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ロシアのウクライナ侵攻と世界の反応に対するイスラム的視点

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1095回)

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公開日 2022年04月02日

ゲスト

イブン・ハルドゥーン大学(トルコ)客員教授・イスラム学者

1960年岡山県生まれ。84年東京大学文学部卒業。86年同大学院人文科学研究科修士課程修了。92年カイロ大学大学院文学部哲学科博士課程修了。学術博士(哲学)。83年イスラム教入信。在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学助教授、同志社大学神学部教授などを経て2021年より現職。17年より同志社大学客員教授を兼務。著書に『タリバン 復権の真実』、『イスラーム入門』、『帝国の復興と啓蒙の未来』など。

著書

概要

 ロシアによるウクライナへの武力侵攻は多くの国々を驚愕させた。それがロシアのプーチン大統領による現在の国際秩序に対するあからさまな挑戦であることが、誰の目にも明らかだったからだ。武力侵攻の結果、ウクライナでは罪のない多くの市民が命を落としたり故郷を追われ塗炭の苦しみを味わっている。その意味で今回の侵攻が到底許されざる行為であることは言うまでもない。

 しかし、それが現在の国際秩序を揺るがす行為であるから許されないかどうかという点については、実は異なる視点を持つ国々が少なからず存在する。現在の「国際秩序」は西側の一握りの先進国によって都合よく作られたもので、それ自体は絶対的なものでもなければ、必ずしも正当性があるものとはいえないとする考え方を持つ国々が世界には多く存在するのだ。

 その片鱗が見えたのが、2月24日に始まったロシアの軍事侵攻を受けて行われた国連総会におけるロシア非難決議の採決だった。ロシアの軍事侵攻を非難し、武力行使の即時停止を求めるこの決議の採決では、現在国連に加盟する193か国のうち、141か国が賛成する一方で、52の国が決議に反対、もしくは棄権、無投票などの形で賛成しなかった。他国へのあからさまな軍事侵攻を非難する決議に、全世界の4分の1が賛成を見送ったという事実は重い。

 しかも、決議に賛成しなかった国の中には、旧ソ連圏の国々のほか、中国インド南アフリカなどのBRICS諸国も含まれていた。また、同じくBRICSの一角を占めるブラジルも、アメリカ主導の対ロ制裁には加わっていない。情報環境としてはほぼアメリカと一体化している日本にいると、世界が一丸となってアメリカ主導のロシア包囲網を形成しているかのような印象を受けがちだが、もしかするとそれは少々楽観的、かつ一方的な見方なのかもしれない。

 それにしても、他国に軍事力を持って侵攻し、多くの市民を巻き添えにする行為を真っ向から批判したり糾弾しないというのは、どういう考え方に基づくものなのだろうか。イスラム法学者で自身もイスラム教徒としてイスラムの視点から世界情勢や社会問題などについてさまざまな発信を行っている、トルコのイブン・ハルドゥーン大学客員教授の中田考氏は、軍事侵攻そのものは否定しながらも、ロシアが1994年にチェチェンに軍事侵攻しそのあと15年にわたり武力行使を続けた結果20万人もの犠牲者(しかもその大半は一般の市民だった)を出したとき、世界も日本もほとんどロシアを糾弾しなかったことを指摘した上で、現在のウクライナ情勢に対する西側世界のダブルスタンダードへの違和感を隠さない。

 そのうえで中田氏は現在、われわれが「国際秩序」と呼んでいるものは、17世紀以降、西欧を中心に白人にとって都合のいい理屈をいいとこ取りして作られたものに過ぎず、そのベースとなるウェストファリア体制下の主権国家という考え方も、それを支える「自由」や「民主」、「平等」などの概念も、あくまで白人が非白人を支配するために都合よく考え出された概念に過ぎないと、これを一蹴する。

 実際、西欧の帝国主義が世界を席巻する前の17世紀の世界は、「東高西低」と言っても過言ではないほど、オスマン帝国(トルコ)やサファヴィー朝(イラン)、ムガール帝国(インド)、清(中国)などアジアの帝国が世界で支配的な地位を占め、空前の繁栄を享受していた。中田氏はその時代がイスラム教にとっても全盛期だったと語る。しかし、1699年のカルロヴィッツ条約でオスマン帝国が欧州領土の大半を失った後、西欧諸国が帝国主義的な植民地政策によって経済的に優位な立場に立ち、18世紀以降、かつてのアジアの帝国は植民化されるなどして西欧諸国から支配され、好き放題に搾取される弱い立場に立たされた。その関係性はその後の2度の世界大戦を経た後も、大枠では変わっていない。

 こじつけるつもりはないが、上記の4か国のうちトルコを除くイラン、インド、中国は、いずれも国連のロシア非難決議では棄権している。また、トルコは西側諸国最大の軍事同盟であるNATOに古くから加盟し、アゼルバイジャン紛争では間接的にロシアと戦火を交える関係にありながら、その一方で、ロシアとは武器貿易など密接な関係を保ち、エルドアン大統領とプーチン大統領は個人的にも友好関係を維持している。今回、トルコはウクライナとロシアの和平交渉を仲介することで、大きなその存在感を示している。

 イスラムの立場から、西欧が普遍的としている自由や平等などの考え方が本当に普遍的なものなのか、またそれを体現している現在の国際法に真の正当性があると言えるのかを、今一度再考する必要があるのではないかと問う中田氏は、イスラムが現代に提供できる知恵は「客観的な善悪の基準など存在しないことを認め、理解も共感もできない他者との間で敵対的な共存の作法を見つけること」であり、イスラムは「真の裁きは最後の審判まで棚上げし、他者との共存の作法を練り上げてきた」と語る。

 一刻も早く軍事侵攻を終わらせるためには、まずは停戦合意、そして和平合意を成立させなければならない。その際、正当性の有無にかかわらず、ロシア側の考え方の背後にある様々な世界観を知っておくことが不可欠となる。

 今回はイスラム法学者の中田氏に、イスラムの視点からロシアのウクライナ侵攻と現在の世界秩序に対する認識を聞いた上で、西側の社会では無条件で普遍的と考えられているさまざまな価値観が、世界では必ずしも絶対的なものではないこと、そしてそのギャップをいかに埋めていくことが可能か、そもそも欧米の白人国家ではない日本が、ほぼ無批判に西側の論理を絶対的なものと受け止めていることをどう考えればいいのかなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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