たとえ茨の道でも気候危機に立ち向かう1.5度目標を堅持しなければならない
地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動ユニットリサーチディレクター
1985年北海道生まれ。2008年早稲田大学社会科学部卒業。 アウトドアブランド「パタゴニア」勤務を経て、2018年に一般社団法人Protect Our Winters Japanを設立(2019年より本格活動開始)。以来、現職として雪と気候変動に関する啓発・実践活動に従事している。
ここにも地球温暖化が暗い影を落としている。
来月2月6日から、イタリアのミラノとコルティナ・ダンペッツォを舞台に開催される冬季五輪の舞台裏で今、深刻な「雪不足」が大きな影を落としている。
前回の北京大会では、競技会場のほぼ100%を人工雪に頼るという異例の事態となったが、今回のイタリア大会も同様の状況に陥ることが避けられそうにない。気候変動による雪の減少は確実に進行しており、ウィンタースポーツの前提条件そのものが揺らぎ始めている。
「雪不足」という言葉からは、単純に積雪量が減ることをイメージするかもしれないが、高田氏は、降雪量の減少と同時に進行している「ドカ雪」のリスクを指摘する。
気温上昇によって海水の蒸発が進み大気中の水分量が増加することで、寒気が残る地域では短時間に集中して大量の雪が降る現象が起きやすくなっているからだ。一定のペースで積もる雪であれば除雪や管理も対応可能だが、突発的な豪雪はスキー場の運営を麻痺させ、交通網の寸断や雪崩などの災害リスクをも高めることになる。「雪が減る」という長期トレンドの中で、「雪による被害」はむしろ激甚化しかねないというパラドックスが起きているのだ。
日本でも積雪量が長期的に減少傾向にあることは、気象庁のデータで明らかになっている。特に西日本や標高の低い地域のスキー場では、営業期間の短縮や閉鎖が相次いでいる。
日本が世界に誇るパウダースノーは、海外の愛好家から「JAPOW(ジャパウ)」と呼ばれ、北海道や長野には多くのインバウンド観光客が訪れてきた。しかし、雪が降らなければスキー場は営業できず、それに依存する宿泊施設、飲食店、交通機関など、地域経済全体が立ち行かなくなる。雪という「資源」を失うことは、単なるスポーツやレジャーの問題にとどまらず、日本の観光立国としての魅力そのものを損なう国家的損失にもつながる話なのだ。
こうした危機感の中で生まれたのが、POW(Protect Our Winters)だ。2007年、世界的スノーボーダーであるジェレミー・ジョーンズ氏がアメリカで立ち上げたこの団体は、「冬を守る」ことを合言葉に、ウィンタースポーツに関わる人々が気候変動に対して行動を起こすプラットフォームとして機能してきた。
日本でも2019年にPOW Japanが本格活動を始め、高田氏は立ち上げ当初から事務局長として活動を牽引してきた。POWの特徴は、政府やトップダウンの政策だけに頼るのではなく、地域コミュニティや「滑り手」たちが主体となって動く点にある。スキー場やアウトドア企業と連携して再生可能エネルギーへの転換を促したり、観光客がリフト券の購入などを通じて自然保全に参加できる仕組みを作ったりと、ユニークな取り組みを展開している。
雪国で生まれ育ち、30年近くスノーボードを続けてきた高田氏自身、毎年のように雪質の変化やシーズンの短縮を肌で感じているという。「このままでは、次の世代が雪遊びすらできなくなるかもしれない」。科学的データと現場での実感が重なり合ったその危機感が、活動の原動力だ。
雪をめぐる問題は、気候変動の影響が最も可視化されやすい象徴的なテーマだ。豊かな冬を守ることは、地域の暮らしや文化、そして未来の選択肢を守ることにもつながる。個人や地域が連帯し、社会を変える大きな「うねり」をどう生み出していくのか。
今回の「セーブアース」では、雪とウィンタースポーツを切り口に気候変動問題に取り組む、一般社団法人Protect Our Winters Japan(POW Japan)事務局長の高田翔太郎氏をゲストに迎え、環境ジャーナリストの井田徹治、キャスターの新井麻希と共に、雪の現場で起きている異変と、未来を変えるためのアクションについて議論した。