理念無きなし崩しの増税を許すな

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第964回)

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公開日 2019年09月28日

ゲスト

青山学院大学学長

1950年東京都生まれ。73年中央大学法学部法律学科卒業。75年一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。博士(法学)。静岡大学法学部教授、立命館大学法学部教授、ドイツ・ミュンスター財政裁判所客員裁判官、青山学院大学法学部教授などを経て2015年より現職。09年、政府税制調査会専門委員。著書に『日本の税金』、『日本の納税者』、『税のタブー』など。

著書

概要

 日本はどんな国家像に基づいて、来週の消費増税を行おうとしているのだろう。この問いに答えられる人がどれほどいるだろうか。

 消費税をいよいよ二桁の大台に乗せようかというのに、メディアを見ると、キャッシュバックがどうのこうのとか、軽減税率を最大限利用するためのノウハウを指南するような情報は巷に溢れているが、日本の税のあり方を根本から問う記事や番組がほとんど見当たらないことに驚く。

 一応、今回の消費増税は、社会保障の充実と安定化のために不可欠なものとされている。また、同日より開始される幼児教育・保育無償化や、来年の4月から始まる高校教育無償化の財源確保にも使われるという触れ込みだ。

 しかし、日本の税制全体を見ると、1989年の消費税の導入以降、一貫して所得税法人税が引き下げられ、その結果生じた不足分を埋めるための財源として消費税が転用されてきたことは明らかだ。かつては最大で93%にも達していた所得税の最高税率も今や55%まで下がっている。法人税率も43%台から23%台まで引き下げられた。

 しかも、所得税については利子や配当などの金融所得に対する課税が一律で20%の法人税源泉分離課税となっているため、所得が1億円を超えると所得税率がむしろ下がり始めるなど、明らかに富裕層を優遇した制度が長年放置されたままになっている。

 また、そもそも消費税は事業者に課せられる付加価値税であり、消費に対する税ではないにもかかわらず、当たり前のように「消費税」と呼ばれていることも、悪質な意図を感じずにはいられない。こと税制に関する限り、日本人の納税者意識が希薄なのをいいことに、日本ではかなり不公正な税制がまかり通っていると言わざるを得ない。

 税法が専門で「日本の税制」、「税のタブー」など一般向けの税の解説書も多く出している青山学院大学学長の三木義一氏は、確かに現在の日本の税制は不公正だが、有権者がそれを変えようとしない政党や政治家を選んでいる以上、それは致し方のないことだと語る。

 メディアも税について踏み込んだ議論をすることが少ないため、他国と比べた時に日本の税制がどうなっているのかや、どれだけ広範囲に税逃れが横行しているのか、どこに不公平な点があるのかなどが一般社会に必ずしも膾炙しているとは言いがたい。

 また、実は日本の税金が先進国の中では最も安いことも、あまり知られていない。個人が所得のどの程度の割合を税負担しているかを示す租税負担率を見る限り、日本は今やアメリカと並ぶ世界で最も税金が安い国に数えられている。

 この10月をもって日本の消費税はいよいよ二桁の大台に乗せることになるが、それでも世界の先進国の中では10%というのは、連邦レベルの消費税が存在しないアメリカを除くと、最も低い水準だ。IMFやOECDなどは、日本の財政状況を論じる時、必ずといっていいほど、日本はまだまだ消費税が低いので、いくらでも増税の余地があるなどと、当たり前のように指摘するのが常となっている。

 確かに北欧諸国などは消費税が25%にのぼり、租税負担率も60%を超えるし、フランスやイギリス、ドイツなど他の先進国でも軒並み20%前後の消費税を徴収している。それに比べれば日本の10%が相対的に低いのは事実だ。

 しかし、その一方で、北欧諸国は「高負担・高福祉」の国家モデルを前提としており、税金が高い一方で例えば医療も大学教育も職業訓練も全て無料で受けられる。その正反対にあるのがアメリカの「低負担・低福祉」モデルで、租税負担率は先進国で群を抜いて低いが、その代わり国民皆保険、皆年金もないし、大学教育もベラ棒に高い。

 現在の日本は、国民皆保険・皆年金があったり、老人医療制度があるため、いわば「低負担・中福祉」状態にある。これでは財政赤字が積み上がるのも無理はない。

 今回の増税は社会保障を賄うためとは言っているが、はっきり言えば、富裕層を優遇し、全体的に低負担に抑えながらも中福祉は維持するという既定路線を続ける上で、足りない部分を埋めるための増税だ。しかし、今日本が本当にやらなければならないことは、足りなくなるたびに焼け石に水にしかならないような穴埋めをしていく場当たり的な対応ではなく、日本が今後どういう国の形を志向するかについて議論を重ね、そこで得られた結論を元に税制を根本的に見直していくことではないか。

 いや、実はさしたる議論もないまま、現政権の下では、既にその結論は出ているようだ。2013年12月5日に成立した「社会保障制度改革プログラム法」の第二条には社会保障分野での政府の役割として、「住民相互の助け合い、自助、自立のための環境整備の推進を図る」ことが明記されている。現在の税制の下では、政府は社会保障サービスを提供するのではなく、自助や自立の環境作りを手伝うところまでしかやらないことが前提となっているのだ。

 今回のマル激は10月1日の消費増税を来週に控え、現在の日本の税制を点検した上で、日本人の納税者意識のあり方と、税制面から見たときに日本にはどんな国家モデルの選択肢があるかなどについて、三木氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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