世界の潮流に逆行する日本のエネルギー政策の現状
自然エネルギー財団シニアマネージャー
1973年東京生まれ。98年一橋大学社会学部を卒業。2005年東京水産大学(現・東京海洋大学)海洋科学技術研究科修士過程修了。11年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。同研究科特任助教、中央大学法学部助教、准教授を経て21年より現職。15年よりIUCN(国際自然保護連合) 種の保存委員会ウナギ属魚類専門家グループ委員。専門は保全生態学。著書に『ウナギの保全生態学』『結局、ウナギは食べていいのか問題』など。
地球環境について考えていくセーブアース。第7回の今回は「ウナギ」を取り上げる。
ウナギは2014年にIUCN(国際自然保護連合)によってジャイアントパンダなどと並んで2番目に絶滅の可能性が高い種に指定されたが、個体数が少ないものの手厚い保護を受けているパンダと比べると、個体数が多い半面適切な保護を受けられていない。ではどのようにウナギを保護すれば良いのだろうか。
一般に天然の水産資源には再生産速度と呼ばれるものがあり、消費速度がそれを上回らなければ資源を持続的に利用することが可能になる。だから資源を保護するためには、再生産速度を上げると同時に、消費速度を落とさなければならない。特にウナギの場合、人間が壊した生育環境を取り戻すことが重要だと、中央大学法学部教授でIUCNの種の保存委員会で委員を務める海部氏は述べる。具体的には川を遡上する上での障害となるダムや堰などを除去したり、コンクリ―トによる護岸で失われたウナギの隠れ場所などを取り戻すことなどだ。
また海部氏は、現在広く行われているウナギの放流が産卵に結びつくことを証明する科学的なデータは存在しないと語る。古くは明治期から行われてきたウナギの放流は現在も各地で続いているが、海部氏の研究によれば、河川に放たれた養殖ウナギは天然ウナギとの種内競争において劣位にあり、実験では天然ウナギから攻撃を受けるなどするため生残率も低い結果が出ているという。さらに、養殖場の密集した環境で生育したウナギは病原体に弱いため、実際にアメリカやヨーロッパでは養殖ウナギを放流した結果、感染が河川全体に広がった事例も存在するという。漁業者によるこの放流には、かけるコストに対してどれだけの利益があるのかの検証が不十分だと海部氏は言う。
また養殖についても問題がある。2015年には中国や台湾、韓国、日本の4か国の非公式協議によるシラスウナギの池入れ量の上限が設定されたが、4か国の割当量の上限である78.8トンは実際の池入れ量の約40トンほどと比較しても2倍ほどの数字に設定されているなど、制限としての意味をなしていない。昨年助言を行う専門家会議が設立されたが、未だ十分に機能しておらず、取りたい放題がまかり通りっているのが実情だ。
ウナギは食文化の面でも注目度が高い。しかし単に人間がウナギを食べることができなくなるということ以上に、ウナギは捕食者として河川の生態系における重要な役割を果たしていることも忘れてはならない。海部氏はウナギを守ることは河川全体の生態系を守ることだと語る。
ウナギが減り続けている原因や取るべき対策、生態系における役割などについて海部氏と環境ジャーナリストの井田徹治が議論した。