2022年03月26日公開

ウクライナへの軍事侵攻でロシア経済は破綻の淵に追いやられる

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ゲスト

一般社団法人ロシアNIS貿易会・ロシアNIS経済研究所所長

1964年静岡県生まれ。89年東京外国語大学外国語学部ロシア語学科卒業。95年青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了。2017年北海道大学大学院文学研究科博士後期課程。博士(学術)。専門は歴史地域文化学、スラブ社会文化論。89年(社)ソ連東欧貿易会・ソ連東欧経済研究所(現:ロシアNIS経済研究所)入所。98年ベラルーシ共和国日本国大使館専門調査員。04年『ロシア東欧貿易調査月報編集長。ロシアNIS経済研究所次長、調査部長などを経て2020年より現職。著書に『不思議の国ベラルーシ ナショナリズムから遠く離れて』、共著に『ウクライナを知るための65章』など。

著書

司会

概要

 ウクライナへの軍事侵攻を受けて、世界各国はロシアに対し、前代未聞とも言うべき厳しい制裁を科すことになった。それを受けて、ロシアでビジネスを展開していた西側諸国の企業は脱兎のごとく一斉にロシアから撤退し始めている。

 今後ロシア経済はどうなってしまうのか。ロシアでビジネスを展開する日本企業にサポートを提供するロシアNIS経済研究所の服部倫卓所長に聞いた。

 服部氏は今回の軍事侵攻はロシア経済に致命的な打撃を与えることは必至だと語る。共産主義体制が崩壊して以来、ロシアには日本を含む多くの西側企業が進出してきた。自動車産業は言うに及ばず、市民生活にもユニクロからマクドナルド、スターバックスなどが浸透し、ロシアは少なくとも経済的には完全に西側の一員となっていた。

 しかし、今回ロシアが厳しい制裁の対象となり、特に国際銀行間通信協会(SWIFT)から閉め出しを喰らったことで、国際的な決済ができなくなった。この措置が続く限り、外国企業はロシアでビジネスを展開することは事実上不可能だ。

 服部氏はSWIFTからの排除など個々の制裁措置そのものも非常に厳しいが、ロシアにとっては今回の軍事侵攻に対してその道義的な責任を問う国際社会の厳しい評価が、より大きな打撃となる可能性があると語る。このような暴挙をやってしまう国とは、とてもではないが今後一緒に商売をやっていけないと、多くの国が感じてしまった。ロシアという国に対する世界の見方が根本的に変わってしまったというのだ。

 服部氏は、仮にウクライナ戦争が早期に終結したとしても、ロシアでプーチン体制が続く限り、世界は制裁の手を緩めることはないだろうと見る。つまり、プーチン体制が崩壊し、ロシアにこれまでとはまったく異なる新しいレジームが生まれない限り、世界はロシアを許さないだろうし、ロシアと商売をしようとは思わないだろうということだ。また、仮にそんなロシアとでも商売をしようという企業が現れたとしても、厳しいコンプライアンスが求められる今日、その企業は西側諸国からの厳しい批判に晒されることが必至だ。上場企業であれば株が売り圧力に晒されることになるだろう。そのようなリスクを冒してまで、一体誰がロシアと商売をしようと考えるだろうか。

 ロシアが経済的に世界から孤立することは避けられない状況だが、しかし服部氏は、ロシアが直ちにデフォルト(債務不履行)に陥るような状況ではないと語る。国際金融市場から閉め出しを喰らったロシアは、事実上外貨を得る手段を失った形だが、ロシアの中央銀行と財務省は先月、ロシア企業に対し、外貨建て収入の8割を強制的にルーブルと交換させる措置を決めたという。そのためロシア政府は毎月100億ドル程度の外貨は入手する手段を確保しているのだそうだ。これで当面のドル建て国債の利払いや償還は切り抜けられるとみられているが、しかし、そのような応急措置で乗り切らなければならない状況が半年以上も続けば、ロシアはいつデフォルトになっても不思議はないと服部氏は言う。

 実はロシアは食糧もエネルギーも自給できているため、仮に世界から完全に切り離されても、直ちに大勢が飢え死にしたり凍死したりする恐れはそれほど高くないと服部氏は言う。しかし、今回の軍事侵攻で世界経済から切り離された状態が長く続けば、外国資本もロシアに戻ろうというインセンティブは薄れ、もはやロシアは国際資本の投資対象ではなくなってしまう可能性が高い。飢えないまでも、日々の食料を得るために長い行列に並ばなければならないなど、国民の多くが30年以上前の共産主義の時代の貧しい生活に逆戻りする可能性も否定できない。果たしてロシア国民がそれを受け入れるのか。その対価としてロシアが得たものは何だったのか。

 今回の武力侵攻のロシア経済への影響と今後の見通しについて、ロシア及び旧ソ連諸国の経済やビジネスに精通する服部氏に、ジャーナリストの神保哲生が聞いた。

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