会員登録して完全版を視聴
会員登録して完全版を視聴
2025年05月17日公開

拘禁刑の導入で刑務所は真の更生の場に変われるか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1258回)

完全版視聴について

会員登録して完全版を視聴
完全版視聴期間 2025年08月17日23時59分
(あと91日22時間34分)

ゲスト

1960年愛知県生まれ。84年早稲田大学教育学部卒業。同年法務省入省。刑務所、少年院、保護観察所などで勤務後、法務総合研究所研究官、在イタリア国連犯罪司法研究所研究員などを経て2003年退官。同年より現職。専門は刑事政策、犯罪学、犯罪心理学。19年より龍谷大学矯正・保護総合センター長を兼務。著書に『エビデンスから考える現代の「罪と罰」』、『刑務所の風景』など。

著書

概要

 この6月1日から、日本の刑罰に歴史的な制度変更が行われる。

 刑法の改正によって従来の「懲役刑」と「禁錮刑」が廃止され、新たに導入される「拘禁刑」に一本化される。1907年に刑法が制定されて以来、刑罰の内容が変わるのは初めてのことだ。正に歴史的な改変といっても過言ではないだろう。

 従来の実刑を伴う刑罰には殺人、強盗、放火など道徳的に非難される犯罪に適用される懲役刑と、政治犯や交通事故などの過失犯に適用される禁錮刑の2種類があるが、2023年の入所実績で見ても懲役刑が1万4,000件あまりあったのに対し禁錮刑は49件と全体の0.3%程度に過ぎないため、今回の拘禁刑の導入は事実上、懲役刑を廃止し拘禁刑に置き換える制度改正という意味を持つものだ。

 実際、懲役刑には「懲らしめ」の文字が入っているように、懲罰的な意味合いが強く、受刑者には服役中の労働である「刑務作業」が義務付けられている。これに対して禁錮刑には作業の義務付けはないが、実際は8割以上の禁錮受刑者が希望して作業を行っている。

 犯罪学では元々刑罰の目的は、社会正義を貫徹するためにあるという「正義回復論」と、社会全体で犯罪を未然に予防するための「秩序形成論」、罪を犯した人の再犯を防ぐための「教育刑論」の3つの考え方があるが、従来の刑務所では刑務官が受刑者を呼び捨てにしたり、刑務作業中の私語を一切禁止するなど、とにかく懲らしめと締め付け一辺倒のやり方でやってきた。

 しかし、問題はそのやり方が刑務所の秩序の維持や管理のしやすさにはつながっていても、再犯の防止にはほとんど役立っていないことがデータ上も明らかになっていることだ。実際に2024年には受刑者の3分の1が、服役後5年以内に再び罪を犯して刑務所に舞い戻ってきていたことがわかっている。

 新たに導入される拘禁刑の下では刑務作業の義務付けはなくなり、社会復帰を意識して受刑者一人ひとりの特性に合わせて作業と指導を組み合わせることができるようになる。また、拘禁刑の創設に合わせ、刑務所内の受刑者のグループに「高齢者」「依存症回復」「知的・発達障害」といった区分を新たに設け、受刑者のニーズに合わせた対応が取れるようになるという。

 拘禁刑の創設は本当に受刑者の更生や社会復帰に役立つのか。

 かつて法務省で刑務所や少年院などに勤務し、現在は龍谷大学法学部で教授を務める浜井浩一氏は、拘禁刑の創設は画期的な意味を持つが、それが意図した効果を発揮できるかどうかは、刑務官の思考を変えられるかどうかにかかっているという。そして、刑務官たちはとても国民の世論を意識しているので、結局は刑罰に対する国民の意識が変わるかどうかがカギになる。現在の刑務所では、再犯防止よりもとにかく受刑者を管理し、刑務所内の規律と秩序を維持することを最優先とする考え方が根強いが、それは同時に国民の多くも、受刑者をそのように処遇することを是としており、刑務官もそれを感じているからだと、自身も刑務官の経験がある浜井氏は指摘する。

 特に日本では戦後の混乱期に犯罪が横行したために刑務所がパンク状態になったことがあった。その際に、少ない数の刑務官が多くの受刑者を効率的に管理するために、規律と秩序の維持が最優先される制度が導入され、それが今日に至っている。日本のともすれば非人道的な受刑者の処遇は国際人権団体などからはたびたび批判を受けてきたが、国内では特に世論やメディアがそれを問題視する風潮がなかったため、結局その文化がこれまで踏襲されてきた。

 しかし、2001年に名古屋刑務所で刑務官の暴行や虐待によって受刑者が相次いで死亡するなどの事件が発生し、前時代的な刑務所のあり方がようやく再考されるようになった。その過程で再犯率の高さも問題となり、今回の懲役刑の廃止、拘禁刑の導入という措置に至っている。

 犯罪学や犯罪心理学が専門の浜井氏は、受刑者を厳しく処遇して、懲らしめの強制労働に就かせるだけでは再犯率を下げることはできないことが、数々の調査で明らかになっていると指摘する。反省を促すだけでは人は更生しない。人は誰かに支えられて初めて社会復帰することができる。ともすれば一般国民は刑務所や受刑者に対して差別的な意識を持ってはいないだろうか。そして、それが必ずしも自分たち一人ひとりにとっても、また社会全体にとっても良い影響をもたらしていないのではないか。

 犯罪者はわれわれとは違う人たちではなく、その多くが社会を生きる上での困難を抱えた弱い人たちなのだということを、われわれ国民一人ひとりが自分のこととして理解する必要があると浜井氏は言う。

 日本の刑務所はなぜ今日まで懲らしめと締め付け一辺倒で来たのか。今回の制度改正でどんな効果が期待されるのか。どうすれば新しい制度を再犯を防ぎ受刑者の社会復帰を支えることにつなげていけるのかなどについて、龍谷大学法学部教授の浜井浩一氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

カテゴリー

ディスカッション

コメントの閲覧、投稿は会員限定の機能です

月額1100円で過去全ての放送を視聴。
月額550円で最新放送のみ視聴。

毎週の最新放送の視聴、会員限定放送の視聴、コメントの閲覧と入力が可能になります。>入会について