資源開発による森林破壊が先住民の生活を脅かしている
FSCジャパン事務局長
第27回のセーブアースは、気候変動によって危機的な状況に陥っている中央アフリカの貧困国チャドの井田徹治による取材レポートをお送りする。
世界に30カ国ほどある最貧国の1つであるチャドは、2013年ごろからイスラム教原理主義の過激派組織ボコ・ハラムによるテロが頻発し、国内の政情は不安定な状態が続いている。さらにここ5年ほどは気候変動によるチャド湖周辺での洪水被害が相次ぐなどして、国民生活、とりわけ人口の約4割を占める貧困層に大きなダメージを与えている。
ボコ・ハラムは国内の政情不安を引き起こす目的で、意図的に一般住民を巻き込んだテロを狙うため、国内にはテロの恐怖から逃れるために大量のIDP(国内避難民)が生まれている。国内避難民は移住先でもともとそこに住んでいた住民との間に摩擦を生じさせる。
また、多くのチャドの人々に生業を提供してきたチャド湖にボコ・ハラムの拠点ができたため、チャド湖での漁業が困難になったことで、元々深刻だったチャドの貧困はさらに悪化している。生活苦からボコ・ハラムに加わる人も増える悪循環も起きている。
その上、チャドの貧困に気候変動が拍車をかけている。2024年の洪水は、チャド全域で150万人ほどが家を追われ、何百人もの犠牲者を出したほか、家畜や農地にも甚大な被害を与えた。洪水で生業を失った人々がIDPになったり、ボコ・ハラムに加わらざるを得なくなるなど、気候変動がテロと貧困化の悪循環をさらに加速させているのだ。
先進国としては、まずは実効的な援助が重要だ。今回の取材報告では、先進国からの援助で導入された太陽光発電で得られた電力を使って、地下水を汲み上げた給水塔が整備されたことで、人々の生活が安定した実例が紹介された。こうしたインフラは比較的安価で整備が可能であり、多くの人の生活を安定化することに寄与することができる。
さらに、気候正義という観点も忘れてはならない。気候正義とは、先進国による大量の温室効果ガスの排出によって引き起こされた気候変動が、ほとんど温室効果ガスを排出していない発展途上国の人々に甚大な影響や被害を与えるという不公正な構図の是正を求める考え方。今年の11月にアゼルバイジャンで開催された第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)でも、途上国やNGOの人々がこの言葉を度々キーワードとして口にしていたと井田は指摘する。
気候正義の考え方では、先進国が気候変動の影響に苦しむ途上国、貧困国の人々へ適切な援助を行うことは緊急性を有する義務になる。
チャドの人々が置かれている状況を、テロと貧困と気候変動という観点から、現地での写真も交えて井田徹治と新井麻希が議論した。