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ウクライナへの軍事援助と日本の防衛費2%問題を考える

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1105回)

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完全版視聴期間 あと72日3時間20分
公開日 2022年06月11日

ゲスト

防衛ジャーナリスト、元東京新聞論説兼編集委員

1955年栃木県生まれ。下野新聞社を経て91年中日新聞社入社。92年より防衛省担当記者。93年防衛庁防衛研究所特別課程修了。東京新聞編集局社会部記者を経て、2007年8月より編集委員、11年より論説委員兼務。20年退職し、現職。獨協大学非常勤講師、法政大学兼任講師を兼務。著書に『闘えない軍隊 肥大化する自衛隊の苦悶』、『日本は戦争をするのか 集団的自衛権と自衛隊』など。

著書

概要

 ロシアウクライナ侵攻から100日が過ぎた。依然として出口が見えない戦況が続く中、世界各国の対ウクライナ軍事支援は既に4兆円(約310億ドル。軍事費データはいずれもドイツのstatistaより引用)を突破している。ウクライナの年間軍事予算が約7,600億円(約59億ドル)であることを考えると、これがどれほど異常な金額かがわかるだろう。

 中でもアメリカの対ウクライナ軍事支援が群を抜いており、5月10日までで既に255億ドル(約3兆3,150億円)を超えている。一部の傭兵を除けば、実際に戦っているのはウクライナ軍とロシア軍だが、どうもこの戦争はアメリカ対ロシアの代理戦争の様相を呈してきているようにさえ見える。戦争の帰趨も、アメリカがどこまで最新兵器をウクライナに提供するかにかかっていて、ここまでは防衛的な兵器が中心だったアメリカの援助が次第に攻撃的兵器にシフトするにつれて、劣勢だったウクライナ側が失地を回復する事例が増えているのは決して偶然ではないだろう。しかし、その間も、ウクライナの犠牲者は増え続け、国土の荒廃も続く。

 元外交官で外務省の情報課長として情報分析に当たってきた孫崎享氏は、アメリカは意図的に戦争を長期化するような支援を行っているように見えると指摘する。戦争が長期化することでロシアはますます疲弊し、NATOを始めとする西側陣営の結束は固まり、陣営内のアメリカの指導力も強化される。そして、ウクライナ支援の名の下に法外な予算がアメリカの兵器産業に流れ込むことになる。バイデン政権がアメリカの兵器産業から手厚い支援を受けており、政権内にも元レイセオンの取締役だったオースティン国防長官を筆頭に兵器産業と縁の深い重鎮が多数いる。アメリカ兵器産業にとってウクライナは自社の兵器の有効性を証明するまたとないショーケースとなっており、主要兵器産業の株価は軒並み高騰中だ。

 ウクライナ侵攻以前から国力が大きく低下し、防衛予算もアメリカの5分の1まで減少していたロシアは、もはやアメリカにとっては脅威ではなかった。しかし、大量の核兵器を持っているだけにロシアはまだ脅威を煽る対象としてはとても有効な駒で、防衛予算を膨らませる格好のネタになる。アメリカにとってウクライナ戦争の長期化は良いことずくめと言っても過言ではない状況なのだ。

 翻って日本では、年内にも予定される「戦略3文書」(「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」)の見直しを睨み、安倍元首相などから防衛費の現在の対GDP比1%から2%への増額や、敵基地攻撃能力の獲得などが盛んに喧伝され始めている。ロシアのウクライナ侵攻を予算獲得の格好の材料にしている点では、アメリカと同じ構図だ。

 しかし、ウクライナ戦争が露わにしたものは、ロシアというならず者国家が力によって現状変更を試みてくる脅威が21世紀の今も存在するという事実と同時に、圧倒的な軍事力を持つアメリカの都合によって戦争が起きたり起きなかったり、長引いたり長引かなかったりするという、ウクライナ戦争で必ずしも大きく報道されていない21世紀の戦争のもう一つの側面だ。前者は日本でもメディアの圧倒的な報道により強く認識されているようだが、後者に関する報道が他国と比べて日本では極端に少ないように見える。

 そうした中にあって、日本が防衛費を現在の対GDP比1%から2%に増やすとすれば、それは一体何のためなのだろうか。日本の防衛費が対GDP比で1%増えると、防衛予算が現在の5~6兆円から10~12兆円に増えることになり、日本はアメリカ、中国についで、堂々世界で三番目に大きな軍事予算を持つことになる。その増額分の5~6兆円があれば、すべての大学の授業料を無償化し、小中学校の給食費もゼロにすることもできるし、現在OECD加盟国の中で最下層に位置する日本の子育て関連支出や教育関連支出を、せめてOECD加盟国の平均程度まで引き上げ、国難とも呼ぶべき少子化への有効な施策の数々を実施することも可能になる。それを犠牲にして防衛費に回すのであれば、相当のしっかりとした正当性のある内訳と必然性が求められることは言うまでもない。

 防衛ジャーナリストの半田滋氏は、そもそも防衛費2%論は必要な項目を積み上げた結果出てきたものではなく、最後の公共事業といっても過言ではない防衛予算を増額するために、とりあえず2%という大きな枠を押さえておこうという考えから出てきたものだと、これを一蹴した上で、結果的に防衛予算が大幅に増額されれば、その大半はアメリカの兵器を買うことに費やされる上、日本にとっては敵基地を攻撃するためのミサイルの開発などに予算が回ることになるだろうと語る。しかし、この敵基地攻撃能力なるものも、実際北朝鮮のミサイルは移動式の列車から発車されるため、その所在を逐一把握することが困難になっているし、そもそも日本には標的を特定するために必要なインテリジェンスを独自に入手する能力がないため、結局アメリカのスパイ衛星などからの情報に頼らざるを得ないのが実情だ。これまで敵基地を叩く能力はアメリカに依存してきた日本だが、膨大なおカネをかけて立派なミサイルを独自に開発したとしても、結局はアメリカの力を借りなくては何もできない張り子の虎なのだ。

 まもなく日本は参議院選挙を迎える。無風選挙とか与党の勝利は安泰などとの声が聞こえてくるが、それは現政権に皆が満足しているからではなく、メディアを含め野党、そして市民社会が政府や与党の行っている政治をきちんとチェックしていないからではないか。無関心を装っている間に、日本は世界有数の軍事大国になろうとしているし、憲法第9条や専守防衛の理念を保持したまま、敵の基地を先制攻撃する能力まで持とうとしている。そのような国策の大きな転換が、来る国政選挙で問われないとすれば、一体選挙で何を問おうというのだろうか。

 今週は防衛ジャーナリストの半田氏と、ウクライナへの軍事支援を元に、あの戦争は実は誰と誰が何のために戦っているのかをあらためて確認した上で、この機に便乗するかのように防衛費2%だの敵基地攻撃だのが囁かれ始めた日本の防衛政策の中身と対米従属の実態などを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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