だから男はみんなできそこないなんだ
青山学院大学理工学部教授
1959年東京都生まれ。82年京都大学農学部卒業後、87年京都大学農学研究科食品工学専攻博士後期課程修了。渡米し、88年ロックフェラー大学ポストドクトラル・フェロー、89年ハーバード大学医学部ポストドクトラル・フェローとして勤務。91年京都大学食糧科学研究所講師から、94年同助教授を経て、01年京都大学大学院農学研究科助教授に就任。04年4月より現職。著書に「もう牛を食べても安心か」、「生物と無生物のあいだ」など。
2008年最初のマル激は、ベストセラー『生物と無生物のあいだ』の著者・福岡伸一氏をゲストに迎え、生物とは何かという視点から、現在の人類のあり方や科学との接し方を考えた。
昨年5月に出版された『生物と無生物のあいだ』は、30万部突破という、科学書としては異例の売り上げを記録し、2007年の年間ベストセラー(東販調べ)で18位にランクインした。
なぜこの本がそこまで売れたかについては、著者の福岡氏の文才に依るところも多いが、同時にこの本が、『生命とは何か』という人類にとっての根源的なテーマを正面から扱っている点が、多くの人々の関心を集めたとみられている。本書の中で福岡氏は、自身が辿ってきた分子生物学者としての道のりを振り返りながら、“生命とはなにか”との問いかけを繰り返し行っている。
そもそもこの本を書き上げた動機は、“機械的生命観”へのアンチテーゼだったと福岡氏は語る。機械的生命観とは、生物とは、ロボットのように各パーツごとに構成され、そのパーツを正確に組み上げられさえすれば、全体として機能するという考え方だ。機械的生命観に基けば、例えば、機能低下した臓器に対しては、代替となる臓器を移植すればいいという考え方が出てくるし、遺伝子操作なども、各パーツさえきちんと動けば問題ないことになる。
しかし、福岡氏は、研究を続けるうちに、生命とは、単純にパーツの寄せ集めで成り立っているわけではなく、互いの細胞の関係性で成り立っていることに気がついたと言う。例えば、遺伝子操作によって生まれながらにして特定の機能を持たない「ノックアウトマウス」を作り出しても、別の何かが失われているはずの機能を補い、全体としては平衡をとって、正常なマウスのように生き続けることがよくあるという。現在、遺伝子工学が進み、遺伝子レベルで生命をデザインすることが可能になったと言われているが、その一方で、逆にそれは、生命とは簡単に操作得るものではないことを日々明らかにしていると福岡氏は言う。
遺伝子組み換え食品や狂牛病は、まだ人類が理解できていない未知のリスクを多く含んでいる可能性があると警告する福岡氏とともに、そもそも生物とは何なのか、命とは何なのかといった根源的な問いかけから、昨年大ニュースとなった万能細胞(iPS細胞)研究のリスクと可能性についてまで、幅広く「命」を議論した。