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2022年09月10日公開

この食料危機に食のグローバル化リスクを再考する

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1118回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2022年12月10日23時59分
(終了しました)

ゲスト

京都橘大学経済学部准教授

1971年広島県生まれ。94年国際基督教大学教養学部卒業。2012年ロンドン市立大学修士修了。(食料栄養政策)。17年京都大学大学院博士後期課程満期退学。博士(経済学)。新聞社、金融機関、有機農業関連企業勤務を経て、97年「ジャーニー・トゥ・フォーエバー」を設立。著書に『食べものから学ぶ世界史 人も自然も壊さない経済とは?』、『植物油の政治経済学 大豆と油から考える資本主義的食料システム』 。

著書

概要

 日本でも物価高の痛みをひしひしと感じている人は多いだろう。中でも、食品価格の値上がりが、とりわけ家計を強く圧迫している。それもそのはずだ。日本のは今やグローバル市場の一部なのだから。

 これでも先進国の日本はまだましな方だ。日本の外では、特に貧困国食料危機が現実的な脅威となっている。国連食糧農業機関(FAO)はパンデミックによって国際的な流通網が寸断されたことで、飢餓人口が急増することへの警鐘を鳴らしていたが、そこに主要な食料輸出国であるロシアウクライナの戦争が始まったことで、いよいよ飢餓が現実のものとなってきた。

 FAOによると、今日の世界の飢餓人口は7億2,000万人~8億1,100万人に膨れ上がっており、適切に食事を摂ることができない食料不安を抱える人口は20億~23.7億人にものぼるという。2000年に国連がミレニアム開発目標(MDG)の中で「飢餓の撲滅」を掲げて以来22年、世界は今もって総人口の約3分の1が食料不足に喘ぐ事態を迎えている。今回の食料危機では、特にソマリア、エチオピア、南スーダン、ナイジェリアなどのアフリカ諸国とイエメン、アフガニスタンなどが飢餓の差し迫った危機に直面しているという。

 食料栄養政策が専門で食と資本主義の関係史に詳しい京都橘大学の平賀緑准教授は、日本でも世界でも実際に食料が不足しているわけではないが、経済性や効率性を最優先した今日の食のグローバルな生産・流通システムが、パンデミックと気候変動、そして此度のウクライナ紛争によって、その脆弱性をもろに露呈させていると指摘する。

 そもそも人間の生存を支え、地域の独自の文化を支えてきた食は、市場原理には馴染まないものとして、長らくグローバル資本主義とは切り離されてきた。戦後の西側陣営における自由貿易を牽引してきたGATT(ガット=関税及び貿易に関する一般協定)でも、農産物は1986年に交渉が始まったウルグアイラウンドまで関税引き下げや自由化交渉の対象とはなっていなかった。

 しかし、GATTウルグアイラウンドからWTOへと引き継がれたグローバル資本主義の波は、人間も食も容赦なく飲み込んでいった。現在、世界の食の生産供給体制は、各地で比較優位理論に基づいた単一作物(モノカルチャー)に特化され、途上国では世銀・IMFが主導する構造調整プログラム(SAP)の名のもとに、その国の人々が必要としている食糧よりも、輸出して外貨を稼ぐことができる付加価値の高い商品作物の生産が推進されてきた。

 日本でも主にアメリカとの貿易摩擦交渉の結果、海外からの安い食料の輸入が奨励されるようになり、さらにTPPなどを通じて日本もしっかりと食のグローバル・フードサプライ・チェーンに組み込まれていった。地球の裏側のどこかで異常気象災害疫病紛争などが発生すると、たちまち日本の食品価格が高騰するのは、まさに日本の食経済がグローバル市場に組み込まれていることの証だ。

 日本にいながらにして、世界中のあらゆる食が安価で手に入るのはとても結構なことだが、これまでマル激で何度となく取り上げてきているように、食のグローバル資本主義は同時に多くの負の側面を内包している。種子の知財権から肥料や飼料の原材料の調達にいたるまで、ほんの一握りのグローバル企業、しかもそのほとんどすべてが外国企業に寡占されていることもその一つだ。食を輸入食料や海外の企業に過度に依存してしまうことは、食料安全保障上のリスクも大きい。特に先進国の中では食の自給率がもっとも低い部類に属する日本にとって、これは大きなリスクとなる。

 平賀氏は、実際に食料が不足しているわけではないのに、投機マネーによって穀物価格がつり上げられた結果、低所得国で飢餓が発生している現状も問題視する。実際、2000年以降の世界の穀物の生産量とFAOの穀物価格指数を比較してみると、生産量はそれほど大きく変動していないにもかかわらず、価格は激しく乱高下しているのがわかる。今や人間の生存に欠かせない食が、マネーゲームのネタになっているのだ。

 今回のパンデミックやウクライナ紛争で露呈したグローバル食経済から個人が離脱するのは容易なことではない。しかし、まずは一人ひとりがこの問題を認識し、日々の生活スタイルや消費行動を僅かに変えるだけでも、全体としては大きな変化を生む力となり得る。

 平賀氏は例えば、ペットボトルのお茶を買うのではなく、自分で沸かしたお茶を水筒に入れて持ち歩くだけでも、大きな変化のきっかけになると語る。他にも、例えば大型店舗ではなく地域の八百屋さんや魚屋さんやパン屋さんで食材を買うことであったり、外食をするのであればチェーン店ではなく地域の小さな料理店で食べることであったり、コンビニでお弁当を買うのではなく、家で料理を作って食べることなどが、グローバル資本主義への対抗軸としての、地域に根ざした小規模分散型経済を支える力となる。

 テレビではパンデミックやウクライナ紛争で食品の価格が高騰し「家計を直撃!」などというニュースが、毎日のように流れている。それはそれで大きな問題であることは間違いない。特に貧困家庭にとっては食品価格の高騰は大きな問題だろう。しかし、同時に今回の食料危機を奇貨として、その背景にあるハイリスクなグローバル・フードサプライ・チェーンの存在を知り、また日本が自らの選択として自身をそこに組み込んできたこと、そしてそれが必ずしも唯一の選択肢ではなく、個人レベルでもいろいろな選択肢があることを再考してみてもいいのではないだろうか。

 大学で教鞭を執るかたわら地元京都で地域活動にも取り組む平賀氏と、此度の食料危機の背景やグローバル食経済との関係、その対抗軸などについて、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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