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2025年07月05日公開

なぜハチャメチャな破壊者でしかないトランプに民主主義の救世主となることが期待されるのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1265回)

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完全版視聴期間 2025年10月05日00時00分
(あと91日2時間1分)

ゲスト

1967年北海道生まれ。90年上智大学外国語学部卒業。97年同大学大学院人類学部博士課程修了。Ph.D(社会人類学)。ケンブリッジ大学、英オックスフォード大学、ハーバード大学客員研究員などを経て2006年より現職。著書に『アメリカとは何か』、『リバタリアニズム』、『白人ナショナリズム』など。

著書

概要

 今年1月に第2次トランプ政権が発足して以来、僅か5カ月の間にトランプは、世界が第2次世界大戦後80年あまりかけて築いてきた世界の秩序をことごとく破壊してきた。いや、世界の秩序だけではない。アメリカ国内でもトランプは既存の秩序や仕組みを日々壊し続けている。

 トランプ政権の行動を理解するためには、政権の2つの支持基盤を知る必要がある。1つはトランプ自身が提唱するMAGA(Make America Great Again)運動の信奉者たち、そしてもう1つが、キリスト教福音派と呼ばれる人々だ。トランプ政権の行動はすべて、この2つの支持基盤との約束に応えた結果と言っても過言ではない。

 しかし、そうした中、トランプ政権は6月21日、突如としてイラン空爆した。これがトランプの支持基盤の間で不協和音を起こしているという。

 トランプ政権の政策の多くはMAGA運動の考え方に沿っている。第1次トランプ政権発足の立役者でもあり、MAGA運動の理念的支柱でもあるスティーブン・バノンは、MAGAの3つの柱は、(1)移民反対、(2)自由貿易反対、(3)戦争反対で、彼らはトランプがその守護者に適任だと判断したからこそトランプを支持し、トランプ政権の実現に力を貸したと、最近のニューヨーク・タイムズのインタビューで答えている。

 MAGAの3本柱のうち(1)については、戦後のアメリカが多くの移民、とりわけ欧州以外の地域から非白人の移民を受け入れたことで、アメリカの労働者の雇用が奪われた上に、非白人、非キリスト教圏からの移民が大量に流入したことで、「古き良きアメリカ」や「大草原の小さな家」に見られるようなアメリカの伝統的価値観が上書きされているとの危機感を抱いている人たちが相当数いる。結果としてトランプは政権発足直後から、移民に対する厳しい規制と、不法移民の容赦無き国外追放を繰り返している。そこまでやる必要があるのだろうかと疑問に感じる向きもあろうが、MAGA支持者たちは移民排斥を心底歓迎していることは言うまでもない。

 (2)は自由貿易によって企業経営者たちは裕福になったかもしれないが、工場労働者などアメリカの労働者階級が次々と職を追われ、生活が立ちゆかなくなったという考え方に基づく。この問題意識を政策にしたものが、例のトランプ関税だ。実際はブレトンウッズ体制と呼ばれる戦後の自由貿易体制はアメリカが主導して作ったもので、アメリカも全体としては恩恵を十分に受けているが、アメリカの労働者たちがそのあおりを受けたことは確かだ。

 そして(3)は、アメリカの外交政策が、かつてアイゼンハワー大統領が退任演説の中で警鐘を鳴らした軍産複合体介入主義者たちに乗っ取られた結果、アメリカが本来関与すべきではないFOREVER WAR(終わりなき戦争)に巻き込まれ、それがアメリカの国力をことごとく奪ったばかりでなく、アメリカの労働者階級の子ども達を戦場に駆り出す結果となったという考え方に基づく。基本的にアメリカは対外戦争に関わるべきではないとの考えをトランプは繰り返し示しているほか、ウクライナ軍事支援の停止やNATOや日本などの同盟国に対する軍事費負担増額の主張なども、その延長線上にある。

 このように、トランプの傍目にはハチャメチャにも見える諸政策は、ことごとくMAGA運動の3つの柱に沿った、ある意味で至極合理的なものとなっている。

 しかし、トランプが大統領選挙に勝ち権力を掌握するためには、もう1つの支持基盤である福音派も必要だった。MAGAと福音派は多くの部分で政策や理念がオーバーラップし共闘が可能だが、決定的に相反したのがイラン攻撃だった。

 聖書の言葉を文字通り信じる福音派は、聖書の教えに沿って、全面的にイスラエルを支持している。だからイスラエルの脅威となっているイランを叩くことには大賛成だ。しかし、MAGAはアメリカが戦争に巻き込まれることを極端に嫌う。トランプのイラン攻撃に対しては、MAGAの開祖バノンはもとより、J・D・バンス副大統領を含むMAGA運動の主要なメンバーたちは軒並み強く反対した。しかし、トランプはイラン攻撃を断行した。

 バノンはトランプが軍産複合体やネオコンに騙されたり取り込まれたりしたのではないかと懸念したという。今のところイラン攻撃によってアメリカが「フォーエバーウォー」に巻き込まれるような事態には発展していないので、MAGAの支持者たちも大人しくしているようだが、今後イラン情勢がきな臭くなってきた場合、トランプ政権の支持基盤に重大な亀裂が入る可能性がある。

 慶応義塾大学SFC教授でアメリカ政治に詳しい渡辺靖氏によれば、イラン攻撃はトランプの支持層であるMAGAと福音派の両方を納得させるためのぎりぎりの判断だったという。イランの核関連施設を限定的に攻撃することで、福音派の期待に応えつつ、それ以上のエスカレーションを避けることで、MAGAの離反も何とか避けようとしたのだと渡辺氏は言う。

 トランプの権力基盤がMAGA思想に立脚したものであることは間違いない。しかし、問題は、MAGA政策を進めた先にアメリカが「再び偉大になる」保証がないことだ。例えばアメリカの製造業を復活するというが、まさにロボット化AI化が猛スピードで進む中、他国に関税をかけたくらいで、本当にアメリカの製造業が復活することなど有り得るのか。しかも、関税の引き上げは実質的にアメリカ国民への増税となり、その悪影響を最も強く受けるのはトランプを支持する労働者階級だということも忘れてはならない。

 渡辺氏は結局のところトランプが民主主義の「破壊者」なのか、それとも「救世主」なのかが問われることになると言う。破壊者であることは誰の目にも明らかだが、トランプこそが「ドレイン・ザ・スワンプ(沼の水を抜く)」の言葉通り、利権の沼地と化したワシントンでアメリカの労働者階級を顧みない政治を行ってきたエリートを駆逐し、真の民主主義を実現してくれるかもしれないという期待感があることも紛れもない事実だ。しかし、壊すだけ壊した後にどのような世界が現れるかは、誰にも予想がつかない。その意味でも、やはりアメリカという国は人類史における壮大な「実験国家」を地で行っているともいえる。トランプ政権による実験国家アメリカの混乱は、民主主義資本主義は両立するのかという根本的な問いをも世界中に突きつけていると渡辺氏は言う。

 アメリカに今起きていることは何を意味しているのか。トランプ政権を支えているMAGAと福音派とは何か。トランプが破壊するだけ破壊した後、世界には何が残るのかなどについて、慶応義塾大学SFC教授の渡辺靖氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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