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2025年11月08日公開

外国人問題を政治争点化させないためには受け入れ態勢の整備が不可欠だ

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1283回)

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完全版視聴期間 2026年02月08日23時59分
(あと92日10時間58分)

ゲスト

1958年大阪府生まれ。82年東京大学文学部卒業。92年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学、ジョンズ・ホプキンズ大学大学院社会学部博士課程修了(Ph.D.)。北海道大学文学部助教授、上智大学国際関係研究所助教授、一橋大学大学院社会学研究科教授などを経て2022年より現職。一橋大学名誉教授。2004~05年、プリンストン大学移民開発研究所客員研究員。2014~15年、スペイン国立高等科学評議会(CESIC)客員教授。2019~23年、『移民政策研究』編集長。編著に『移民受入の国際社会学』。

著書

概要

 日本に住む外国人に対する政策が大きな政治的争点になっている。日本人ファーストを掲げた参政党が先の参院選で大躍進したのは記憶に新しいところだろう。その後、発足した保守色の強い高市政権は、あえて外国人政策の担当大臣を新設し、関係閣僚会議まで設置するなど、対外国人政策の厳格化を一つの目玉政策にしているようにも見える。

 一方、日本の人口減少労働力不足は誰の目にも明らかだ。日本中の経営者が深刻な人手不足を訴えている。そのため建前上は移民を受け入れていないことになっている日本だが、コロナが収束した2023年以降、年間30万人単位で日本国内の外国人の数は増え続けているのが実情だ。

 ところが日本には法律上はあくまで移民はいないことになっているため、いわゆる移民政策というものは存在しない。移民政策には、そのような外国人をどれだけ受け入れるかだけでなく、受け入れた外国人の人権社会保障教育、社会生活をいかに保障し、日本人との摩擦が起きないようにするかなども含まれる。日本にはそれがまったくといっていいほど整備されていない。

 経済的な要請から外国人人口は激増しているにもかかわらず、受け入れ策が未整備では、外国人との摩擦が高まるのは無理もない。そこに外国人の受け入れ規制や問題を起こした外国人に対する処罰の厳格化を訴えるなどの政策を掲げる政治勢力が、急増する外国人に対する不安や不満にうまく訴えかけることで、支持を拡げているのだ。

 高市首相は11月4日、外国人政策を議論する関係閣僚会議で「一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱に対し、国民の皆様が不安や不公平を感じる状況が生じていることもまた事実。排外主義とは一線を画しつつも、こうした行為には政府として毅然と対応をする」と、必ず「排外主義」とは一線を画するとの枕詞を付けているものの、外国人問題に対しては厳しく対処する姿勢を明確に打ち出している。しかし、そもそも外国人問題なるものが存在するのか。

 実際、今あえて外国人に対する取り締まりや処罰を厳格化しなければならない立法事実があるわけではないようだ。外国人問題を担当する小野田紀美大臣も記者会見で外国人の問題行為の具体例を問われた際、一番最初に挙げたのが、運転免許証の外免切替問題だった。つまり外国で運転免許証を取得した人が、簡単に日本の免許証に書き換えられてしまうという問題だ。外免切替に問題があるのなら、必要な対応をとればいいと思うが、あえて担当大臣を置き関係閣僚会議まで設置して対応するほどの問題だろうか。そもそも外免切替で日本の免許を取得した外国人の違反率や事故率が特に高いというデータも今のところないようだ。

 事ほど左様に外国人問題は実態がないまま、感情論で大きくなっているきらいがあるように見える。国際社会学が専門で移民政策に詳しい亜細亜大学の小井土彰宏教授は、近年の政府の動きをプロバガンダ戦のようなものだと指摘する。遡ると、2018年の入管法改正で新たな在留資格「特定技能」が創設され、2019年に施行されたが、そこで新型コロナが広がり人々の移動が制限されたことで、いったん議論が消えた。しかし2023年頃、コロナが落ち着いてくると、「特定技能」などの資格で日本に来る外国人が急増し、同時に政府のインバウンド奨励策円安も手伝って、外国人観光客の数も急激に回復した。

 そもそも特定技能制度は労働力不足を補うために政府が作ったものだし、観光立国を掲げてインバウンドを奨励したのも政府の方針だ。その結果として外国人の数が急増していった結果、「外国人の数を制限しろ」「不良外国人を取り締まれ」というような主張が、政治的に非常にポピュラーになっているのが現状だ。

 しかし、そのような形でさしたる根拠もないまま感情論から外国人の排斥を訴えたり、外国人を自分たちの不安や不満のはけ口にすることは、百害あって一理なしだ。にもかかわらずそのような言説が幅を利かせてしまう背景にあるのは、やはり「移民はいないことになっているのだから日本に移民政策は不要」という、いつもの「~ということになっている」問題だ。これはある意味、自衛隊という巨大な軍事組織を持ちながら、日本には軍隊はないことになっているという言説にも通じる、日本人の悪い癖ではないか。

 外国人問題を政治争点化し、選挙の具にされないようにするためには、いい加減日本も自分たちが国連の定義上世界第4の移民大国であることを認め、先進国水準の移民政策を確立する必要がある。そもそも現在の日本の移民政策にはサイドドアからの流入という誤魔化しがあり、まずはこれを正す必要がある。サイドドアというのは、実際は日本の労働力不足を補う移民として受け入れているにもかかわらず、特定技能のようなフロントドアとは別に、名目上は技能実習留学などでビザを発給した外国人が実際には入国後それ以外の職業に就いていて、制度と実態が乖離してしまっているということだ。そうした外国人は法的身分も不安定で、制度上の滞在期間が終わっても、職はあるので非合法な移民として国内にとどまる人が自ずと出てくる。

 では、日本はどのような外国人受け入れ制度を作るべきなのだろうか。小井土氏は、スペインで行われている「移民社会統合の全国フォーラム」が1つの参考になるのではないかと言う。これは政府や自治体だけでなく、様々なNPOや当事者団体が円卓式の対話によって政策形成と相互理解を図るものだ。人手不足が深刻化する中、移民の受け入れは不可避だが、社会的摩擦や差別意識を減らすためには、特に社会保障、教育などの面で包括的な政策が不可欠だ。

 なぜ今、外国人問題が政治の場で争点化されているのか、実際に増えている外国人に日本はどう対応すべきか。日本に適した現実的な移民政策とはどのようなものかなどについて、亜細亜大学国際関係学部教授の小井土彰宏氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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