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2025年07月12日公開

安楽死を選ぶ自由の前で人間の尊厳は守られるのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1266回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2025年10月12日23時59分
(あと91日8時間54分)

ゲスト

1948年東京都生まれ。72年東京大学文学部卒業。77年同大学大学院博士課程単位取得退学。東京外国語大学助教授、東京大学助教授などを経て94年より同大学教授。2013年、定年退職し名誉教授。22年より大正大学地域構想研究所客員教授。著書に『いのちを“つくって”もいいですか?』、編著に『見捨てられる〈いのち〉を考える』など。

著書

概要

 先月、イギリス議会下院で安楽死法が可決した。今後上院で承認され、4年以内に施行される見通しだという。フランスでも5月に同様の法律が下院で可決している。

 今回可決されたイギリスの安楽死法は Terminally Ill Adults Bill(終末期患者法)と呼ばれるもので、重篤で耐え難い苦痛を抱えた余命6カ月未満の終末期の患者に対して、本人の意思に基づいて、一定の条件で薬物の投与などによって死に至らしめることを認めるというもの。本人の意思表明の手順や、死を強制されていないか2人の医師が確認すること、委員会の承認が必要なことなど、詳細な手続きが定められている。今後、この法に基づく「支援を受けた死」(Assisted dying)を実行するにあたり、投与される薬物や方法など具体的な内容はこれから決められることになる。

 イギリスでも、死を選ぶ権利を認めるべきという賛成派と、弱者に死を強制することにつながるという反対派の意見の対立は長い間続いてきており、議会での採決でも賛成314、反対291の僅差での可決だった。

 現在安楽死が認められていない日本でも近年、安楽死の議論は起きている。最近ではスイスで安楽死をした日本人に関するドキュメンタリーが放送されたり、著名人が安楽死で死にたいと発言したことが関心を集めた。5年前にはALSという難病の女性がSNSで知り合った医師によって致死量の薬を投与され亡くなるという嘱託殺人事件が起きた。この女性は「彼女は安楽死を選んだ」という番組を見て影響された可能性があると報道されている。消極的安楽死とも言われる、不治で末期に至った患者が自らの意思に基づいて延命措置を断り死に至るという、いわゆる「尊厳死」を法制化すべきだという議論も起きている。

 東京大学名誉教授で宗教学が専門の島薗進氏によれば、この10年、欧米諸国、特に西側ヨーロッパと英語圏の国々で安楽死容認の動きが広がっているという。実際の件数も増えており、医師による自殺ほう助という形で安楽死が容認されているスイスでは、安楽死する人が年間1,700人を超えている。

 しかし、安楽死は、どれだけ厳しい条件の下で始まっても、一度認められれば条件が次第に緩和されていってしまう懸念があると島薗氏はいう。何を終末期と考えるか、余命6カ月の判断はどのように行うのか、耐え難い苦痛というのは何を指すのかなどのほか、余命6カ月ではないが耐え難い苦痛がある場合はなぜ認められないのかなどの論点が次々と入ってくることで、終末期の定義がどんどん広がっていく恐れがある。実際に安楽死が合法化された国ではそのような事態が起きている。一旦、門を開けてしまえば、その先は坂道を滑り落ちてしまうことが懸念される。

 もっとも重要とされる本人の意思も、周囲の環境によって変わり得る。そもそも人間の意思は揺れ動くのが当たり前だが、医療現場における自己決定という名のもとでは、その時にいずれかの選択を迫られることになる。その患者が今後社会にとって役に立つかどうかや、治療することに意味があるのかといった功利主義の考え方の下で、命に対する畏敬の念が失われていっているのではないかと島薗氏は指摘する。

 今回のマル激では、宗教学者で「死生学」を提唱する島薗進氏と、「人間が人間であるための意味」を問いながら、安楽死法制化の動きとその背後にある倫理、宗教、社会構造などについて、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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