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2017年04月29日公開

ビッグデータに支配されないために

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第838回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

2007年一橋大学大学院法学研究科博士課程修了。駿河台大学法学部准教授、ハーバード大学ロースクール客員研究員等を経て13年より現職。法学博士。著書に『プライバシー権の復権・自由と尊厳の衝突』、『ビッグデータの支配とプライバシー危機』など。

著書

概要

 どうやらわれわれが望むと望まざるとにかかわらず、今やわれわれの個人情報は丸裸にされているらしい。

 アメリカの情報機関職員だったエドワード・スノーデンが、アメリカ政府が外国人のみならずアメリカ国民をも広範に監視対象に置いていたことを内部告発して世界に衝撃を与えたことは記憶に新しいが、今やそれは政府に限った話ではなくなりつつある。いやむしろ、民間のネット事業者などが政府に一般市民の個人情報を提供していたところに根本的な問題があると言った方が、より正確なのかもしれない。

 昨年の大統領選挙で大方の予想に反してドナルド・トランプが大本命のヒラリー・クリントンを破ったが、その大番狂わせの背後にはケンブリッジ・アナリティカというコンサルティング企業のビッグデータ分析の力があったと言われている。同じく昨年の英国のEU離脱の国民投票でも、ブレグジット派(EU離脱派)が同社のデータ分析を活用していたことが明らかになっている。宣伝文句を額面通りに受け止めるべきではないだろうが、同社によるとSNSなどから集めたビッグデータを彼らが独自に開発したアルゴリズムにかければ、どこにどのような情報をどのくらいの量撒けばどれだけの票を動かせるかが、かなりの精度で見通せるのだそうだ。

 民主主義の根幹を成す投票行動でさえビッグデータに支配されているのであれば、われわれの消費活動に影響を及ぼすことなど朝飯前であろうことは想像に難くない。プライバシーや個人情報と言えば個人を特定できる氏名や住所、誕生日などが真っ先に思い浮かぶが、どうやらビッグデータ時代のプライバシーはわれわれの想像を超えるほど広範な個人情報が含まれていると考えておいた方がよさそうだ。

 奇しくも来たる5月30日、日本では改正個人情報保護法が施行される。元々、現行の個人情報保護法は2003年に制定されたもので、ソーシャルメディアやビッグデータなどの存在を前提としていないものだった。そのため、スマホなどの通信端末はもとより、家電までがインターネットにつながるようになった今日の状況にはまったく対応できていないとの指摘が根強かった。

 今回の改正で個人情報の保護が、インターネット時代により適合したものにアップデートされることは歓迎すべきこと。しかし、どうやら時代は更にその先を行っているらしい。

 ビッグデータやプライバシー問題に詳しい中央大学総合政策学部の宮下紘准教授は、ビッグデータ時代の個人情報保護で最も問題となるのが、方々から集めた膨大なデータから個々人の自画像を勝手に作り出すプロファイリングと呼ばれる作業だと指摘する。本来われわれのインターネットの閲覧履歴や商品の購入履歴、クレジットカートやポイントカードを利用した消費履歴などのデータは、いずれも本人の同意がなければ転売や利用ができないことになっている。しかし、実はわれわれの多くがネットサービスやカードなどを利用する際、プライバシー・アグリーメントというものに同意している場合が多い。会員サイトへの登録を申し込む際に、長々とした文言が画面に表示され、最後に「同意する」にチェックをつけるあれだ。しかし、あれに同意した瞬間にわれわれは、自分たちに関する情報の転用や転売に同意してしまっている場合が多い。

 実際、プライバシーアグリーメントをすべて読む人はほとんどいないだろうが、事業者側からすればそこで「オプトアウト」と呼ばれる「離脱する権利」を提供してあり、われわれがそれを放棄した形になっている場合が多い。

 EUとアメリカではそれぞれ異なる立場から、ビッグデータ時代の個人情報の保護の在り方が整備されていると宮下氏は言う。ここで言う個人情報とは、単に氏名や生年月日だけではなく、今や収集が容易になったウェブサイトの閲覧履歴や消費履歴、SNSで「いいね」をクリックした投稿内容など広範にわたるものだが、プライバシーの保護に重点を置くEUでは個人情報の利用を認める明確な意思表示がない限り、事業者による個人情報の利用を禁ずる「オプトイン」方式が採用され、表現の自由やビジネス利用を推進する傾向がより強いアメリカでは、個人があえてノーの意思表示をしない限り情報の商業利用を可能とする「オプトアウト」方式が採用されているという。

 ところが「プライバシー」についての明確な定義が確立されていない日本では、事業者の自主規制・自主管理に委ねられているのが実情だ。

 広範な個人情報が容易に転用されてしまえば、例えば投票行動も消費行動も、われわれは自分で考えて自分で選択をしているつもりでも、実は自分自身に関する膨大な個人情報を蓄積している事業者の思いのままに操られてしまっている可能性が出てくる。アマゾンがいつも自分が欲しかったものをドンピシャで提案してくれると感じる人は、実は自分の過去の購入履歴や閲覧履歴のみならず、SNSの「いいね」履歴や「シェア」履歴、ウェブサイトの閲覧履歴やラインの投稿やメールに頻繁に登場する単語までモニターされ、ビッグデータとして蓄積されていると考えれば、納得がいく人も多いのではないか。

 この問いかけは、そもそも選択とは何なのか、自由意志とは何なのかにも関わってくる重大な問題を孕んでいる。われわれはここらで一度立ち止まって考えないと、取返しのつかない局面を迎えているようにも思える。いや、今、自分がそう考えているのも、何かによってそう仕向けられた結果なのだろうか。ビッグデータに心の中まで支配されないために今、われわれに何ができるかを、気鋭の政治学者宮下紘氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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