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2024年11月09日公開

トランプのカムバックはアメリカと世界をどう変えることになるか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1231回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2025年02月09日23時59分
(あと66日1時間18分)

ゲスト

1965年静岡県生まれ。90年上智大学外国語学部卒業。97年ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了。2007年メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了。文教大学准教授などを経て14年より現職。20年より上智大学総合グローバル学部長を兼務。22年~24年、アメリカ学会会長。著書に『キャンセルカルチャー アメリカ、貶めあう社会』、共著に『アメリカ政治』など。

著書

概要

 4年前の大統領選挙バイデンに敗れたトランプが、見事なカムバックを果たした。大接戦が予想される中で、現職副大統領のハリスに対し予想以上の大差をつけての文句無しの勝利だった。

 トランプの勝因については様々な分析が行われているが、そもそも2024年に行われた先進国国政選挙では与党がことごとく敗北しており、イギリスを始め多くの国で政権交代や連立の組み換えが行われている。ご多分に漏れず日本も連立与党の総選挙での大敗を経験したばかりだが、いよいよアメリカもその仲間入りをした形となった。

 コロナ禍で世界的に3年もの間、経済活動国民生活が大きく制限される中、各国、とりわけ先進国では政府が未曾有の財政出動を強いられた。その結果、コロナが収束し経済活動が正常化すると、どの国も激しいインフレ物価高に見舞われ、国民の生活が苦しくなっていることが、与党への風当たりを強くしていることは間違いない。さらに世界の穀倉地帯として知られるウクライナ戦争が始まったことで穀物価格やエネルギー価格が高騰したことも、物価の上昇に追い打ちをかけた。

 アメリカでは2022年、ガソリン価格がガロンで4ドルを超えた。これを換算すると、現在の日本のガソリン価格の1リットル170円を超える水準だ。日米のガソリン価格が逆転するなどということは、これまでおおよそ考えられないことだった。しかも車社会のアメリカでは多くの人が、燃費を度外視した低燃費の大型車で日本の何十倍もの距離を毎日走っている。さらに食品住宅価格も高騰しており、日々の国民生活が激しく圧迫される中で、現政権に対する怒りや失望が蔓延するのは避けられないことだった。

 しかし、それにしても7つの激戦州のすべてでトランプが勝ち、一般投票の得票数でもトランプがハリスを上回ったことは、アメリカの政治地図に大きな地殻変動が起きていることを示唆している。共和党候補が一般投票で民主党を上回るのは2004年のジョージ・W・ブッシュ以来20年ぶりのこととなる。

 今回の選挙では、アメリカ国民が優先課題だと考える4つの論点が、それぞれの候補にくっきりと現れる結果となった。出口調査で「民主主義のあり方」が最優先課題だと答えた人が全体の34%を占め、そう答えた人の80%がハリスに投票したのに対し、「経済」こそが最優先課題だと答えた人も32%にのぼり、その80%はトランプに投票したと答えた。また、その2つに次いで多くの人が懸念を示した「人工妊娠中絶問題」と「移民問題」はそれぞれ前者の74%がハリスに、後者の90%がトランプに投票している。アメリカの分断は更に広がっていることが窺える結果だ。

 しかし、投票する際に最も重視した要素として多かったのは「リーダーシップ」と「変革」の2点で、そのいずれもトランプがハリスを圧倒している。ハリス自身の問題に加えて、バイデン政権が物価高に代表される眼下の経済問題に対応できず、また国際的にも強いリーダーシップを発揮できていないとみられたことが、現政権で副大統領を務めるハリスには大きく響いた形となった。

 しかし、結局のところ今回の選挙結果もまた、アメリカの分断が更に進んでいることを反映するものとなったと前嶋氏は言う。しかし、その一方で、これまで富裕層や大企業の経営者などを主な支持基盤としてきた共和党の下に白人の貧困層や低学歴層の支持が集まってきたことで、共和党が所得再分配を主張し始めたり、逆に民主党は支持者の多くが富裕層になったことを受けて、減税規制緩和を主張するようになってきているなど、今回の選挙結果からはアメリカ政治のリアライメント(再編成)が進んでいることも窺える。これが過去4半世紀にわたり分断に明け暮れてきたアメリカ政治の大きな変化につながる可能性があると前嶋氏は指摘する。

 ただし、トランプ政権の誕生は、アメリカのみならず世界に大きな影響を与えることは避けられない。トランプ政権が選挙戦中の公約を実行に移せば、自国産業を保護するための関税の引き上げ、とりわけ中国に対する懲罰的関税の導入、地球温暖化会議からの離脱と化石燃料への回帰、ウクライナ支援の停止、そして日本を含む同盟国に対する防衛負担の大幅増額要求など、向こう4年間、世界はトランプ劇場に翻弄されることになるだろう。関税の引き上げと減税によってアメリカのインフレがさらに進み、アメリカが再び利上げに転じれば、一層の円安を含め大きな影響を日本のみならず世界経済に与えることになるだろう。

 更にトランプがこれまで自分を刑事訴追したり批判してきた政敵への復讐を誓っている点も気がかりだ。世界が大統領権限の濫用によってアメリカの民主主義が歪められる様を見せられることで、もはやアメリカは民主主義陣営の盟主はおろか、世界から尊敬を受けられる国ではなくなってしまう恐れがある。われわれはパクス・アメリカーナの下でアメリカに依存した現在の世界秩序の崩壊を目の当たりにすることになるかもしれない。

 ハリスはなぜ負けたのか。トランプはなぜ強かったのか。トランプ政権の下でアメリカと世界はどう変わるのかなどについて、上智大学総合グローバル学部教授の前嶋和弘氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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