なぜ日本は世界から指弾される象牙取引をやめられないのか
認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金事務局長/弁護士
1962年兵庫県生まれ。91年京都大学法学部卒業。93年弁護士登録。98年虎ノ門・森の風法律事務所を設立。2009年認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金事務局長。著書に『オオヒシクイの裁判が始まった』。
第11回のセーブアースは野生のトラやゾウの保護にあたっているNPO法人トラ・ゾウ保護基金の坂元雅行氏をゲストに、象牙の国内取り引きを禁止できない日本が国際的な規制の足を引っ張っている現状や、野生動物保護を進めるために何が必要なのかについて議論した。
絶滅危惧を指定しているIUCNのレッドリストは2021年版でアフリカのマルミミゾウとサバンナゾウを、象牙目的の密猟によって絶滅の恐れがそれぞれ「極度に高い」種、「非常に高い」種に指定している。アジアゾウも生息地破壊などで深刻な状況にある。1989年にはワシントン条約によって象牙取引規制のための国際的な枠組みが作られたが、政情が不安定で象牙がテロ組織の資金源にもなっている中部アフリカで行われた調査では、2003年から11年にかけて増加していたゾウの密猟死が2011年から19年には高止まりしていること明らかになっている。
ゾウの絶滅危機に瀕し、世界各国が国内市場を閉鎖し、象牙の取り引きの禁止で足並みを揃えている。2016年のアメリカ、2017年の中国に続き、英国、シンガポール、オーストラリアが国内の象牙市場を閉鎖している。2022年にはEUも閉鎖に踏み切った。
その一方で、日本には今も象牙市場が存在し、大量の在庫が取り引きされている。政府は国内で流通する象牙はすべてワシントン条約が締結された1989年以前に輸入されたものだと主張しているが、それを証明する仕組みは極めて杜撰だ。近年では簡単に象牙を入手できる日本から、他国への象牙の持ち出しが増えているという。トラ・ゾウ保護基金によると、中国では2012年12月から22年1月までの約9年間に、日本からの象牙密輸事件が49件発生し、その数は2010年から増加したまま近年も高止まりしていることが、裁判記録からわかった。そのうち18%にあたる8件は日本人と中国人が、2件では日本人のみによる事件だったという。日本が国内の象牙市場を閉鎖しないことが中国の需要を刺激し、国際的な流れに水を差しているのだ。
また番組ではトラ・ゾウ保護基金がゾウと同様に保護活動の対象にしているトラの保護実態についても議論した。トラの保護は2010年のトラ年に合わせてロシアで開かれたトラサミットにおいて、次の12年間で3,200頭から倍増させる目標が合意され、実際いくつかの国では増加傾向にある。しかし坂元氏によれば頭数が回復しているとされるインドなどの国の調査手法は必ずしも正確に実態を反映しているとは言えないという。またミャンマーで22頭、カンボジア、ラオス、ベトナムでは0頭にまで減少するなど、東南アジアを中心に顕著な減少がみられる地域もある。これは密猟に加え、開発などで生息地が分断されたことに主な原因があると坂元氏は言う。
坂元氏はゾウやトラといった野生動物の保護は単に特定の種を絶滅から保護するだけでなく、広大な生息地を必要とするゾウやトラが守られていることが、他の野生動物の生息と生物多様性を象徴する意味でも重要だという。生息地の破壊に加え地球温暖化の脅威にも晒されている野生動物を保護するためには、より一層国際的な努力を進めることが必要だ。しかし、日本は未だに象牙の国内取引を禁止することすらできていない。
日本の現状について、坂元雅行氏と環境ジャーナリストの井田徹治が議論した。