国際的な野生動物保護に逆行する日本の象牙市場は閉鎖するべきだ

弁護士、認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金事務局長


1962年兵庫県生まれ。91年京都大学法学部卒業。93年弁護士登録。98年虎ノ門・森の風法律事務所を設立。2009年認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金事務局長。著書に『オオヒシクイの裁判が始まった』。
ウナギに絶滅のおそれがあるとして、EUは国際取引の規制対象にするようワシントン条約への掲載を提案する方針を固めたという。実際に提案が行われれば今年の11月から12月にかけてウズベキスタンで開かれるワシントン条約の締約国会議で採決されることになる。
日本は同じくウナギの消費国である中国、韓国らとの共同戦線でこの提案に反対の論陣を張っているが、もしウナギの捕獲が規制されることになれば世界で流通するウナギの約7割を消費している日本で、これまでのように誰もが簡単にウナギを食べることはできなくなる可能性が出てきている。
2025年の11月から12月にかけて、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約=CITES)の第20回締約国会議がウズベキスタンのサマルカンドで開催されるのに合わせて、日本国内でもワシントン条約に対応する「種の保存法」改正法案が、2026年通常国会に提出される見通しだ。しかし、ことワシントン条約に関する限り、日本はかつて大きな国際問題にもなった捕鯨のほか、今回の問題となるウナギでも世界最大の消費国で、加えて象牙やベッコウなどワシントン条約で保護の対象となっている製品が依然として流通していることが度々問題視されてきた。日本は保護を推進する側ではなく、むしろ規制される対象となっているケースが多い。
ワシントン条約とは第二次世界大戦後、世界の急速な復興に伴い公害や環境問題が浮上する中、野生動植物の商業取引が乱獲を招いている事態に対応するために、1973年に米国のワシントンで採択された条約だ。1975年に発効してから今年でちょうど50年となる。世界の主要な国々のほぼ全てが批准しており、日本も1980年に批准している。
しかし、今回のウナギの例に見られるように、日本はワシントン条約の枠組みの中では問題児扱いされることが多かったと、NPOトラ・ゾウ保護基金事務局長の坂元雅行氏は語る。例えば、附属書に登録された種に対しても、各国は留保をつけることで、留保を撤回するまでの間はその種の取引については条約締結国ではない国と同様に扱われるが、日本は条約批准時に9種に留保をつけ、それが現在は25種にまで膨らんでいる。そもそも留保は、国内での体制の整備に時間がかかる場合に猶予期間として持ち出されるものであるのに、日本は一部の種に関して取引規制を受けることを忌避するために留保を持ち出しているという批判がある。
また象牙取引についても日本は後れをとっている。ワシントン条約は1990年に象牙の輸出入を原則禁止し、さらに2016年に行われた第17回締約国会議(COP17)では、アフリカゾウの保護のために、各国に対して国内象牙市場の閉鎖が勧告された。しかし、日本政府は現在国内で流通している象牙は禁止される以前に国内に持ち込まれたもので、密猟や違法取引には関与していないと主張することで、主要国の中でほぼ唯一、国内市場を閉鎖していない。ところが、違法に輸出入された象牙の情報を集約したワシントン条約ゾウ取引情報システムによると、2010~19年に押収された違法な象牙の件数のうち日本が関与しているものは257件で、総重量は3.3トンにも及ぶ。
日本は1980年代に条約を軽視するような態度を取っていたことに対する批判を受けて国内体制の整備を進め、1992年には第8回締約国会議を京都で開催している。この頃から日本はワシントン条約の締約国の中では「優等生」になったという自己評価を下しているが、実際には日本の言い分は国内産業の視点に基づくものが多く、グローバルな視点で見ると説得力に欠けるものが多いと坂元氏は指摘する。
今年の11月から12月にかけて行われるCOP20では、EUがウナギ全種をワシントン条約の附属書Ⅱに掲載することを提案することを検討しているほか、象牙も再び議題にのぼると見られている。時を同じくして日本ではワシントン条約に対応する「種の保存法」の改正法案が2026年通常国会に提出される予定で、坂元氏はこれが国内象牙市場を閉鎖する好機になると語る。ウナギにしても象牙にしても、「優等生」を自任する日本が今後、ワシントン条約の枠組みの中でどのような政策を実行していくかに対して、世界の厳しいまなざしが注がれている。
そもそもワシントン条約とはどのようなものなのか。そしてその中で日本は今までどのような存在であり、また今後どのような存在であるべきなのか。トラ・ゾウ保護基金事務局長の坂元雅行氏と環境ジャーナリストの井田徹治、キャスターの新井麻希が議論した。