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バイデン新政権の真の課題は単なる脱トランプではない

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1033回)

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公開日 2021年01月23日

ゲスト

関西大学客員教授・ジャーナリスト

1951年埼玉県生まれ。76年東京外語大学英米語科卒業。同年共同通信社に入社。ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを経て2015年退職。同年、青山学院大学地球社会共生学部教授、20年より関西大学客員教授。著書に『追跡アメリカの思想家たち』、『トランプ現象とアメリカ保守思想』、訳書に『政治の起源』など。

著書

概要

 茶色い毛糸のミトン手袋が全てを物語っていた。

 1月20日、トランプ大統領がメラニア夫人と共に大統領専用ヘリコプター「マリーン・ワン」に乗り込みホワイトハウスを去った。ヘリが飛び立った瞬間、世界のメディアが集結するホワイトハウスのメディアルームでは歓声があがったという。

 確かに大変な4年間だった。マル激では「トランプが去ってもトランプ現象は終わらない」ことは繰り返し解説してきたが、それでも自身の価値観が「真空」であるがゆえに、政治的に有利になるネタは理念を超越してどんな荒唐無稽なものでも取り込んでしまう、まるで電気掃除機のような人物が世界一の大国アメリカの最高権力者の座に4年間も君臨すれば、アメリカならずともその影響は計り知れない。その影響を一番身近で痛感してきたホワイトハウス詰めの記者たちの安堵感は想像に難くない。

 しかし、ドナルド・トランプといういわばシンボルが大統領の座から去っても、アメリカは、そして世界は、まだ何の課題も解決できていない。

 同日に開催されたバイデン新大統領の就任式は、コロナ禍のためにごく少数の列席者しかいない寂しい式典となったが、レディ・ガガの熱のこもった国家斉唱やアマンダ・ゴーマンの感動的な詩の朗読のほか、様々な人種的背景を持つ登壇者に彩られ、バイデン新大統領、ハリス新副大統領などが繰り返しアメリカの融和を訴えるなど、一時は反対派による抗議行動などで混乱が予想された就任式もそれなりに盛大な式典となった。

 しかし、大統領就任式でもっとも注目され、ツイッター上でもっとも多くリツイートされるなど、もっとも「バズった」のは新大統領でもガガでも、ジェイロー(女優のジェニファー・ロペス)でもなく、ラフな茶色いアウトドアパーカーを着て、毛糸のミトン手袋をして来賓席に一人ぽつんと座っていた一人の老人だった。

 他でもないバーニー・サンダース上院議員だ。サンダースはバイデンと民主党の大統領公認候補選びを最後まで争ったことで知られる。しかし、この日サンダースが注目されたのは、毛糸のミトン手袋と彼のその出で立ちだった。

 確かにバイデン以下、新政権の面々はトランプ政権の4年間で分断されたアメリカを和解させ、アメリカ第一主義の名の下で世界の流れから離脱したアメリカを再び国際社会に復帰させようと懸命にメッセージを発していた。その思いは切実であり誠実なものだったろう。

 しかし、なぜバーニーの手袋がそこまで注目されたのか。それは、就任式の壇上に並んだ列席者たちのほとんどが高齢の白人であり、その誰もが高価なブランドもののスーツに身を包んでいることが映像からも容易に見て取れたからだ。そしてそれが、パーカーとミトン姿のバーニーとは、あまりに対照的に見えたからだ。5000ドルもするスーツに身を包みながらアメリカの融和を訴えたところで、日々の生活が立ちゆかなくなり、現状に大きな不満を持つ人々、特にトランプを支持した7600万人のアメリカ人の多くの心には、そのメッセージは響かない。

 アメリカの政治思想史、とりわけ保守思想の潮流に詳しい関西大学客員教授の会田弘継氏は、トランプ個人のキャラとは無関係に、トランプ現象の背景にあるアメリカの保守思想の底流にある一つの流れに注目する。それは日本ではほとんど知られていないジェームズ・バーナムとサミュエル・フランシスという2人の思想家が唱えてきた、アメリカの伝統的な保守主義批判だ。

 バーナムは官僚支配の共産主義国家も、大企業支配の資本主義国家も、最終的にはエリート・テクノクラートが権力を握り、彼らに支配されることになり、一般大衆は彼らに利用、搾取されるだけだと説いた。そして、エリート支配下で搾取に喘ぐ労働者を取り込むために「ポピュリスト経済政策」を採用するのが、アメリカの保守政治が本来向かうべき道だと主張したのだ。

 しかし、彼らは大企業優先の立場から「減税・小さな政府・福祉削減」を主張する当時の保守本流からは異端扱いされ、排斥された。バーナムの教えを引き継いだフランシスは、1990年代に第三政党の候補として大統領選挙に出馬したパット・ブキャナンの知恵袋となり、ブキャナンが主張する「保護貿易、移民排斥、アメリカ第一の孤立主義」のネタ元となった。この時のブキャナンの「アメリカ・ファースト」政策が、昨今のトランプのMAGA(Make America Great Again)にそのまま引き継がれている。

 共和党内には当初は保守政治家としてスタートしたニクソンやレーガンも、権力の座にあるうちにエリートたちに取り込まれたという思いを持つ支持者が少なからずいる。しかし、それは民主党では更に深刻だ。20世紀後半の民主党は労働組合を基盤とする政党となったため、本来は労働者の味方のはずだった。しかし、クリントン政権以降、オバマ政権も含め、その民主党がむしろグローバル化を推し進め、アメリカの労働者を苦しめる政策を積極的に推進するという捻れが生じた。

 現在のアメリカ政治では一見、民主・共和が激しく対立しているように見えて、実はむしろ共和党、民主党内の上下に激しい対立がある。それはエリート対一般大衆の対立と言っても過言ではないかもしれない。バーニー・サンダースは民主党左派の代表として、民主党支持者の中でグローバル化を推し進めるエリート民主党に対するアンチテーゼとして弱者の立場を代弁しているが、トランプが今回ごっそりさらっていった7600万票の相当部分は、実はその真逆にいるはずの民主党左派のサンダース支持票が流れたものと見られている。

 つまりこういうことだ。バイデン政権がもし真にアメリカの融和を実現したいのであれば、高いスーツに身を包んだエリートが一段高いところから感動的な演出に彩られたメッセージで「私はすべてのアメリカ人のための大統領になります」と訴えるだけではダメで、この格差問題に対する何らかの解を提供しなければならないということだ。そして、それはスタイルこそ違えど、バーナムやフランシスが唱え、ブキャナンが大統領選挙として既存政党の候補者に対するアンチテーゼとして主張した政策を参照せざるを得ないのではないかということだ。

 先の大統領選で大企業からの潤沢な献金を大量に集め、資金力でもトランプを圧倒したバイデンが、果たしてそのような政策を本当に実行できるのかどうかは、お手並み拝見といくしかない。しかし、それができなければ、いくら口で融和と訴えても、4年後、必ずトランプは戻ってくる。トランプという人物が戻ってこなくても、トランプ現象は必ずや再び勃興するだろう。その時、その現象が何と呼ばれているかは、現時点では未定だ。

 今週はアメリカ政治思想に詳しい会田氏とともに、トランプ政権の終焉、バイデン政権の発足に際して、トランプ現象とは何だったのかを、アメリカ保守政治思想の流れの中で検証するとともに、バイデン政権の真の課題とは何かを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が探った。

 また、なぜトランプ政権下のアメリカで陰謀論がこうも広く喧伝され、広く信じられるようになってしまったのかなどについて、陰謀論に詳しい辻隆太朗氏に話を聞いた。

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