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2025年02月15日公開

トランプ関税は世界の貿易秩序を根底から変えるのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1245回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2025年05月15日23時59分
(あと53日16時間3分)

ゲスト

アジア経済研究所所長、慶應義塾大学名誉教授
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1958年東京都生まれ。82年東京大学法学部卒業。91年ウィスコンシン大学マディソン校経済学博士取得(Ph.D.)。専門は国際貿易論、開発経済学。ニューヨーク州立大学オルバニー校経済学部助教授、慶應義塾大学経済学部助教授などを経て2000年より同教授。24年退職し名誉教授。同年よりJETROアジア経済研究所所長。16年より経産省産業構造審議会(通商・貿易分科会)不公正貿易政策・措置調査小委員会委員長。著書に『国際経済学入門』、編著に『揺らぐ世界経済秩序と日本』など。

著書

概要

 世界は再び関税の報復合戦による保護貿易の時代に突入するのか。

 2月10日、トランプ大統領輸入される鉄鋼とアルミニウムに一律25%の関税をかけることを発表した。3月12日に発動されるという。

 これに先立ってトランプは2月1日、カナダメキシコからの輸入品に25%の関税を、中国からの輸入品には10%の追加関税をかける大統領令に署名している。結局、カナダとメキシコに対する関税は2月4日の発動直前に約1カ月延期されることとなったが、中国に対する関税は実際に発動され、早速2月10日には中国が報復として、アメリカからの輸入品80品目に10~15%の追加関税を発動している。関税の報復合戦という悪夢が現実のものになりつつある。

 かつて関税は国家の主権の中でも最も重要な機能の1つだった。日本が幕末に結んだ不平等条約によって関税自主権を失ったことで、その回復に50年もの苦しい交渉を要したと日本史で習ったことを記憶される方も多いのではないか。

 しかし、1929年の大恐慌の後、世界各国が自国の産業を護るために関税を引き上げたことで、保護主義が横行し、結果的にブロック経済体制下の経済ナショナリズムの高揚が先の世界大戦につながったとの反省から、戦後、世界ではGATTの枠組みの下でアメリカを中心に継続的な関税の引き下げが行われ、少なくとも先進国に住むわれわれにとって、もはや関税というものを意識する機会がほとんどなくなっていた。結局のところ「グローバル化」というのは、ほとんど関税というものが存在しなくなった世界を意味していた。

 1946年に10%だったアメリカの平均関税率は、第1次トランプ政権が関税引き上げを始める直前の2017年には1%まで下がっていた。しかし第1次トランプ政権は中国との間で関税の応酬を繰り広げ、バイデン政権もそれを維持した。米独立調査機関Tax Foundationは、今後アメリカがトランプの公約通り中国、カナダ、メキシコに対して関税を引き上げた場合、アメリカの関税率は1947年のGATT締結時の水準まで上がると予測している。第二次世界大戦の反省の上に立って世界が70年あまりかけて築いてきた今日の自由貿易体制が崩壊する危険性が現実のものとなっている。

 そうした中にあって、天然資源の乏しい日本は、戦後の自由貿易体制の恩恵を最も多く受けてきた国の1つだった。もし今後世界が再び関税のある世界に戻った場合、日本にどのような影響が及ぶのかを、日本は真剣に受け止め、戦略を練っておく必要があるだろう。

 国際貿易や開発経済が専門で現在アジア経済研究所の所長を務める木村福成慶應義塾大学名誉教授は、アメリカと中国の間で関税合戦が起こった場合、米中間の貿易は停滞するが、第3国にとってはアメリカへの輸出を増やせるチャンスにもなり得ると指摘する。実際、米中関税合戦の第1波となった第1次トランプ政権下では、メキシコやベトナムがアメリカへの輸出を増やしているという。

 また、トランプは関税によって世界を再び保護貿易の時代に巻き戻そうとしているわけではないと木村氏は言う。トランプにその意図があるならメキシコやカナダを取り込んだブロック経済を作ろうとするはずだが、今トランプがやっていることは真逆だ。また、米中間で関税戦争が激化しても、世界の他の国々の間では自由貿易は正常に動いている。そのため、日本を含めた第3国はトランプ関税に対応しながらも、これまで築き上げてきた自由貿易を維持していくための努力を続けていくことが重要になると木村氏は言う。

 1980年代頃までは日本の市場の閉鎖性がアメリカやEUから叩かれた時代もあった。しかし今や日本はコメ、こんにゃくなど一部の農産品に対して例外的に高い関税が課されている以外は、関税率が先進国の中でも低い部類に入るほど日本の市場は開放されている。だからこそ、日本は食料やエネルギーの自給率が低いという問題を抱えているわけだが、今回トランプ政権は相互主義の立場から相手国がかけている関税と同じだけの関税をかけると言っている。もしそうだとすれば、日本へのトランプ関税の影響は限定的なものにとどまる可能性が高い。何があっても世界が関税の応酬合戦に入ってしまうような事態を避けるために日本が努めることが、日本の国益に適っていることは言うまでもない。

 トランプ関税は世界貿易の形をどのように変えるのか。世界は自由貿易体制を維持することができるのか。資源に乏しい日本は関税のある世界にどう対応していけばいいのかなどについて、アジア経済研究所長の木村福成氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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