆進性を完全に解消するためには、これもまた一部の野党が主張している「給付付き税額控除」や、近年国際通貨基金IMF)が提案している「累進的消費税」を導入するしかないだろうと三木氏は言う。「給付付き税額控除」は、低所得者のうち様々な控除を行うと課税対象となる所得がマイナスになる人に対しては、単に税負担をゼロにするのではなく還付を行うというもので、今回の選挙でも立憲民主党が主張している。

 「累進的消費税」は、政府がリアルタイムで一人一人の消費額を把握し、決められた金額を超えるごとに税率を上げていく方法で、消費税については所得税と同じように、消費額が大きい人ほど税率が上がるような累進税の仕組みを導入するというものだ。しかし、これを実現するためにはすべての消費活動を政府に把握されることになるので、国家に対する信頼が不可欠となる。今の日本ではとても難しいと三木氏は語る。

 しかし、そうこうしている間にも、日本人の国民負担率は着実に上昇している。国民負担率とは所得に占める税と社会保険料の割合のことで、今や日本の国民負担率は50%に迫るところまで上がってきている。そして、その要因は税よりもむしろ社会保険料負担の上昇にある。税を上げることが難しいので、国民に分かりにくい社会保険料を上げることで、財源を賄っている状態が続いているのだ。

 誰もが増税は嫌だと考えるのは当然だが、これからの日本の税をどうするかを議論しなければ、結局のところ社会保険料負担が増えることで国民の負担は増え続ける。そして、税をめぐる議論はこれからの国のあり方を議論することと同義なのだ。日本はアメリカのような低負担低福祉の国としてやっていくのか、欧州型の高負担高福祉路線を目指すのか。今それをしっかりと議論しておかなくては、このままでは日本は負担と福祉が釣り合わない、国民にとっては割に合わない国になってしまいかねない。

 三木氏は国会で議論もせず法律も作らずにひそかに社会保険料を上げることで国民に負担を強いるステルス増税のようなことはやめて、まずは税金と社会保険料の仕組みを分ける必要があるのかどうかを改めて考える必要があると語る。

 また政治の責任としてもう一つ厳しく追及しておかなければならないことがある。それは政治家たちが、自身に対する税のあり方をめぐる議論を意図的にサボってきたことだ。裏金問題で表面化したパーティ券売り上げのキックバックも、それを受け取った政治家は単に政治資金収支報告書の修正申告で済まされているが、本来であれば現金を受け取った以上、それは雑所得として申告されるべきもので、雑所得は課税対象になるべきものだ。他にも使途を公開せずに事実上何にでも使えることから政治家の第2の給料とも呼ばれている毎月100万円の文書通信交通滞在費(現・調査研究広報滞在費)が全く非課税のまま容認されているなど、政治と金の問題が尾を引く中で行われる今回の選挙で、政治家や政治団体に対する課税問題がまったく問われないことは許されないはずだ。

 この選挙では税という視点から何が問われているのか、消費税減税が実行されなければわれわれの生活はどうなり、実行されればそれはどう変わるのか。真に公正でフェアな税制に変えていくために、日本は何をしなければならないのかなどについて、青山学院大学名誉教授の三木義一氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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