2022年03月05日公開

NATOの「自分探し」とロシアのウクライナ軍事侵攻の関係

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ゲスト

1957年東京都生まれ。80年早稲田大学理工学部卒業。84年インド国立ボンベイ大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了(後期中退)。86年早稲田大学大学院理工学研究科都市計画専攻修了。専門は平和学。東チモール暫定統治機構県知事、国連シエラレオネ派遣団武装解除統括部長などを経て、日本政府特別顧問としてアフガニスタンの武装解除を指揮。立教大学教授などを経て2009年より現職。著書に『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』、『新国防論 9条もアメリカも日本を守れない』、共著に『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』など。

著書

司会

概要

 NGOや国連の職員として世界各地の紛争処理や武装解除などに当たった経験を持つ伊勢崎賢治・東京外語大学教授は、ロシアを軍事侵攻に踏み切らせた要因として、冷戦終結後の「NATOの自分探し」をあげる。

 冷戦期にソ連の共産圏ブロックに対抗するための西側陣営の軍事同盟として1949年に発足したNATO(北大西洋条約機構)は、ソ連崩壊後、その存在意義が問われる事態を迎えた。実際、ベルリンの壁が崩壊した時、アメリカを中心とするNATO陣営は、当時のソ連のゴルバチョフ大統領のペレストロイカを側面支援する意味合いも込めて、NATOは東方に1インチたりとも拡大しないことを、密約のような形で約束していることが、ジョージワシントン大学のアーカイブに残されている公文書から明らかになっていると、伊勢崎氏は指摘する。

 仮想敵国を失った以上、軍事同盟としての色彩を無くし、いずれはロシアも加盟する大きな友好条約に変質させる案も一時は議論されたが、加盟国の方々に軍事基地を持ちNATO軍を駐留させている巨大な軍事同盟を解消することは容易ではなかった。 結果的に冷戦終結後もNATOは東方への拡大を続け、今やバルト三国を始め旧共産圏のポーランドやハンガリーまでがNATOに加盟することとなった。

 そうこうしているうちに、2001年には同時多発テロに遭遇したアメリカが主導するテロとの戦いが始まり、NATOはあらためてその存在意義を見出すことになった。そこでアフガニスタンやイラクにまで軍事侵攻を行ったはいいが、イラク統治は大惨事に終わり、アフガニスタンでも勝ち目がなくなったことが明らかになった2012年頃から、NATOは再びアイデンティティ・クライシスに陥る。しかし、2014年にロシアが武力でクリミアを併合したのを機に、欧州諸国は「やっぱりNATOが必要」であることを再認識し、結果的にNATOは今、「ロシアの拡大主義に太刀打ちする軍事同盟」という位置づけが明確になっていると伊勢崎氏は語る。

 ロシアのウクライナ侵攻の背景には、冷戦終結後のNATOの東方拡大があるとされるが、ロシアを敵視するNATOの影響力が、旧ソ連の主要な構成員で自国と長い国境を接するウクライナにまで及ぶことに脅威を感じたロシアが、窮余の策として軍事侵攻に踏み切ったという側面を理解することは、今後のウクライナ紛争の着地点を考える上で重要になるだろう。

 また、ロシアと国境を接するフィンランドが、あえてNATOには加盟せずに中立的な地位にとどまることで、ロシアの脅威をかわすという賢明な外交政策をとっている点も、ウクライナの今後を考える上で重要になると伊勢崎氏は語る。

 紛争処理や平和構築が専門の伊勢崎氏に、ロシアが軍事侵攻に打って出る背景にあるNATO側の問題と、今後の停戦から和平への道のりを模索する上で重要になる点、ウクライナ紛争を契機に日本が考えるべきことなどを、ジャーナリストの神保哲生が聞いた。

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