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戦後の防衛政策の大転換が増税論争にかき消されてしまう不思議

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1132回)

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完全版視聴期間 あと48日12時間58分
公開日 2022年12月17日

ゲスト

国際地政学研究所理事長

1946年東京都生まれ。70年東京大学法学部卒業。同年防衛庁(現防衛省)入庁。官房長、防衛研究所長、内閣官房副長官補(小泉政権~麻生政権)などを歴任。2009年退官。11年国際地政学研究所を創設し、12年より現職。著書に『亡国の集団的自衛権』、共著に『非戦の安全保障論』など。

著書

東京新聞(中日新聞)政治部記者(防衛省担当)

1981年新潟県生まれ。2004年立教大学文学部卒業。07年オレゴン大学ジャーナリズム学部卒業。08年東京新聞(中日新聞)入社。前橋支局、社会部、政治部(自民党担当)などを経て21年より現職。

概要

 どうも腑に落ちない。国家にとって最重要といっても過言ではない防衛政策が抜本的に変わろうとしているというのに、なぜか議論の焦点が財源論や増税論に集中し、一体全体何がどう変わるのかが一向に見えてこないのだ。

 政府は12月16日、いわゆる防衛3文書の改定を閣議決定したが、これは岸田首相自身が「戦後の日本の安全保障政策の大きな転換」であると語っているように、日本にとっては戦後、国是として守り通してきた専守防衛や軽武装といった防衛政策を根本から変えようというものだ。

 防衛政策の転換というからには中身を十分に吟味する必要があることは言うまでもないが、それ以前の問題として、それほど重要な、そして国民の生活にも大きな影響を与え得る変更でありながら、その中身が有権者はもとより、国会にもメディアにもほとんどまったく説明されていないまま、「閣議決定」という形で強行されてしまった。

 防衛3文書の改定に伴って実施される防衛政策の変更の中身は、ここまで漏れ伝わってきた限りでは「敵基地攻撃能力を保有すること」「防衛費を現在のGDP1%から2%まで倍増させること」「武器輸出に対する制限を緩和すること」などが含まれているようだ。特に、敵基地攻撃能力は、敵が日本に対して攻撃準備に入ったと考えられる時、機先を制して敵のミサイル発射台を攻撃する能力を保有しようというもので、政府はメディアを取り込んでこれを「反撃能力」と呼ばせることでこれが「攻撃」する能力を持つわけではないかのような印象操作を熱心に行っているが、早い話が先制攻撃を前提とする敵基地攻撃能力を持とうという以外の何物でもない。これは戦後の日本が国是としてきた「専守防衛」から逸脱するものではないのか。

 政府は実際に敵基地を攻撃するとかしないとかの問題ではなく、日本がその能力を持つことが抑止力につながると説明しているが、それが誰に対してどのような抑止力になるのかについては、これまで国会でも記者会見でも説明されていない。そもそも何をもって「日本に対する攻撃の準備に入った」と判断できるのか、また日本側が勝手にそう解釈して敵基地を攻撃した場合、国際法が禁じる先制攻撃にならないのかなど、まだまだクリアしなければならない論点も山積している。

 また、そうした中身の課題もさることながら、そもそもそれに先立つものとして、日本はどのような状況を想定し、何のために攻撃能力を持ったり、軍事費を倍増させなければならないと考えているのかがさっぱりわからない。首相やその周辺からは「日本をめぐる安全保障環境は激変している」などといった一般論は聞こえてくるが、それが何を指しているのかは今一つはっきりしない。

 さらに過去50年にわたり概ね1%の水準を守ってきた日本の防衛費の対GDP比を順次増額し、5年後には現在の2倍の約2%にまで引き上げるという議論も、NATO諸国が自らに課している2%基準をそのまま適用しているだけで、特定の状況を想定した上で、それに対処するために必要な装備などを積み上げた結果打ち出された数字ではないようだ。NATOが2%なのでとにかく日本も2%にしようということで、金額だけが決まっていて中身は決まっていないということになれば、各方面から予算のぶんどり合戦が始まるのは目に見えている。

 しかし、世界第3位の規模のGDPを持つ日本が防衛費をGDPの2%にまで引き上げれば、現在世界第9位に位置する日本の防衛費はアメリカ中国に次いで世界で3番目に躍り出ることになる。憲法9条で軍事力の放棄を謳い、自衛隊という「自衛力」の保持をギリギリのところで守ってきた日本が、核を保有するロシアやイギリスやフランスを大きく抜いて、世界3位の軍事大国になってしまうのだ。

 防衛省OBで小泉、麻生政権などで内閣官房副長官補を努めた柳澤協二氏は、戦後、日本は日米安保体制を基盤としながら独自の防衛力は抑制してきたが、今回の転換によっていよいよ米軍との軍事的一体化を進め、日本自身のより攻撃的なポジションを明確にすることになると指摘する。また、これまで特定の敵を作らない方針でやってきた日本にとって、今回の政策転換により中国包囲網に積極的に加担していくことになるだろうとの見方を示す。

 問題はそれらの政策転換によって、日本に住むわれわれがより安全になるのかどうかということだ。そこの議論や説明が十分なされないまま、負担だけを強いられるというのは、どう見てもおかしい。実際に、敵基地攻撃能力を担保するものとして、巡航ミサイルのトマホークを500発購入するというような勇ましい話が飛び交っているが、旅客機なみの速度しか出ないため現在の技術では容易に迎撃ができてしまうトマホークに通常弾頭を装填したミサイルをいくらか保有しただけで、敵基地攻撃能力を持ったことになるのか、あるいはそれで敵からの攻撃を抑止するだけの威嚇になるのかは、はなはだ疑問だ。

 東京新聞で防衛省を担当する川田篤志記者は、直近で防衛省、自衛隊が保有しようとしているミサイルでは抑止力としては不十分かもしれないが、抑止力を持つことを目標とする限り、今後より破壊力の強いミサイルを保有する方向に向かっていくことは必至で、やがて歯止めが利かなくなることが懸念されると語る。

 何のために日本は戦後の防衛政策を大転換しようとしているのか。その転換とは何から何への転換なのか。その転換によってどんなメリットがあり、新たにどんなリスクが生じるのかなどについて、柳澤氏と川田記者とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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