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トランプ現象の背後でアメリカ政治を動かす福音派とは何者なのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1037回)

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公開日 2021年02月20日

ゲスト

名古屋市立大学大学院人間文化研究科教授

1965年兵庫県生まれ。88年聖心女子大学文学部卒業。90年慶応義塾大学大学院文学研究科修士課程修了。96年英国ウォーリック大学大学院博士課程修了。(Ph.D.取得)専門は国際政治。名古屋市立大学大学院人間文化研究科准教授を経て2011年より現職。名古屋市立大学人間文化研究所所長を兼務。著書に『アメリカを動かす宗教ナショナリズム』、『バチカンと国際政治 宗教と国際機構の交錯』など。

著書

概要

 日本ではあまり馴染みのない福音派と呼ばれる人々が、アメリカの政治を支配するまでになっている。

 米議会上院は2月13日、1月に起きた議会乱入事件を煽動したとの理由から弾劾裁判にかけられていたトランプ前大統領に対し、無罪の評決を下した。

 評決では57対43で有罪が無罪を上回ったが、弾劾成立に必要とされる上院の3分の2(67票)の賛成を得ることができなかった。現時点での上院における民主・共和両党の勢力は50対50なので、共和党から7人の造反が出た形とはなったが、トランプ氏が大統領退任後もアメリカ政治にその影響力を根強く残していることを印象づける結果となった。

 マル激では、長年に渡りアメリカ社会の底流にある富裕層と貧困層の「縦の分断」を何度か取り上げてきた。それが民主・共和の党派ラインのみならず、民主党内にも右派と左派の間に深刻な亀裂を生んでいることも見てきた。

 そして今回は、いわゆる「トランプ現象」と呼ばれる政治的なうねりの中核を成すと言っても過言ではない、アメリカの福音派の動きを取り上げたい。福音派そのものはかなりアメリカ特有の現象と言っていいものだが、社会に不安が蔓延すると彼らのような宗教右派に類する勢力が政治に対して強い影響力を持つようになるのは、どこの国についても言えることであり、実は日本とて例外ではない。その意味では、今や大統領選挙のみならず、アメリカの政治を支配するまでに勢力を伸ばした福音派とはどのような人々で、なぜ彼らがそれだけの力を持つようになったかを知っておくことは、日本に住むわれわれにとっても意味があるだろう。

 アメリカの福音派(エヴァンジェリカル)はプロテスタントが発展する過程でカルヴァン派から派生した宗派の一つで、アメリカ国内においてはプロテスタントの中でも非主流派という位置づけになるが、既にその数はアメリカの全人口の30~35%、約1億人にのぼり、単一宗派としては今やカトリックを抜いてアメリカ最大の宗教勢力となっている。

 その信者は主にバイブルベルトと呼ばれるアメリカ南部州に多く、中でもテネシー州、アーカンソー州、アラバマ州などでは福音派の信者数が人口の4割を占めている。その反面、北東部のニューイングランド地方や西部では信者数が人口の10%にも満たないなど、かなり地域的な偏りがある。また、ニューヨークやシカゴ、ロサンゼルス、ボストンといった大都市圏では信者数は極端に少ない傾向がある。

 その地域の人口に福音派が占める割合は、共和党の支持率や先の大統領選挙でトランプを支持した人の比率とほぼ比例関係にある。また、福音派の割合が高い州はほぼ例外なく、人工妊娠中絶に対する厳しい制限が設けられていたり、同性婚やLGBTに対する差別意識が強いことも、世論調査などで明らかになっている。

 更に、その地域は軒並みコロナの感染率が高い。国際政治が専門でアメリカの福音派に詳しい名古屋市立大学の松本佐保教授は、福音派は特に南部ではメガチャーチと呼ばれる1万人規模の大規模礼拝を通じて信者を増やしてきた経緯があり、新型コロナウイルスの感染が始まってからも大規模礼拝を続けてきたことが感染の拡大と関係している可能性があるのではないかと指摘する。また、福音派の間でワクチンに懐疑的な人やマスクの装着を拒否する人の割合が非常に高いことも、感染拡大の一因となっていると考えられている。

 福音派の最大の特徴は、聖書の中の福音書の内容を文字通り解釈し絶対視するところにある。そのため進化論を認めず、人工妊娠中絶や同性婚、LGBTなどにも強く反対するほか、ボーンアゲイン(霊的な生まれ変わり)を信じ、理性より啓示を優先するなどの特徴がある。また、先述のように1万人以上が収容できるメガチャーチやギガチャーチで行われる礼拝を通じて信者を増やしてきたほか、早くからテレバンジェリスト(テレビで説教をするエヴァンジェリカル牧師)などによるテレビ礼拝、ネット礼拝も伝道のツールとして多用されてきた。

 福音派の教えは、1965年の公民権法や移民法の施行によって、非白人の人口が急増するのを受けて、危機意識を募らせる白人に対し、天命に従って築かれたアメリカの地位が脅かされているというメッセージとともに、白人の、とりわけ低学歴、低所得層の間で支持が拡がっていった。

 また、福音派は常に政治とも密接な関係にあった。第二次大戦後、トルーマン大統領の知己を得てカリスマ的指導者となったビリー・グラハム牧師が今日の福音派の礎となるアメリカ福音派協会を設立したのに続き、レーガン政権下ではジェリー・ファルウェル牧師やパット・ロバートソン牧師など全米に名を馳せた著名なテレバンジェリストの登場で、その教えは一気に全米に広まっていった。

 トランプ前大統領自身は本来は福音派とは縁遠い存在で、その教義の実践者とは到底思えないようなライフスタイルを送ってきた人物だが、政策面で福音派が求める政策を巧みに取り込むことで、福音派の圧倒的な支持を得ることに成功した。過去2度の大統領選挙でも福音派が多数を占める州はほぼ例外なくトランプが押さえている。また、2020年の選挙直前にピューリサーチ・センターが行った世論調査でも、白人福音派のなんと78%がトランプに投票すると答えている。

 2020年の大統領選挙でも、全米で1億人はいるといわれている福音派票の大半はトランプに入ったとみられているが、宗教という観点から見た時にこの選挙で興味深いのは、一方の対立候補であるバイデンがカトリック信者だということだ。アメリカでカトリックの大統領が誕生するのは、米国史上初のカトリック大統領となった1960年のジョン・F・ケネディ以来のことだ。

 松本氏は、プロテスタントが主流派の米国聖公会やクエーカー、ルター派と非主流派の福音派に割れるのと同じように、実はカトリックも1961年の第二バチカン公会議に端を発する教義の解釈で保守派とリベラル派の間に対立を抱え、バイデンはその中でもリベラル派に属すると指摘する。こと宗教という観点から見ると、バイデン政権というのは、アメリカの人口の35%を占める福音派を敵に回し、更に人口の約3割を占めるカトリックのうち、ほぼその半分を占める保守派からは必ずしも手厚い支持を受けられていないということになる。つまり、バイデン政権というのは、できる限り宗教的な「神学論争」が前面に出てこないように、宗教以外の動機付けによって形成されている支持層が求める政策をうまく組み合わせながら巧みな政権運営をしていくことを求められている政権ということになる。

 『アメリカを動かす宗教ナショナリズム』のほか『バチカンと国際政治 宗教と国際機構の交錯』などカトリック教会に関する著書もある松本佐保氏と、アメリカ福音派の歴史やその教義、現在の状況などについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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