2016年2月13日
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大統領選予備選のカギを握る特別代議員という複雑怪奇な制度

ニュース・コメンタリー (2016年2月13日)

 先週アイオワ州でスタートした米大統領選挙の民主・共和両党の候補者選びは2月9日、ニューハンプシャー州で予備選が行われ、民主党は上院議員のバーニー・サンダース候補が、共和党は不動産王のドナルド・トランプ候補がそれぞれ勝利した。

 いや、少なくとも報道ではそうなっていた。特に民主党は、隣のバーモント州選出のサンダース候補が60%の票を集め、39%のクリント候補に圧勝したことが伝えられている。

 ところが、ニューハンプシャー州予備選でサンダース候補が獲得した代議員の数は12だったのに対し、クリントン候補は15人の代議員を獲得している。代議員の獲得数では得票率とは真逆の結果となっているのだ。

 予備選挙は、両党ともより多くの代議員を獲得した候補が、7月の両党の全国大会で正式な大統領候補となる。その意味では、予備選挙というのは代議員獲得レースと言い換えていい。なぜ1.5倍もの得票をしたサンダースが、クリントンに代議員獲得数で負けるようなことが起きるのか。そこにはアメリカ大統領選挙特有の「特別代議員」の存在がある。

 大統領選挙における両党の候補者選びは、各州で予備選もしくは党員集会が行われ、候補者は得票に応じて、それぞれの州に人口比例で割り当てられた代議員を獲得していく。民主党は総数にして4,763人の代議員が、共和党は2,472人の代議員がいる。そのため、7月の全国大会で民主党は過半数に当たる2,382人以上の代議員を、共和党は1,236人以上の代議員を獲得した候補者が、それぞれ党の正式な大統領候補になる。3人以上の候補が乱立し、誰も過半数に満たなかった場合は、上位2名による決選投票となる。

 ところが、この代議員制度が少々ややこしい。なぜならば、代議員には一般代議員と特別代議員の2種類の代議員が存在し、特別代議員が、かなり特別な力を持っているからだ。

 一般代議員はその州に住む18歳以上の党員であれば、誰でもなれる。自ら申請をして代議員に登録するが、その際に、自分が支持する候補の名前を明記しなければならない。そして、党員集会や予備選挙の結果を受けて、その州に割り当てられた代議員数が得票に応じて候補者の間で配分され、自分が支持した候補が勝ち、自分が正式に代議員に選ばれると、7月の全国大会に出席し、代議員として一票を投ずる権利を得る。ただし、全国大会では当初から自分が支持してきた候補者に投票しなければならないという縛りがある。一般代議員には途中で心変わりは許されていない。(州によって得票率に合わせて代議員を配分する州と、投票で一位になった候補者がその州に割り当てられた全ての一般代議員を獲得する「ウイナー・テークス・オール」の州が各党ともそれぞれある。)

 また、代議員に選出されても党大会への旅費や滞在費はすべて自前なので、誰でもなれるとはいえ、通常は熱心な党員であり、いずれかの候補の熱烈な支持者の場合が多い。党の正式な大統領候補が決まる両党の全国大会のあの熱気はそこからくる。

 しかし、予備選挙にはもう一つ、特別代議員という特別な権限を持った人たちがいる。これは、その州選出の連邦上下両院議員、州知事、歴代の正副大統領、党の幹部などで、要するにその州における党の重鎮、お偉さんたちだ。正副大統領というのは、たまたま過去の正副大統領の中にその州の住民がいればという意味だ。また、上下両院議員や知事も、各州に必ず両党選出の上院議員や州知事がいるとは限らないことから、特別代議員の数は州によってかなりのばらつきが出てくる。ちなみに、日本語では特別代議員と訳されているが、英語ではsuper delegate(一般代議員はただのdelegate)と呼ばれているので、直訳するとさしづめ超越的代議員といったところか。

 特別代議員はその超越的権限を使って、自らの意思で支持する候補者を決めることができる。一般の代議員と異なり、予備選挙の結果に拘束されないのだ。しかも、一般の代議員が申請時に支持する候補を決め、その後もその候補に拘束されるのに対し、特別代議員は党大会まで自らの意思を決めなくてもいいことになっている。いきなりぶっつけ本番が許されているし、直前の心変わりもアリなのだ。

 民主党には代議員総数4,763に対し、712人の特別代議員がいる。共和党も代議員総数2,472に対して、126人の特別代議員がいる。その数は民主党で15%、共和党5%に過ぎないが、今回のように圧倒的に強い候補が不在で接戦になった場合や、多数の候補が乱立した場合などは、特別代議員の意向が候補者選びの結果を左右する可能性は十分にある。

 また、今回の選挙では民主、共和両党とも、サンダース、トランプといった党の本流とは程遠い候補者の台頭が目立っている。しかし、特別代議員はそもそも党の中枢に鎮座する幹部であることから、党の主流派の候補者を支持する傾向が強い。今回、サンダースが得票ではクリントンを圧倒していながら、代議員の獲得でクリントに敗北した理由は、6人の特別代議員がクリントン支持に回ったからだった。

 米大統領選挙の特別代議員という特異な制度とその意味について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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