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2025年02月22日公開

ウクライナ戦争の終わらせ方とその後の世界秩序

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1246回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2025年05月22日23時59分
(あと60日16時間35分)

ゲスト

1973年兵庫県生まれ。98年大阪教育大学教育学部卒業。2008年同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。専門は国際関係論、アメリカ研究。米ヴァンダービルト大学日米センター研究員、海洋政策研究財団研究員などを経て20年より現職。日本国際問題研究所主任研究員を兼務。共著に『ウクライナ戦争と激変する国際秩序』、『外交と戦略』など。

概要

 トランプ政権ブレトンウッズ体制に続いてNATO体制まで壊そうとしているのか。

 トランプ政権は相次いで関税の引き上げを表明することで、戦後一貫して自らが率いてきた世界の経済・貿易秩序「ブレトンウッズ体制」から事実上離脱する姿勢を明確に打ち出しているが、ここにきてこれもまた自らが主導してきた戦後のヨーロッパの安全保障の枠組みである「NATO体制」をも壊し始めたようだ。

 それが明らかになったのは、2月12日にトランプ大統領がロシアプーチン大統領と電話会談を行ったと発表した時だった。米露の首脳が接触するのは、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来初めてのことだが、トランプ大統領によると、両者はウクライナ戦争の停戦に向けた交渉に入ることで合意したというのだ。問題はその合意にはアメリカの同盟国であるNATO諸国はおろか、紛争当事者であるウクライナも含まれていなかったことだ。トランプはプーチンと2人だけで「ディール(取引)」してしまおうということらしい。

 トランプ・プーチン会談に続いて同じく12日、アメリカのヘグセス国防長官がベルギーのブリュッセルで開かれていた「ウクライナ防衛コンタクトグループ」の会議で、アメリカは同盟国との不均衡な関係をこれ以上容認しないと発言し、NATO加盟国に対し防衛費の大幅な増額を求めた。へグセスはさらに、ウクライナが2014年以前の国境に戻ることは「非現実的」であり、ウクライナのNATO加盟の可能性は小さいとも語っている。

 極めつけは先週末にドイツのミュンヘンで開かれた安全保障会議でのバンス副大統領の発言だった。バンスはヨーロッパ諸国に防衛費の大幅増額を求めた上で、今のヨーロッパにとっての最大の脅威はロシアや中国ではなく「ヨーロッパ内部からの脅威だ」と述べ、ヨーロッパ諸国内の民主主義勢力を痛烈に批判している。バンスによるとヨーロッパの民主勢力の考え方は、伝統的なアメリカの価値観とは相いれないものだという。

 トランプ・プーチン電話会談からヘグセス、バンスに至る政権幹部による一連の発言が露わにしたのは、アメリカの従来の外交政策からの明確な転換だった。第二次世界大戦後、アメリカはイギリスフランスを中心とする西ヨーロッパ諸国とNATO同盟を組み、ロシアが率いる共産勢力に対抗する集団安全保障体制を作った。3年前にロシアがウクライナに軍事侵攻した際も、バイデン政権はNATO諸国とともにウクライナ支援の姿勢を明確に示し、NATOを通じた集団安全保障体制の維持を最優先した。

 ところがトランプ政権は当事者のウクライナもNATOの同盟国も排除したまま、ロシアと直接取り引きをして停戦条件を決めた上で、それを有無を言わせずにウクライナにのませるつもりでいるようなのだ。

 確かに停戦になればこれ以上戦争の犠牲者を出さなくて済むかもしれない。しかし、軍事侵攻したロシアが圧倒的に有利になる条件で停戦となれば、アメリカがこれまで主張してきた「力による現状の変更は許さない」政策から180度転換することになる。そして何よりもNATOという、アメリカが第二次大戦以来守ってきた集団安全保障の枠組みを壊すことになる。

 国際政治学者の小谷哲男氏は、トランプはアメリカがウクライナを支援するためにこれ以上戦費を負担しなくてよくなり、しかも戦争が終結することでこれ以上の犠牲者を出さなくなるのであれば、そのためにアメリカがこれまで大切にしてきた理念や原理原則を破ることになったとしても、まったく気にしないだろうと語る。

 2月23日に行われるドイツ総選挙でも極右勢力「ドイツのための選択肢」の伸長が予想されているように、ヨーロッパでも自国中心主義やリベラルな価値観を敵視する極右勢力が支持を広げている。そのような状況の下で、仮にロシアがポーランドバルト3国を再び自らの支配下に置こうとしたとしても、ヨーロッパはそれらの国々を守らない可能性はあるという。それもこれも、世界のリベラルな国際秩序がどこに向かうのかはウクライナ戦争がどういう形で終わるのかにかかっていると小谷氏は言う。

 第二次世界大戦の末期、イギリスのチャーチル、アメリカのルーズベルト、ソ連のスターリンが1945年2月にウクライナのヤルタに結集し、戦後の国際秩序の在り方を話し合ったのがヤルタ会談だ。それからちょうど80年がたった今、世界はウクライナ戦争の終わらせ方次第では、アメリカ、中国、ロシアによる新しいヤルタ体制が形成される可能性が出てきていると小谷氏は言う。これは3つの軍事大国がお互いの行動に干渉せずに自身の影響圏を守るような体制になる可能性が高い。その体制の下では小国の利益は無視され、大国の勢力圏での「力による現状変更」が日常茶飯事になる恐れがある。しかし、日本を含め世界のほとんどの国はそのような世界は望んでいないはずだ。日本が自国の利益を守るためには、同盟国のアメリカが完全に孤立主義に陥らないように、アメリカに寄り添いつつ導いていくしかないだろうと小谷氏は語る。

 トランプ政権の「常識の革命」によってウクライナ戦争はどこへ向かうのか。ウクライナ後の世界はどのようなものになるのか。日本が自国の利益を守る上でベストなシナリオとは何かなどについて、明海大学外国語学部教授の小谷哲男氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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