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ウクライナを第二のシリアにしてはならない

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1113回)

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公開日 2022年08月06日

ゲスト

東京外国語大学教授

1968年東京都生まれ。91年東京外国語大学外国語学部アラビア語学科卒業。98年一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会学)。専門はシリア及びアラブ世界の政治。日本貿易振興機構アジア経済研究所、パリ大学付属フランス・アラブ研究所共同研究員などを経て2008年東京外国語大学外国語学部准教授。13年より現職。著書に『ロシアとシリア ウクライナ侵攻の論理』、『膠着するシリア トランプ政権は何をもたらしたか』など。

著書

概要

 ウクライナ情勢はまずい方向に向かっているのではないか。

 ロシアによるウクライナ侵攻から半年が経とうとしているが、日々伝わってくる戦況は、一進一退を繰り返しながら、戦力に勝るロシアが徐々に支配地域を拡げているというものだ。しかし、アメリカから新しい武器の供与があると、一時的にウクライナが失地を回復するなど、以前にこの番組でも指摘したとおり、この戦争の帰結がもはやアメリカ次第になっていることが、日に日に明らかになってきている。

 元々年間の軍事費で10倍以上の差があるロシアとウクライナではまともな戦争にはならないところを、アメリカがウクライナに武器を供与することで、その軍事力の差を埋めている。それがこの戦争の当初からの実情だった。しかし、紛争勃発後のアメリカの対ウクライナ軍事援助は既に165億ドル(約2兆円)に達しており、それはウクライナの年間軍事予算59億ドル(約6,000億円)の3倍に当たる金額だ。もはやこの戦争がロシア対アメリカの代理戦争であることは誰の目にも明らかではないか。ちなみにアメリカの年間軍事予算は約8,000億ドル(約90兆円)、ロシアは約659億ドル(約7兆円)だ。

 残念ながらアメリカにとってこの戦争は、自ら兵力を送ることなく軍事産業を潤すことができ、同時にロシアを弱体化させることができる「理想的な戦争」だ。今後、アメリカ国内の世論がよほど大きく変わらない限り、アメリカはロシアとの全面衝突は避けつつも、ウクライナが負けない程度に絶妙な軍事支援を続ける可能性が高い。つまり、アメリカは意図的に戦闘状態を長引かせることができる立場にいるのだ。

 言うまでもなく此度のロシアのあからさまな軍事侵攻に正当化の余地はない。しかし、現在の状況が続けば、ウクライナの人的犠牲と国土の荒廃はさらに進み、ウクライナがかつて列強諸国の代理戦争の舞台となった国のような悲惨な運命を辿ることは避けられない。

 アラブ政治が専門の青山弘之東京外語大学教授は、昨今のウクライナ情勢とオスマントルコ時代から欧米の列強がシリアに対して繰り返し行ってきた介入との共通点を指摘した上で、分裂国家としての運命を辿ったシリアの運命がウクライナにも降りかかることへの懸念を露わにする。

 多くの人種宗教宗派が存在し、多様な文化が集うシリアは、それ自体がシリアに空前の発展をもたらした原動力だった。しかし、ヨーロッパからアジアアフリカへ抜ける交通の要衝となるシリアの支配権を維持したいイギリスフランス、ロシアの列強は、その多様性を逆手に取り、人種・宗派間の対立を煽ることで、クリミア戦争バルカン戦争などを仕掛け、シリアの分断ならびに弱体化を図った。その結果、度重なる代理戦争の舞台となったシリアの国土は焦土と化し、国家は常に分裂状態に陥ることとなった。

 特にシリアの場合、21世紀に入ってからも、大国の代理戦争を肩代わりさせられ続けた。2010年に始まったアラブの春がシリアに波及してくると、「民主化勢力」を支援するアメリカ及び西側諸国とアサド政権を支えるロシアとの間で内戦が勃発し、その間隙を縫うようにヌスラ戦線アルカイダISILなどのテロリスト勢力がシリア国内で支配地域を拡大していった。今もシリアは、国土が少なくとも3つの勢力に分断され、そこにロシアとトルコとアメリカが軍を駐留させている状態にある。

 ウクライナの場合も、ソ連崩壊後、ロシアと隣接する東部2州では、人口で多数を占めるロシア系住民が、ウクライナ人から差別を受けたり迫害されるなど、国内に人種・民族問題の火種を抱えていた。さらに東部では、今や対ロシア戦の英雄のような扱いになっているアゾフ連隊がネオナチ的な活動を繰り広げており、それがロシアがウクライナに介入する絶好の口実を与えていた。

 ウクライナはシリアのようなヨーロッパからアジア、アフリカへ通じる交通の要衝とは異なるが、ヨーロッパとロシアの緩衝地帯という意味で、特にロシアにとっては戦略的に重要な意味を持っている。ロシアがウクライナ国内のロシア系住民の支援を口実に介入したのに対し、アメリカを中心とする西側陣営がウクライナ政府をバックアップすることでこれに応戦し、そこにシリアと同じような代理戦争の構図ができあがっていったのだった。

 しかし、オスマントルコの時代や冷戦下とは大きく異なる要素が、現在の国際政治にはある。かつて世界の富を独占し、軍事力で圧倒的な力を誇っていた西側先進国、とりわけG7諸国の国際社会における力が相対的に低下しているのだ。一時は世界全体のGDPの7割を占めていたG7諸国だが、今やその支配率は4割にまで下がり、中国インドトルコブラジルなどが参加するG20では、ロシアに対する制裁決議を採択することすらできなくなっている。依然として軍事費ではアメリカの圧倒的優位は揺るがないが、経済力や軍事力を背景に一部の「列強」が勝手気ままに振る舞える時代は、もはや過去のものとなっている。

 ただ、少なくとも現状では日本にとっての国際社会はあくまでG7に限定されているようだ。そのような立場から、ウクライナの軍事的支援を支持し続けることが正しい道なのか、ひいてはそれが本当にウクライナの利益につながるのかについて、日本のような紛争当事者ではない国では、もう少し冷静な立場から議論があっていいのではないか。

 今回はウクライナのシリア化を懸念する青山教授に、どのような歴史を経てシリアが現在のような分断国家となってしまったのかや、ウクライナが同じ道を歩んでいることが懸念される理由などを問うた上で、日本にどのような選択肢があるのかなどについて、青山氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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